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86.諒一の食生活

 「決めるといいますと?」


「今はなんとなくこうして買い物してきたりしてきて、無駄が出たりするだろ。お金だって曖昧なままだし。その……涼葉が作ってくれるのが大前提になるんだけど、食費としてお互いに出してそこから、決まった物を買ったほうが無駄がないかな、と。」


 そう言うと、涼葉は諒一の顔を窺うような仕草をしだす。モジモジとしながら、何か言おうか言うまいか迷っている様子だ。


「負担も分担したいと思ってさ……」


 諒一がそう言うと、涼葉も言う事にしたようだ。


「でもですよ?そうすると、私がお料理を作る事が当たり前になりますよね?それはいいんですけど、食事も一緒になりますし……頻繁になってくると……思いますけど、それはいいんですか?」


「いや、いいんですか?って聞くのこっちだよね?……なるべく涼葉ばかりに負担がいかないように、例えば買い物は俺がやるとか……こう、今のままだとさっきの買い物みたいに無駄が出たり、何を買えばいいかわからなかったりするし……情けない事言ってるのはわかってるけど、苦手分野だって事もよくわかってるから……涼葉にお願いできないかなって」


 話をしていくうちに、だんだんぱあっと涼葉の顔が明るくなっていくのが分かり、返事を聞くまでもないのがわかる。

 それでも意思確認はきちんとしていく必要がある。共同生活なのだ。


「その、いいんですか?もう少しりょういちくんの食事を作っても……」


「や、逆逆……面倒だろ?作るのって、大丈夫?」


「私は……お料理するの苦になりませんし、私の分は作るんですから二人分作っても負担は変わらないんですよ?分量が増えるだけで。りょういちくんが私が作る物ばかりでいいのかが不安なだけで……」


「どうも考え方の齟齬を感じるな……じゃあ、俺が買い物と……あと何かするとして……涼葉にはちゃんと料理を頼んでいいか?」


「はい!ふふ……りょういちくんの食べ物の興味改善の計画がもっと進みます!」


「嬉しそうに言われると調子が狂うなぁ……負担をかけるのに……じゃ、とりあえず食費として、同額……俺が少し上乗せしたほうがいいかなぁ……」


 そう言って考えこみだすと、涼葉は慌てて止めようとする。


「なんでですか!同額でいいじゃないですか!」


「いや、負担を考えるとな?」


「私は負担じゃないと言ってます!」


「頑固だなぁ……」


「もう……どっちがですか」


「じゃとりあえずは同額、買い物は俺がやる。あとは細々お手伝いだな」


「はい、それで!ふふ……楽しみです。まずは今日からですね!材料はたくさんあるので、豪勢にいきましょうね」


「お、それは楽しみだな。俺も手伝うよ」


 そう言いながら二人でキッチンに向かうと、なんとも言えず恥ずかしい気持ちになるのだが、嫌な気持ちではない。

 とりあえずは涼葉の指示に従って動き出すのだった。


「あまり好き嫌いはないのですね?」


 ご飯を食べながら、涼葉が不思議そうに言う。


「んー……そうだな。好き嫌いというか、好きでも嫌いでもないがほとんどを占めてるけど」


「ああ、興味がないと。すごいですね、興味がないと嫌いにもならないんですね」


 変な事で感心している。


「でも、涼葉が作ってくれたのは不思議と美味しいと思うんだよな……」


 おかずに手を伸ばしながらそう言うと、涼葉が先に摘んでいたおかずをポロリと落とす。


「落とした……って、どうしたの?」


 少し恥ずかしそうに落としたおかずを自分の皿に乗せて、ら俯き加減になった。

 

「……もう。お世辞とかはいりませんからね?」


「なんの話……ああ、ご飯?いやほんとほんと」


 そう言うが涼葉は取り合わず、ご飯を口に入れる。そして、ちゃんと飲み込んでから諒一を指して言う。


「そんな事言って……りょういちくんのご飯への興味のなさは私もわかってるんですからね!美味しいと言ってくれるのは嬉しいですが、お世辞を言う必要はありません!」


 そう言うとまたご飯を食べる。


「いや、そうかなぁ……でもさ、一度も箸が進まなかったり残したりした事ないんだよ。むしろ量が多いかなってくらい出してくれてるのに……これって美味しいって事なんじゃ?」


 すると、気管に入ったのか、喉に詰まったのか……むぐぐとか言いながら胸を叩き出した。


「うおい!お水!」


 慌てて水を渡すと、涼葉はコップ一杯を一気にのんで、なんとか落ち着いたようだ。


「ゴホゴホ……もう、りょういちくんは……」


「え、ごめんなさい?え?嘘とかじゃなくてですね?」


「いえ……素直にありがとうございます。そう思ってもらえてるなら作り甲斐もあります!」


「こちらこそだよ。美味しく作ってくれてありがと。多分俺みたいな奴のご飯作るより、もっとちゃんと味のわかる人に作ったほうが適格な反応が返ってくるんだろうけど……」


 少し引け目がちにそう言うと、意外そうな顔を涼葉は見せた。


「私は別に料理の腕は人並みだと思ってますし……品評されたいわけでもないですので。その……食べさせたい人においしいって思ってもらえるのが……一番と、言いますか……」


 頬を染めてそんな事を言われてしまっては諒一もつられて赤くなるし、意識して見るようになってから、涼葉のかわいらしさにだいぶやられているのである。

 こんなにかわいくて性格もいい子が、どうして自分なんかに好意を持ってくれるのか、今でも不思議に思うのだが、今更身を引くつもりはないので、がっつり乗っかるつもりだ。


「いやあ、今度の人生は幸せだなぁ……」


思わず呟いてしまうのだった。


 

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