涼葉side2.それぞれを想う気持ち
「えっ!プレゼントですか⁉︎」
学校を出て、近くの商店街に向かう道すがら、涼葉はびっくりした声を出した。
「うん、って言ってもそんな大袈裟なものじゃないよ?ちょっとした応援みたいな気持ちだから」
楓花が体の前で手を振りながらそう言った。
「その、さ?すぅちゃん達って、学校じゃわかんないけど、色々と大変なんでしょ?この前の義理のお父さん、だっけ?あの人の時とかもさ?」
少し言いづらそうに篠部が言う。
子供だけで、一人暮らしみたいな事をしているわけだし、二人には義父とのやりとりも見られてる。普通じゃないと思われても仕方ないだろう。
「そう、ですね。大変といえば大変なんでしょうが……その、りょういちくんと二人でなんとかやれてますので」
少し眉を落としながらそう言うと涼葉の目に、変なごまかしかや強がりといったものは見られない。
「それならいいんだけど……もし、もしもだよ?諒ちゃんがいなかったら……どうなってた?」
恐る恐るという感じで篠部がそう聞くと、涼葉は少しの間視線を上に上げて考える。
「りょういちくんがいなかったら……私はここにはいませんね。きっとあじさいの私の部屋から一歩も出ないで……一人ぼっちでいると思います」
その涼葉の言葉を聞いて、篠部も楓花も泣きそうな顔になる。
涼葉は二人に微笑みながら話した。
「りょういちくんが私を部屋から連れ出してくれたんですよ。お二人には話してませんでしたけど、私前の学校では不登校の引きこもりだったんです。親も、友達?も誰も信用できずに、今お世話になってるあじさいの人達にも心を開いてませんでしたから」
「……」
篠部達は、驚いたのか声も出せないでいる。
「義父との事はもちろん、日頃の些細な事まで……いっぱい助けて貰ったんです。だから日頃のお礼をしたいんですよ!」
あえて、最後を元気よく言った涼葉は二人に微笑みかける。言葉にはしないけど、その笑顔が自分は大丈夫なんだと言っている。
「そっかー。いや、薄々気付いてはいたんだけどね。牛島の時とかも、諒ちゃんマジでキレてたもんね」
苦笑いしながら言う篠部に、楓花も頷く。
「そう!あの時、話聞いて教室を飛び出した水篠くん、普段からは想像できないくらい、怒ってた。うーん、涼葉ちゃん愛されてるねぇ」
そう言って楓花は、涼葉の腕をツンツンとつつく。
「あ!愛され……ま、まぁ、大切に思ってくれてるのは実感してます。私も正直あの時は怖くて……よく止まってくれたなと思います」
その時の事を思い出したのか、涼葉は無意識に自分の腕を抱く。
「それは、止めたのがすぅちゃんだったからだね。すぅちゃん以外が何を言っても聞く雰囲気じゃなかったし」
真面目な顔になって篠部がそう言うと、楓花も「確かに……」と呟いた。
「そう、でしょうか?」
あの時は自分のせいで諒一に暴力を振るってほしくなくて、必死に止めたけど……
「ホント言えば、あの後怖くてずっと膝が震えていたんです。甘えておんぶしてもらいましたけど、ホントは膝がガクガクしてたんです」
そう言って俯く涼葉の両側に篠部と楓花が移動して肩に手を置いた。
「そうだよね。でも、それだけ怒ってたのに、すぐに止まったのはやっぱりすぅちゃんが大事だからだよ。それは自信持っていいんじゃないかな?」
微笑んでそう言われれば、涼葉も照れながら頷く。自分でもそれは十分実感しているのだから。
「ウフフ、愛だね。そんな二人を見るのが私達も嬉しいわけですよ。で、これからもそんな二人でいてほしいから私たちからも応援させてください」
話がプレゼントの件に戻り、楓花がそう言った。そう言われると断る事もできない。
「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね!」
そう言って涼葉が笑うと、篠部も楓花も嬉しそうに笑うのだった。
「むふー、そうなるとお揃いだよね、じゃああそこの雑貨屋さんがいいんじゃない?」
「雑貨屋さん……信号の側の?」
「そうそう!あそこ近くにファーストフードとお店も多いから、そこで色々買えばいいし」
