第10話 挫折
医務テントを出ると、ルミナスが私を待っていた。
「ノクティア、体調は大丈夫か?」
「……。」
ルミナスの顔を直視できず、顔を背ける。
「……何故、強制的に私を目覚めさせた。」
「……あの惨状だ。あの場に居続けるのは辛いだろう、と。」
「ルミナス!……本当の事を、話してくれ……」
握った手が小さく震えた。
「……私を、その名で呼ばないでくれ。……私はもう、光などでは無いのだ。」
「え?」
予想外の返答に、顔を上げる。
「……すまない。私も、疲れている様だ。忘れてくれ。」
ルミナスは俯いていた。
「……ノクティアも、暫く休んだ方が良いだろう。」
ルミナスは私の顔を見ないまま、振り返る。
「……もし可能なら、今回目覚めた者達を、気に掛けてやって欲しい。……皆、まだ不安の中に居る。」
私は、去っていくルミナスの背を、呆然と見詰めていた。
駅前の広場で、消防、警察、軍、役所の職員が中心となって、災害支援をしていた。
水を積んだ車両が並び、人々がそれに並び、持参したタンクに水を注ぐ。
父が水を貰いに並び、私は母と食料の配給の列に並んでいた。
配給を積んだトラックの上で、ミミが気持ち良さそうに眠っていた。
「……。」
私達の力は、変身に依って、ミミを纏う事で使える力だ。
……ミミは、力の余波を、目覚めの明星が防いでいた事を知っているのだろうか。
もし、知っていたのなら、私達は、本当に、正義の味方なのだろうか。
自分達の番になり、母と配給を受け取る。
父はまだ列に並んでいた。
「アサヒさん!」
「アカネ?!」
アカネが手を振りながら駆け寄ってくる。
その後ろから、アカネの両親が笑顔で歩いてくる。
「アサヒさん、ありがとうございます。家まで送ってくださった、と。」
アカネの笑顔に、俯く。
「アサヒさん?」
「アカネ、話したい事があるんだ。……後で、会えないか?」
アカネの顔が真剣な表情に変わる。
「……分かりました。今は、私達も配給を受けて来ますね。」
アカネの家族も、それぞれ別れて列に並ぶ。
入れ違いに父が、水の入った十リットルタンクを両手に一つずつ持って戻って来る。
「やれやれ、水は重たいな。」
一度タンクを置いて伸びをする。
「……さっき聞こえたんだが、海の方は酷い状況らしい。」
父が母に向かって話すのを耳にする。
下を向き、ぎゅっと手を握る。
何もかも流された、あの光景を思い出す。
認めたくなかった。
信じたくなかった。
あの光景も、自分達の今の状況も、私が原因だ、なんて。
しかし、あれから何度考えても、やはり、私が引き起こした、と言う結論しか導けなかった。
自分一人で抱えている事に、もう耐えられなかった。
アカネに、唯一相談できる、秘密を共有するパートナーに、早く打ち明けてしまいたかった。




