87.それぞれを想う気持ち
「ってなわけで、すっかり俺は胃袋を掴まれてしまっているわけですよ」
真剣な顔で諒一が言う。
「え、なに。なんで俺らはそんな話を聞かされてんの?のろけなの?ねえ、のろけてるの?」
半目になって壮太が言ってくるが、そんなつもりはない。諒一にとっては至って真剣な話なのだ。
「わざわざ話があるなんて言うから何かと思えば……うまくいってるようでなによりだよ。」
ここは学校から近いコーヒーチェーン店。それぞれの住む場所を考えて、一番都合がいいから何かと利用している。
コーヒーを飲みながら大志は純粋に嬉しく思ってくれているようだ。
「かー!いいねぇ彼女がいる奴らは!こちとらなかなかご縁がないってのに……」
壮太はジュースのストローに、息を吹き込んでブクブクさせながら文句を言っているが、壮太はご縁がよりもお調子者すぎて女子が距離を置いているんだと思う。
それがなくなれば……あるいは。……多分。
「で?なによ相談って?こうして誘って飲み物代まで出して、のろけだけってことはないんだろ?」
どうのこうの言いながらも話を聞こうとしてくれるのは壮太のいいところだろう。そういう姿をもっと見せていけばいいのに……色々と惜しい男である。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
壮太が聞き出そうとするのを大志が止める。そして、諒一を見た。
「聞こう聞こうと思ってたんだが……お前たち、もうフリってわけじゃないんだろ?」
そう言われて、驚くよりも呆れがでてくる。そんなに自分達は分かりやすいのかと。
総一郎たちにもすぐにバレてたし……
「ん、なに、どういうこと?」
壮太は何を言ってるのかピンときていないらしく、諒一と大志を交互に見ながら、聞いてくる。
「……ん。まぁ、はっきり付き合ってるってまではいってないけど……」
「なんでだ?」
「ちょ、話進めんなって!無視するとかひどくない?」
相手にされなかった壮太が騒ぎ出すので、少し順を追って説明する。
「そ、そうだったのか……いや、仲良いよなぁとは思ってたけど……」
どうやら壮太にはバレてなかったらしい。あくまで彼氏彼女のフリをする上でそう見せていたと思っていたようだ。
「でも……それってもう、付き合ってるって言ってもいいんじゃないか?」
大志は少し呆れ顔でそう言ってくる。
まぁ確かに……ほとんどご飯作りにうちに来ているし、お風呂まで入って寝るだけにして帰るので、ほぼ一緒にいると言っていい。お互いの気持ちは伝えて、なんなら親(代理)公認ときている。
「でも、ほら。本人の気持ちが一番だから」
そう言うと、大志は苦笑して「お前達らしいよ」と言ってきた。
壮太はまだ、いまいち状況が理解できていないのか、しきりに首を傾げている。
「なぁ、俺にはよくわかんないんだけどさぁ、異性と付き合うっていう事よりも、毎日家に入り浸ってますって事のほうがよほど照れくさいと思うんだけど、卯月さんはそんなかんじじゃないの?」
「涼葉は……多分、食べ物に興味がなくて、すぐに面倒になって抜いたりする俺をほっとけないってのが先にきてるから意識してないんじゃないのかな?」
「ああ、なるほど。好きな人のために尽くしたいってか、このヤロ!羨ましい奴め」
そう言うと壮太は諒一の肩にパンチをしてくる。もちろん加減はしている。
「まぁ、状況はなんとなくわかったよ。そうすると、お前は頃合いを見て、もう一度卯月さんに告白しないといけないわけだ」
ニヤニヤと笑いながらそんな事を言う大志。それを聞いた諒一は一気に顔を赤くする。
「そ、そ、……そうなる、のか?なあ。」
「当たり前だろ?まだ正式に付き合ってないんだから。きっと卯月さんも心待ちにしているだろうから、まあそこは頑張れ!相談くらいには乗るから。それで今日はなんだったんだ?」
「ちょっと待って、落ち着くから……」
