88.それぞれを想う気持ち
やってきたエレベーターに乗りながら、とりあえず開くと、思わず浮かんだ苦笑いと共に七階のボタンを押した。
(お前の事だから、色々考えて及び腰になっているんだろうなぁと想像できるから送った。いいか?一応言っておく。ちゃんと気持ちを伝えて、感謝のプレゼントだと言う事を言えば間違いなく卯月なら、お前の気持ちをわかってくれるし、お前が悩んで選んだ物だと言う事もわかるはずだ。気合いでいけ!)
ややぶっきらぼうな言い方の、そのメッセージに泣きながらありがとうと言っている変なモンスターのスタンプを返す。
スタンプは変だが、諒一の心は温かい物が届いている。
「やっぱり今回はだいぶ恵まれてるなぁ。調子に乗らないようにしとこ。謙虚にいかないとな」
ゆっくりと上昇していたエレベーターが止まると、だいぶ暗くなった廊下に、もう各部屋の灯りがついている。
この階には諒一と涼葉、舞香の三人しか住んでいないので、とても静かだ。
ポケットから鍵を取り出して、差し込むと開いている。きっと涼葉が来て晩御飯を準備してくれているんだなと思って、玄関のドアを開けて中に入った。
リビングまでの短い廊下を歩いて、リビングのドアを開けると、思ってもいない声が聞こえてきた。
「おかえりー!」
聞こえてきた声は四つ。涼葉はわかる。舞香も、まあギリわからなくもない。
なんで篠部と大野までいるのか……ここは諒一の部屋で何も聞いていないのだが……
「やあやあ、諒ちゃん驚いた?ねぇ驚いた?」
篠部がニヤッと笑ってそう言って来るのに、少しイラッとする。後で大志にチクっておこう。
大野は苦笑まじりに「お邪魔してます……」と小さく言っているのに……
舞香は……目の前に置いてあるお菓子をパクつくのに集中しているようだ。それはそれでどうかと思うが、このカオスに加わってもらっても面倒なので、まあ良いとしておく。
「そりゃ驚くだろ、何も聞いてないのに、自宅で女子会があってたら……」
「あ!今回の事は全てこの篠部の責任だから!私が無理にお願いしたんだ。すぅちゃんを怒っちゃダメだよ?」
篠部がそう言った事で、少し気持ちに余裕が出て来る。一番にそれを伝えてくるくらいの良識は持ち合わせているようだ。大志にチクるのは辞めないが……
「俺がこれくらいの事で涼葉に怒ると思ってんのか?びっくりしただけだよ。……着替えてくる」
あえてそう言って、篠部と大野のキャー!という声を背中で聞きながら、自分の部屋に上がる。
部屋のドアを開けようとした時に、足音がしたので振り返ると、少し頬を染めた涼葉がついてきていた。
部屋に入ると、ドアを閉めてすぐに済まなそうに涼葉が話し出した。
「ごめんなさい、りょういちくん。」
それに、少し笑いながら振り向く。
「怒ってないって言ったろ?びっくりしただけだって。篠部もああ言ってたし……なんか想像はできる。で、なんなの?ただ集まったってわけじゃないんだろ?」
そう言うと、涼葉は諒一が脱いだ制服のシワをとりながらきちんとハンガーにかけながら話しだすので、まずはお礼を言っておく。
「それが……何も言ってないんですよ?それなのに、私達の関係に変化があったってるみちゃんに問い詰められて……」
「あいつらは心を読む術を身につけているのか……」
「え、と言う事は、りょういちくんも?」
諒一の言葉に涼葉は目を丸くしながらそう言ってくる。
「うん、ちょっと相談があって壮太と大志と一緒にコーヒー飲んでたら速攻でバレた。」
「りょういちくんどちらかと言うと、あまりお顔に出さないのに……私はどっちかって言うと顔に出ちゃうので……」
涼葉がそう言うので、思わず食い付く。
「そうだよな!俺ってどっちかって言わなくても無表情な方だと思っていたんだけどさ、総一郎さんにも大志にもあっさり見抜かれてたから、そうじゃなかったのかなぁって考えてたんだよ。」
