第12話 邂逅
目覚めの明星との対話を試みる。
そう決めたものの、それから目覚めの明星はなかなか現れなかった。
家族で配給を受け、その後にアカネと合流して方針を話し合う。
そんな日々が繰り返されていた。
「……アサヒさん、お願いがあります。」
アカネの顔は真剣そのものだった。
「私は、まだ自分の目で港湾地区を、私達のしてしまった事を、見ていません。……行って、この目で確かめたいのです。」
その言葉を真っ直ぐに受け止める。
「……分かった。行こう。」
本当は行きたくなかった。
あの日の光景が脳裏を過ぎった。
海面に浮かぶ様々な色が、それが何だったのかを、確認したくなかった。
雨の中で見た、絶望した人の顔を、思い出したくなかった。
けれど、目を背けているだけでは駄目だと思った。
私は、私の罪を、きちんと受け止めなければならない。
港湾地区に近づくに連れて、異臭が鼻を突いた。
吐き気を催す、強烈な異臭。
そして、肌に纏わり付く様な、重い空気を感じた。
港湾地区に人影は無かった。
近付いてはいけない、と、本能的に感じた。
私達は顔を見合わせ、頷き合う。
戦闘を行った、港の在った場所へと、足を進めた。
「あ……」
港だった場所に空いた大穴の前で、膝を付き手を顔の前で結び、祈りを捧げている、長い金髪の女性が居た。
祈りを邪魔しない様、少し離れた所で足を止める。
「……ただ、生きていたいと、そう、願っていた筈なのに、どうして、そんな当たり前の願いが、叶わないのだろうな。」
波の音だけが響く場所に、祈りを捧げる女性の声が風に乗って届く。
その言葉は、私達に向けられていた。
「……目覚めの明星の方、ですね。」
アカネが一歩前に出る。
「……ああ。お前達の敵、破壊と死を、齎した者だ。」
「違う!……これは、私が、引き起こしたんだ……」
声が震えていた。
喉が乾いていた。
目の奥が熱かった。
「……だったら、どうするのだ?魔法少女。」
祈りを終え、立ち上がり、振り向く。
長い、束ねられた金髪が靡く。
「……話を、させてください。……私達は、これまで、貴方がたを知ろうとしませんでした。……その事が、私達の罪です。」
女性がこちらへと歩き出す。
その目に敵意は無かった。
「……あの時、私が光に喰われ、消えたのは覚えているな?」
ごくり、と、喉が鳴った。
「……ああ、覚えている。」
私の返答を聞き、静かに目を閉じる。
波の音だけが、重い空気を揺らしていた。
「……ここは虚構の世界。人々の見ている夢なんだ。……そして、その夢を、娯楽として消費している者達が居る。……私達は、その構造を破壊し、人々の解放を願う者。」
ゆっくりと開かれた目は、少し俯いていた。
「……そんな理想で動いていたのだがな。……この有り様だ。テロリスト、と呼ばれても、否定できない。」
「……貴方は、この状況を望んでいない、と、そう伺いました。」
「ノクティアだ。私達の組織は告醒会と名乗っている。……目覚めの明星は実行部隊を指す名だ。」
彼女の目が海へと向けられる。
「こんな状況を、我々は――いや、少なくとも私は、望んでいない。」
「……ノクティアさん、私達二人を、目覚めさせて頂けませんか?私はアカネ。こちらがアサヒです。」
その依頼に、息を呑む。
「アカネ、何を言って……」
「アサヒさん、私達がその話を信じる為には、目覚めてみるのが一番だと思うのです。外から見ないと、自分達の立っている場所すら分からない。それに、ノクティアさんがここに居るのですから、出入りできる、と言う事です。」
アカネが微笑む。
ノクティアが、ふっと笑みを零す。
「良いだろう。明日の午後三時に二人を目覚めさせよう。人気の無い場所に居てくれ。……目覚めは、苦しいぞ。覚悟しておいた方が良い。」
「……分かりました。お願い致します。」
アカネの隣で頷く。
「私はこれから二人の身体を探そう。」
遠くを見る様に、その視線が展望台のあった方へと向けられる。
その長い髪が、風に揺れる。
「……数が多くてな。約束の時間までに見つけ出そう。」
こちらを向き、憂いを帯びた笑みを浮かべる。
彼女の身体が風に溶ける様に揺らぐ。
「次は夢の外で。また会おう。」
揺らぎが大きくなり、その姿が風に消える。
彼女のいた場所を、暫く眺めていた。
そして、覚悟を決め、私は前に歩き出す。
「……アサヒさん?」
「……私のした事だから。私も、きちんと祈りたいんだ。」
港だった場所に空いた穴には、波の運んだ影が漂っていた。
その姿を目に焼き付け、ひざまずき、両手を結ぶ。
許して欲しい、なんて事は言えない。
ただ、私を憎んで欲しい、と。
もし、この悲劇を、娯楽として消費している奴らが居るのなら、みんなの憎しみを、必ずそいつらに届けてやる、と。
そう、祈った。
穏やかな波の音だけが響いていた。




