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7.部屋の鍵

 「うふふ、落ち着きなさいな。まあ無理もないわね。ここ……鍵かかってたのに。涼葉ちゃんどうやって入ったのかしら?」


「は?」


涼葉がここで寝ているのを見ても、それほど焦った様子もなかったから、何か知っていると思っていたら、やはり亜矢子達にとっても予想外の事だったらしい。


「鍵は私達が管理してるし……諒一君確認してほしいんだけど、さっき渡したこの部屋の鍵、二本あるわよね?」


そう言われ、ポケットから鍵を出す。シンプルなキーリングに複雑なパターンの入った鍵が二本、確かにある。


「二本ありますよ?」


そう言って一応亜矢子に鍵を渡すとそれを子細に見ていた亜矢子は首を傾げた。


「え、なんかおかしなことが?」


「いいえ、二つとも間違いなくこの部屋の鍵だったの。このマンションはセキュリティに関しては滅茶苦茶きびしいの。そうそう、この部屋の鍵スペアとか作れないから無くさないようにね?」


「ええ?」


怖いな。複製不可の鍵とか……無くさないような方法をなんか考えとかないと……って


「それじゃその子はどうやってここに入って寝てたんですか?」

 

最初の疑問に戻る。

 

「んー、それが分からないのよね。今総一郎さんは集中セキュリティを確認しに行ってるわ。万が一不正開錠をしようとするとアラームなって警備員飛んでくるし、ああ総一郎さん戻ってきたわね」


エレベーターの音と足音が近づいてきて総一郎が姿を見せた。たださっきまでのイケメンスマイルは影を潜めており、怪訝そうな表情に差し代わっていた。


「その顔を見ると異常はなかったって事かしら?」


そういう亜矢子のすぐ隣にナチュラルに座った総一郎はごく自然に亜矢子の肩に手を回しながら険しい顔のまま頷いた。


「今日の開錠履歴は二回。さっき諒一君が開けた時と、それから二時間前に開錠されている。おそらくこれが涼葉ちゃんなんだろうけど……」


「履歴にちゃんと残るって事は不正は行われていないって事でしょ…………もしかしてだけど、今日涼葉ちゃんがこの部屋に入る前の時に鍵を閉めるのを忘れてたってことは?」


細いおとがいに手を当てて亜矢子が言うと総一郎も唸りだした。


「うーん……それでも鍵を回した感覚で気付くと思うんだ。それにこのマンションは警備員が常駐しているから、空き部屋はいたずらとかされないように見回り対象になる。警備員が見回りを怠っていたりしたら……と、そこまで疑いだしたらきりがなくなるね。ここは涼葉ちゃんに聞いてみるのが一番じゃないかな?」


その総一郎の意見が採用されたが、問題が一つ残っていた。


 全員の視線がソファで眠る涼葉に向く。端正な顔立ちは、眉をひそめ、少し苦しそうに寝ていても、ちっとも損なわれていない。

 それを見て亜矢子がポツリとこぼした。

 

「涼葉ちゃん……今晩中に起きるかしら?」


◆◆ ◆◆


幸いそれから十分ほどで彼女は目を覚ました。そのまま爆睡コースに入らなくて安心したが、初日からハプニングがてんこ盛りすぎる。

今、諒一は彼女が寝ていたソファに腰かけている。もうすでになんかいい匂いがしてくつろげない空間になっている。


彼女は目を覚ましたのはいいが、本人も混乱がひどく、寝起きでもあるので一度帰って目を覚ますのと軽く着替えてくるそうで亜矢子が付き添って自室に戻っている。

総一郎は鍵のメーカーに同じような事例がないか確認すると言って部屋を出て行った。


なので諒一は一人落ち着かない気持ちでモヤモヤした気持ちを抱えている。

今日初めて訪れてパッと見ただけでも、ここのセキュリティは大変しっかりしている事が見て取れる。前の時の諒一は建築関係の仕事についていたので、鍵の取り換えくらいは簡単にできる技術と知識を持っている。そんな諒一が見てもここは最高レベルのセキュリティであると言っていい。


さきほど玄関の鍵を確認したけど、はっきりとは分からないがセンサーらしき配線がラッチの所にあった。管理室で集中管理できるようになっているらしい。さっき総一郎が確認してきたように、調べれば鍵を開け閉めした時刻までわかるようだ。

 

