90.それぞれを想う気持ち
「悪かったな水篠。邪魔したうえに送らせて……」
コンビニの明かりに照らされて、制服じゃないためかいつもと違う雰囲気の大志が、諒一にコンビニの袋を渡しながら言った。
「おい、何だよこれ……」
「帰って卯月さんと食べてくれ。余計な手間をかけさせた詫びだ」
「相変わらずイケメンな奴め……でも勘違いすんな?手間とかじゃない。大事な友人なんだから気にするだろ……」
今篠部と大野はコンビニのトイレに行っている。二人の前でこんな事は照れ臭くて言えないが……
それを聞いて、大志は嬉しそうな顔をして、諒一の肩を軽く叩いた。
「お前はいい奴だな。それ、コンビニ限定スイーツらしい。るみがめっちゃ美味かったって言ってたから二人でゆっくり食べてくれ」
「おう、じゃありがたく」
「二人はもう少しかかるだろう。あとは俺が責任持って送って帰るから。卯月さん、待ってるんだろ?どうせ、るみ達の前ではプレゼントも渡せてないんだろう?早く帰って渡してやれ」
「お、おう。わかった、わかったから押すな!……じゃ、後は任せた。二人によろしくな」
「おう、気をつけて帰れよ。おっとこれ」
そう言って、大志が放ってきたものを取ると、温かい。ホットの缶コーヒーだった。
「サンキュー!」
そう言って手を上げると、明る過ぎるコンビニの明かりで逆光になって見えないが、大志らしき人と、ちょうど出てきたのか、篠部と大野らしき影が手を上げる。
日中はまだまだ暑い日もあるが、朝晩はだいぶ涼しくなった。
篠部達が送ってくれた部屋着は、これからの季節を想定しているのか、わりと暖かかったが、少しひんやりする空気の中で飲む温かい缶コーヒーはやたらおいしく感じた。
マンションについて、諒一の部屋のドアを開けると、音でわかったのか、パタパタとスリッパの音と一緒に涼葉が玄関までやってきた。
「お帰りなさい、りょういちくん。あれ?何か買ってきたんですか?」
「いや、大志が買ってて、二人で食べろって。なんでもコンビニ限定の美味しいスイーツらしい」
そう言って袋を見せると、涼葉も興味深げにのぞいている。
「そういえば、少し前にるみちゃんが絶賛していたのがありましたね。絶対美味しいから食べた方がいいよ!って勧められました」
リビングに入って、袋から貰ったスイーツを出してテーブルに並べる。
「なら、これかもな。大志も篠部が美味いって言ってたって」
しげしげと眺めて、「多分そうですね。特徴が一致します」と呟いている涼葉を見て、自然に笑顔になった諒一はキッチンに向かった。
「あ、何か準備が?」
そう言って立ちあがろうとする涼葉を笑顔でとどめる。
「あ、いや。コーヒー淹れようと。飲むだろ?」
「え?」
「スイーツと一緒に」
「まだ今食べるとは……」
そう言いながら時計とスイーツを何度も見返して、脳内会議をしているらしき涼葉の微笑ましい様子を見ながら、お湯を沸かす。
そして、こっそりバッグから出したカップを取り出して、さっと洗う。
「り、りょういちくんも食べるんですか?」
脳内会議が決着したのか、窺うように諒一を見て涼葉が言う。食べる方向になっているのはわかるが、どうやら諒一に最終判断を委ねたらしい。
「せっかくだから食べようかな、と。あとコーヒー豆を違うのを買ってきたんだ。甘い物に合うと思うし……ちょっと思うところもあって……」
「思うところ?」
「うん。で?涼葉さんはどうしますか?」
「む……りょういちくんが食べるなら一緒に食べようかな……と。」
仕方ないなぁという言い方をしながら、目線はスイーツに固定されているので、涼葉も好きそうでよかったと安心する。
「はい、じゃ頂こうか」
「はい、あり……りょういちくん?このカップ……」
涼葉は諒一が持ってきたコーヒーを、正確にはコーヒーの入ったカップを見てそう聞いてきた。
「……その、さ。俺もちょっと……プレゼントじゃないけど、涼葉は最近うちにいる事多いだろ?今あるカップって、ここに元からあるやつだからさ、上品だけど少し小さいなって思ってたんだよ。……せっかくだから、その……ここに涼葉の物も置いときたくて、買ってきた」