いきなり切り替えられるほど動揺は軽くないから……
何度が深呼吸を繰り返して、咳払いを一つ。ようやく本題に入った。
「まぁ、今言ったように涼葉にだいぶ世話をかけさせてしまってるわけだ。本人はそうでもないっていうけど、逆にやれって言われたら面倒って思うしさ。こう、気軽な感じでお礼を伝えたいんだよ。あまり重くない程度にさ」
諒一がようやく本題を切り出すと、大志は感心したように、壮太はうんうんと腕を組んで頷いている。
壮太は多分知ったかぶりだから放っておくとして、頼りは彼女もいる大志だ。
「なるほどな。いい心がけじゃないか。そう言うのは常に言葉にしておかないと、言わなくてもわかるだろ?っていうのは男の身勝手だからな。」
なんか大志が男前に見える。いや、男前だったわ。
「ほーん。そんでどんな物がいいか、俺らに聞きたいと」
聞きたいのは主に大志なんだが……とは言えない。まぁ壮太の意見も参考にはさせていただく。
「そうだな……しかし好みとか普段使う物とか……そういった物は水篠の方がわかるだろう?」
「それはそうかもだけど、普通がよくわからないというか……その、中学生女子がどんな物を欲しがるかっていうか」
それに涼葉はあまり物欲がないというか、無駄な物は買わない。好きなキャラクターものだから、使わないけど欲しいとはならないみたいなのだ。
「諒一が買って渡せば何でも喜びそうだけどな」
壮太が言ったが、それは予想できる。きっと涼葉はにっこり笑ってくれるだろう。ただそれじゃ少し物足りないとも思ってしまうのだ。
「それも考えたけど……どうせ何か贈るなら、ちゃんと喜んで欲しいじゃない?」
「そうだなアクセサリーとかは?」
「……色々知らない。好みもそうだし、サイズとか何を持ってるかとかも」
「アクセサリーある程度親しくないと難しいぞ。無難なのは食べたり、使ったりして消える物だが、それだと少し物足りないな。こうして考えると、卯月ってだいぶ謎の人物だな……。何かをしている姿が全く思い浮かばん」
大志がそう言うと、壮太もそう言えばそうだなと呟く。
「ああ、そうか。涼葉まだ少し慣れてないから、お前達の前だとあまり喋らないもんな」
やっぱりある程度素の姿を知らないと想像できないか……
「まあ、いいだろ。俺たちが言うのは、あくまで一般的な意見だ。あとはお前が拾え。その方が彼女も喜んでくれるさ」
大志は難しいと言いながらもそう言ってくれて、色んな意見を並べてくれた。意外だったのは壮太の意見も割とマシだった事だ。
男三人、コーヒーショップのテーブルで顔を突き合わせて、しばし意見を出し合うのだった。
「今から帰ります、と。」
帰りに二人と寄り道して来ると言ったら、帰る時にメッセージを入れるように言われていたので、今から帰宅する旨を送る。
すぐに既読がついて、待ってます!となんかかわいいキャラが言ってるスタンプが返ってきた。
結局一時間近く意見を出し合って、勢いでそのまま買いに行ってきたのだ。
二人からは大丈夫だから心配すんな!と激励ももらっている。
ただ、一人で歩いていると、色々考えてしまうもので、これでよかったかな?とか、喜んでくれるかな?とかついつい考えてしまうものである。
よくよく考えると、プレゼントという物は誕生日以来で、誕生日の時は時間がなかったので、あまり迷う時間もなかった。今回は大志達に相談するまでに数日潰していたりする。
何かイベントというわけでもないので、絶対渡さないといけないものでもないんだけど、一度あげたいと思うとどうしても気になってしまう……。
ちなみに前の人生の時には、異性にプレゼントなどほとんどした事がなかったりする。
結局色々考えて歩いていたら、あっという間にマンションに着いた。
「よし、もう勢いだ!」
あえて口に出して言うと、エレベーターのボタンを押す。今七階にあるようで、ゆっくりと降りてくる。
待っているとスマホに着信。メッセージの音だ。表示された送り主は大志。




