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涼葉side1.それぞれを想う気持ち

「ちょっと用事があって、大志と壮太と三人で寄り道してくるから」


 昼休みにのんびりしていると、突然りょういちくんがそう言いました。

放課後勝俣さんと渡さんと三人で話しながら教室を出ていくりょういちくんを見送り、帰る準備をしている時にふと思って、私はスマホを取り出した。

 

「帰りは遅くなりますか?」


 最近はりょういちくんの調理の練習も兼ねて、私が食事を作る事が多い。ご飯の支度とかもあるので、メッセージを送るとすぐに返信があった。


「そこまでは遅くならないよ。七時頃には帰るから」


 じっとりょういちくんが送ってきたメッセージを見つめる。「帰るから」の部分を見てると、何となく照れ臭くて嬉しい。


「おやぁ、すぅちゃん。今日は一人らしいからしょんぼりしてると思ったら……ニコニコしちゃってぇ。どしたの?」


 私の背中にかぶさるようにして、るみちゃんが来ました。多分勝俣さんからりょういちくんと一緒に寄り道して帰る事を聞いたんでしょう。隣には楓花さんもいます。


「ニコニコとか……してましたか?」


「してたしてた!でもよかったよ、しょんぼりしてなくて」


 いつも元気なるみちゃんの言葉に、ほんのちょっぴり影が差しました。


「心配してくれてありがとうございます。ちゃんと言ってくれてるからだいじょぶです。七時頃には帰るそうなので……」


「そっかそっか。でも……ちゃんと帰りの時間まで伝えてくれるんだね?やっぱりすぅちゃんがご飯作るからかな?」


 少しニヤニヤ笑いに変わったるみちゃんがそう言いました。


「それは……お互いに無駄は嫌いですし、りょういちくんも嫌ではなさそうなので……」


 少し下を向いてはにかみながら言う涼葉を見て、篠部の楓花は顔を見合わせて笑う。

 やはりこの少女にはこうした笑顔が似合う。もう絶対この前みたいな顔は見たくないと、そう思ってしまう。


「ところで、すぅちゃんさぁ。もう「フリ」ってかんじじゃないよねぇ?」


 一瞬何を言われたのかわからないという顔をしていたが、理解するとあっという間に顔を真っ赤にした涼葉は俯いてしまう。

 答えなど聞くまでもない反応だった。


「そっかそっか、よかったねぇ。私たちも嬉しいよ」


 そう言われ、チラリと視線を上げた涼葉が見たのは、本当に嬉しそうに顔を見合わせて笑っている篠部と楓花の姿。


 ――どうして二人が喜ぶのでしょうか。別に二人が得するようなことでもないのに……


「あの……どうして喜んでくれるのですか?」


 まだ顔を赤くしたまま、やや伏目がちに言った涼葉の言葉に、二人はポカンとする。

そして、しばらく顔を見合わせていたが、やがて納得したのか、涼葉の方を向いた時には二人とも優しい笑顔になっていた。


「ねぇすぅちゃん、私たち友達だよね?」


 篠部の「友達」という言葉に、かつてのトラウマが少しだけ痛んだが、篠部の顔を見ているとすぐに消えた。

 篠部の笑顔からは親愛の情が溢れていたからだ。


「は、はい。お友達です」


「ありがと!じゃあ、お友達がさぁ、つらそうにしてるのと、嬉しそうにしてるのでは、嬉しそうにしてるほうが見てる方も嬉しいでしょ?」


 そこの感覚が涼葉にはピンとこない。友人だからといって、相手が嬉しくても悲しくても直接影響がない限り関係ないのではないか。そう思ってしまうのだ。


 考え出した涼葉を見て、二人は苦笑いを浮かべる。


「じゃ、少し極端だけど、例え話をしようか。涼葉ちゃん、水篠くんが何も言わないけど、とてもつらそうな顔をしています。どう思う?」


 突然そんな話をしだす楓花に首を傾げつつ、素直に涼葉は楓花の言った事を考える。

 ――……考えるまでもない。りょういちくんがつらそうにしているのを見るのは私もつらい。一番つらいのは、なぜつらいのか話してくれない事だけど。


「あ、そこまで考えなくていいから!そう思うのは、涼葉ちゃんが水篠くんを大事な思ってるからだと思うんだ。それと程度は違うかもしれないけど、私たちもそれと同じものを涼葉ちゃんに感じてるっていう事だよ」


 楓花の言葉を聞いて、何となくわかってきた。諒一ではなく、相手を篠部や楓花に置き換えてみても心がキュッとなる。逆に嬉しそうにしていれば自分も嬉しくなる。

 そこでようやく、人に対しては普通にそう思うのに、自分がされるとなると、どうしても素直に考えきれずにいたと気付いた。

 ――もしかしたら過去の出来事がそうさせているかもしれませんけど……

 過去の出来事のトラウマは諒一が優しく包んで、心の奥の方にしまい込んである。


 素直に考えると、驚くほどすんなりと二人のいう事がストンと心の中に落ちていった。


「ありがとうございます。その……私、勝手に壁を作っていたみたいです。お二人にも……助けられてばっかですね」


 そう言った涼葉の口を篠部の人差し指がチョンとさわる。


「ほらぁ、また。私達が困っててもすぅちゃんも助けるでしょ?壁を感じたらいつでも言って!この篠部さんがたたきこわして見せよう」


 力こぶを作る格好をして、そう言った篠部に自然と笑顔になる。


「はい、その時はお願いしますね。」


 涼葉がそう言うと、二人も優しく微笑む。それを見た涼葉の胸の奥でもポカポカしたものを感じ、こういう事かと納得した。


「あっ、じ、じゃあ……ちょっとお願いをしてもいいですか?」


 二人の笑顔に勇気をもらったのか、涼葉が思い切ってという様子でそう言った。


 当然二人とも断りはしない。むしろ喜んでいる。


「私、りょういちくんにお礼をしたいんです。いつも助けてもらってるので……でも、いざお礼をと考えると、どうしていいのかわからなくて……二人の意見を聞かせてください」


 キュッと拳を握って涼葉が言うと、二人はお互いの顔を見合わせてさらに笑顔が深まった。


「そかそか、諒ちゃんにねぇ。でも、お礼って何に対しての?」


「その、これって特別なものじゃなくて、いつものお礼みたいな……あまり堅苦しくない感じでやりたいんです」


 涼葉がそう言うと、また篠部と楓花が顔を見合わせる。何やら目で会話しているようにも見える。

 やがてどちらからともなく頷きあうと、涼葉にこう言った。


「ねえ、すぅちゃん。今日時間ある?ちょっと私たちも寄り道しない?」


 ニコニコと笑いながら篠部が言うと、隣で楓花もうんうんと頷いてくる。


「え、えっと……晩ご飯の準備もありますので、あんまり遅くならなければ……」


「うんうん、大丈夫!今日は私達が何か買って持ち込むから。さすがに私たちの分も作ってもらうのは悪いし」


 そう言った篠部は、言うが早いか帰る準備を始めている。と、いうか……寄り道という話ではなかったか。今の感じだと家に来るような感じじゃないだろうか。


 すぐに言葉が出ないでオロオロする涼葉を、二人が背中を押して教室を後にするのだった。

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