で、あれば鍵の閉め忘れの線はない。

 多分、誰も入居していない部屋で長時間鍵が開いていれば警備員が気づくと思う。

 

別にさっき初めて来たばかりで、貴重品も見られたくないような物もないので、入ったくらい構わないんだけど……

 今後の事を考えると原因ははっきりさせておかないといけないだろう。

 それに、諒一の部屋に勝手に入ったくらいなら別にいい。これが逆だと大惨事になる……間違いなく大騒ぎになるだろう。それに……

 

 涼葉が寝ていたことで動揺してしまって、頭から抜け落ちていたけど、諒一が鍵を開ける時に聞こえた音。

 亜矢子達は聞こえていなかったみたいだが、なんとなく気になるのだ。


そんな事を考えていると亜矢子らしき声が近づいてくるのが聞こえたので、玄関のロックを開けに行く。この部屋の鍵は諒一が持っているし、今この部屋の玄関は鍵がかかっている。

 亜矢子たちが来た事を気づいた諒一は、わざわざチャイムが鳴るのを待つこともないだろうと言う軽い気持ちだった。

鍵を開けようと玄関ドアのサムターンに手を伸ばすと、諒一の手が届く寸前でサムターンがくるっと回った。


「……は?」


思わず声が漏れてぽかんとしているとドアが開いて、同じくぽかんとしている亜矢子と自分の部屋の鍵を持っている涼葉の姿があった。


◆◆◆◆


「ちょっとこれどうなってるの?」


それから管理業者を電話で呼び出した。亜矢子がぷりぷりと怒ってやってきた業者に食って掛かっている。


「いやーそんなはずないんすけどねえ」


そう言いながら鍵穴をのぞいたりしていた業者が亜矢子に鍵をかしてくれと言っている。


「諒一君」


「はい、これ」


俺から鍵を受け取った業者は慎重な手つきで鍵穴に差し込んでくるりと回す。ガチャンと音がしてラッチが出てくる。うん、それは当たり前だ。


「じゃあ、そのもう一つの鍵貸してもらっていいすか?」


業者がそう言うので、おずおずと涼葉がカギを渡す。同じように慎重に差し込んでひねる…………回らない。その後も何度か試していたが回らなかった。差し込む深さを変えてみたり、同じだが裏表を変えてみたりしていたが回る事はなかった。


「え~?どういう事かしら?」


業者はそら見た事かといった表情をしながら帰って行った。今は亜矢子が何度も試しているが、それでも開くことはない。


「そういえば、私たちが来た時諒一くん玄関まできていたわよね?」


急に矛先がこっちに向いて頬が引きつるのがわかった。


「それは……亜矢子さんの声が聞こえたからインターホン鳴らさなくていいように鍵を開けに来たんですよ。俺が触る前に開きましたけどね」


そう言ったが、亜矢子に疑いのまなざしで見られている。


「勘違いという事はない?開けるつもりだったともう開けたと」


「いや、さすがにそんな勘違いしないでしょ。それに仮にそうだとしても、その前に卯月さんが入れたことが説明できないじゃないですか」


疑われてはたまらないとそう反論すると亜矢子はあっさりと矛をひっこめてくれた。その隣では涼葉が何か言いたげにずっとモジモジしているのが微妙に気になる。


「とりあえず入りません?廊下で突っ立ってても……」


そう言って諒一が玄関のドアを大きく開けると「それもそうね」とつぶやきながら亜矢子が入るので、仕方なく涼葉も入ってきた。


「納得いかないわ」


二つのカギを並べてその前で腕を組んでる亜矢子と所在なさげにとなりにちょこんと座っている涼葉にコーヒーを出す。キッチンの後ろにある食器棚に置いてあったもので、好きに使っていいと言われていたので、とりあえずお客さんである二人の前にカップを置いた。


「あㇼ…………す」


涼葉の前にカップを置くと、ガラステーブルに陶器のコーヒーカップを置くコトリという音よりも小さくささやかれた。多分だけどお礼を言われたのだと思う。ものすごい美少女はものすごい人見知りであるらしい。もちろん視線は誰もいない所を向いている。


自分も引っ込み思案で人見知りの自覚があるが、今日は亜矢子達につられてなんだか比較的スムーズに会話できていたことに気付いてなんだかむずがゆい気持ちが浮かんできて、今になって諒一も照れ出すのだった。


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