涼葉を挟んで、どこかの話をしているが、涼葉にはもう一つ確認しておかなければいけないことがあった。
「あ、あの……プレゼントは嬉しいのですが、その、おうちに来る、のですか?」
「ダメ?」
シュンとした雰囲気を出して言う篠部に、涼葉も言葉に詰まる。そんな時だけかわいくならないでほしい。
「ダメ……と言うわけではありませんが……りょういちくんにも聞いてみないと……ご飯はりょういちくんの部屋で作ってるので」
涼葉はそう言うと、篠部はニカっと笑った。
「じゃあ大丈夫!諒ちゃんには私が無理に着いてきたって言っていいから。すぅちゃんが怒られたりしないなら問題なし!」
そう言って歩く速度をあげた。
「もう、るみちゃん」
追いかけながら、涼葉は思った。それは大丈夫なのだろうかと。
結局勢いに押されて、雑貨屋まで来てしまった。篠部と楓花は涼葉と離れ、プレゼントを選んでいる。
涼葉もゆっくりと商品を眺める。おすすめしてくるだけあって、色んな物があって、しかもかわいい。
レジの方を見ると、まだ若いお姉さんが一人立っている。あのお姉さんが選んでいるんだろうか。そう考えていると目が合って、ニコッと微笑んでくれる。
それに会釈して並んでる商品を見ていくと、一つの商品に目が止まる。
カップとソーサーが二組、一つの箱に収まっていた。一つはネイビーの中にグレーのラインが入ったカップで、涼葉的に諒一のイメージに合う。もう片方はグリーンにオレンジのラインが入っていて、涼葉が好きな配色だ。
「かわいい……」
思わず口に出すと、いつのまにか近くに来ていたお姉さんが、箱を取ってよく見せてくれた。
色合いがすごくしっくりくる。ペアカップというのがそそられるし、何よりコーヒーが好きな諒一なら使う頻度も高いだろう。
「今使ってるカップは最初から用意されていたカップですからね。おしゃれではありますけど……」
自分で買った物がやはり愛着が湧くし、諒一の部屋に自分の物があるということが何となく嬉しいのだ。
「あの、これください」
「はい、ありがとうございます!嬉しいです、選んで頂いて」
お姉さんは商品が売れたというだけとは思えないほど、暖かい笑顔で、本当に嬉しそうにそう言った。
「え?」
首を傾げる涼葉にお姉さんは、説明してくれた。
「このカップ……私が現地で選んで求めてきた物なんです。すごくいい物で、買い求めやすい値段にしているのですけど、なぜか売れなくて。誰も気付いてもくれなかったんですけど、あなたが目に止めてくれてるのを見て、思わずおススメしに近づいてしまいました」
いつのまにかお姉さんが近くにいると思ったらそういう事だったらしい。
「え、いいんですか?私が買ってしまって」
そんな思い入れのある物を私なんかが買ってしまってもいいのだろうか。思わず聞いてしまった。
「もちろんです。買ってくれて嬉しいです。さっきも言いましたけど、私のおススメなんです。プレゼントですか?」
「あ、はい。一つは私が使おうかと……」
「では……少し割引しときますね」
売れたのが嬉しいのか、お姉さんがそう言い出したのを、涼葉が慌てて止める。
「あ、待ってください。その……気持ちだけ、で。私も気に入って選んだのですし、いい物を安く売る必要はないとお 思います。なので……正規の値段で」
涼葉にそう言われて、しばしポカンとしていたお姉さんだったが、次の瞬間めちゃくちゃ笑顔になった。
「今日はいい日です。それを選んでくれただけじゃなくて、そんなに言ってくれるなんて……そうですね。気に入って選んでくれた方に理由のない値引きは失礼ですね。じゃあ心を込めて包装します。少しお待ちください」
お姉さんはそう言うと、奥からわざわざ出してきた包装紙で包み出した。
その手つきがとても丁寧で、見ていると涼葉も嬉しくなってくる。
「すぅちゃん、もう決めたの?」
見て回ってきた篠部が、レジにいる涼葉を見て、近寄ってそう聞いた。
「はい、とてもいい物に出会えましたので」
とびっきりの笑顔でそう言った涼葉に篠部もつられて笑顔になっていった。