「そうですね、りょういちくんを見て見抜くのはすごいと思います。」
と、涼葉も頷くので、ますますあいつらすごいなと言う話になる。
「そそ、んでそのまま、おめでとー、今夜はパーティーだぜイェイイェイってノリで来ちゃった!」
部屋着に着替えて、リビングに戻ったすぐに篠部が言った言葉である。
「まー、もうみみめんまいもめめもうっむ」
「諏訪崎は口ん中の物、どうにかしてから喋ろうな?」
涼葉があわあわと飲み物を準備し出しただろうが……
さすがにこの人数の食事を準備させるのは悪いと言う事で、お邪魔した人達がお金を出し合って、色々と注文してあった。
ピザにハンバーガーのセットに、チキンのパーティーパック。ドーナツ詰め合わせ。
まさしく持ち寄ったといったジャンクな感じの食べ物に、苦笑いになる。嫌いではなかったはずなんだけど、この所涼葉がちゃんとした物を作ってくれていたせいか、なんかそう感じてしまい、口に出したらまた篠部からからかわれた。
ワイワイ言いながら食べ物をつまんでいると、途中で篠部がなんかゴソゴソしだす。
何やら大野と目で合図をしあってたので、何か示し合わせていたんだろう。
「えー、私達としてはですね、二人がちゃんとこうして無事に仲良くなって幸せそうにしているのが嬉しいわけです。」
「私たちも色々聞いているし、私らが知ってるだけでも大変な事もあったからね?」
少ししんみりとしながらも、楽しそうに篠部と大野が言ってくれる。
「そんでささやかながら、私達も二人におめでとうの気持ちを渡したいと思ったわけですよ」
そう言いながら、ラッピングされた包みを俺と涼葉、それぞれに渡してくる。
「え?でも……」
涼葉はとりあえず受け取ったものの、渡してきた篠部と諒一の顔を交互を見ている。どうしたらいいか迷っているようだ。
「あ、気にしないで!大した物じゃないし、話をしたらここにいる舞香ちゃんも参加してくれたから!」
両手を振って気にするなと大野が言う。というか、諏訪崎も出してくれてるのか……
「なんか悪いな……諏訪崎はよかったんだぞ?あのキツネだけで十分だったのに」
「ほんとですよ。でも、嬉しいです……ありがとうございます」
そう言って、花が咲くような微笑みを向ければ涼葉大好きの篠部と大野はニコニコになる。
「や、ジブンもどうぞ気にしないでくださいっす。お二人が幸せというか、笑顔でいてくれるとこっちも嬉しいっす。」
そう言った舞香もニコニコしている。
「お二人を見てると潤い成分を貰えるっすから……」
「え?なんだって?」
「いえいえ何でもないっす!」
「?」
「なんかいつの間に諏訪崎と篠部達は仲良くなったんだ?そんな接点あったか?篠部達うちに来るの初めてだよな?」
「ああ……なんというか、舞香ちゃんとは意気投合したというか、求めているものが一緒だったというか」
「求めているもの?」
「ああ、いいのいいの。諒ちゃんは気にしなくて!とにかくなんとなく仲良くなったの!」
何かを誤魔化されているような気がするが……
「それより開けてみてよ!できれば着て見せてほしいな」
「着て見せる?という事は洋服か?」
包みを開けると紺色のトレーナー。無地で上下セットのもののようだ。
涼葉も同じ種類の物で、色が柔らかいピンクになっているだけだ。
「どうせなら二人で使う物がいいかなぁ、って思ってね?部屋着にどうぞ。どうせすぅちゃんはよくこの部屋に来るんでしょ?鍵渡してるくらいだし」
篠部が、鍵のくだりの部分だけ、ムフフと笑う。
「いや、違うんだけど……まぁいいや。どうせ同じ事だし」
涼葉はあくまで自分の部屋の鍵を使っているだけだ。別に合鍵を渡したわけではない。
ただ、涼葉が自由に開けれる事は間違いないからそういうことにしておいた。