すると涼葉はカップを大事そうに持つと、そっと飲み口に指を沿わせ、じっと見ている。
「そ、そんないい物じゃないから……」
「ううん、いい色です。私この系統の色好きなの知ってました?」
「それは……普段から見てればそれなりに……」
「ふふ……そうですか。嬉しいです。……でも、ちょっと困りました……」
「え、なんかまずかった?」
そう聞くと、涼葉は少し困った顔を向けて、自分のバッグを探る。
そして出てきたのは箱。ちょうどカップが2つ収まるくらいの……
「その、私も同じ事考えて……りょういちくんコーヒーよく飲むじゃないですか、私もりょういちくんに影響されて、ずいぶんコーヒー飲むようになりましたし……カップを……」
そう言って涼葉は少し俯いた。諒一が買ってきたカップは耐熱性で持ってもあまりに熱くない素材で少し大きめだ。
涼葉が買ってきたカップは意匠が可愛らしく、大きさは少し小さめだが、面白いことに、色合いは同じだ。
「無駄になっちゃいました……残念です。あ!別にこれは私が自分のおうちで……」
「ハハッ!いいね、気分とか淹れるコーヒーによってカップも変えれる。贅沢だな!」
シュンとしている涼葉に対して、諒一は笑顔でカップを見ていた。
「え……?」
「え?買ってきてくれたんじゃないの?」
「え、いや……そうなんですけど……かぶっちゃいましたし……」
涼葉がそう言うと、諒一は首を振った。
「別にあって困るもんじゃないし、気分で使い分けていいんじゃないか?俺が買ってきた方は、大きくて量が入るから……まったり飲みたいときに。涼葉が買ってきた方は少し小さめだけど、見た目が可愛いからちょっといいコーヒーとか、デザートと一緒に飲む時に、とか」
諒一がそう言うと涼葉は少し考えていたが、ふっと笑うと頷いた。
「そうですね。りょういちくんがそう言うなら……。まぁ使ってくれると、嬉しいです」
「うん。それにしても二人とも同じ事考えてたんだな。なんか……なんだろう、少し嬉しいな……」
諒一がそう言うと涼葉もはにかんだように笑う。
「そうですね。お互いに考えていたって事ですもんね」
「……とりあえず、食べよ。せっかくだし」
言いながらフルーツ多めのケーキを涼葉の方に渡す。
「りょういちくん、それでいいんですか?」
「涼葉そういうのが好きじゃない?」
「そうですけど……」
涼葉が少し不満げに諒一を見る。
二つあるスイーツ。一つはふんだんにフルーツを盛ってあるショートケーキ。一つはシンプルな苺の乗ったショートケーキ。比べるとフルーツ多めの方が断然豪華に見える。
「俺はそんな量いらないし、どっちかっていうとシンプルなやつが好きだから。ドーナツとか買う時も限定品よりもシュガーだけのやつとか、チョコだけのやつとか」
「ほんとに?」
少しじとっとした目で見てる涼葉に思わす吹き出す。
「もう、笑わなくていいじゃないですか。いいです!こっち食べます。あげませんからね!」
「ごめんって。ほんとにシンプルなのが好きなので」
「それなら、信じますけど……。……ちょっとだけ食べます?」
そう言ってフルーツを移植してこようとする涼葉に、諒一はまた笑って、涼葉の頬を膨らませていた。
「ありがと。じゃあもらおうかな?」
「ふふ……りょういちくん、この中ならどのフルーツが好きですか?」
「そうだなぁ……その中ならみかんかぶどうか……」
「じゃあ、はい!いちごさんが嬉しそうですよ?仲間ができて」
ショートケーキの苺の周りに調整しながら並べて、涼葉がそう言って笑う。
「でも、これから俺に食べられちゃう運命なんだよなぁ……」
「そこは食べてあげないほうが可哀想ですので」
そう言って笑いながら、ほんの少しだけ豪華になったショートケーキを食べる。
隣で美味しそうに食べる涼葉の表情を見ながら食べるケーキはいつもより、少しだけ甘く感じた。




