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73.縁を結ぶキツネ

 今までここにいて、涼葉や大志とやり取りをしていたのに……

 今、初めて気づいた……


 諒一の隣の席、涼葉の席の机の上に見覚えのあるスマホケースとそれについているキツネの根付。それは涼葉のスマホだった。


「ええ……忘れてるし」


 とりあえず手に取ってみたが、間違いなく涼葉のスマホだ。手帳型のスマホケースは内側にカードを入れるポケットがあるが、そこに歯医者の診察券があり、しっかりと涼葉の名前が書いてある。別のポケットには折りたたまれた和紙に相川神社と朱印が押されたものや、涼葉の誕生日の時に諒一が作ったお願い事をきくという子供だましのようなラミネートしてあるカードも入っていた。


 見ていると恥ずかしくなり、スマホケースを閉じると、キツネの根付がチリンと鳴る。なんとなく見ていると、諒一の物とは細部が違う。

 諒一の物は青色の蝶ネクタイをして、諒一から見て左側を向いているが、涼葉の物は赤色の蝶ネクタイをして右を向いている。自分の物と並べてみると違いがよく分かる。よく見てみると諒一のキツネは口を開けており、涼葉のキツネはしっかりと閉じている。


「別の種類?なんか意味があるのかな?……いや、まてよ。こうして並べたら……」


 同じものではないが、違う種類にしては共通している所も多い。不思議に思った諒一が隣り合わせに並べてみると……キツネの耳や口、足の部分がちょうど合わさる。

 諒一のキツネは耳が前に出ていて口は内側。そして足がまた出ている。涼葉の物はそれがきれいに逆になっていて、二つ並べると全体が一つの円になっている。


「これ……元は一つだったのか?」


 まさかお土産をケチって半分に割って渡したという事はないだろう。であるならこれは元々一つだった、もしくは二つで一セット……


 それじゃ、まるで……舞香がどういう意図でこれを諒一たちに渡したのかわからないが、どうにも頬が熱くなる。二つで一つ。お揃い。それらがどういう意味合いをもつかは大体相場が決まっている。


「意味深なお土産買ってきやがって……」


 頭を抱える諒一の脳裏に、口を押さえてぐふふと笑う舞香の顔が浮かんだ……



「いかん、一旦忘れよう。とにかく、これをどうするかだ。」


 涼葉と帰るところは一緒なのだから、持って帰ってやればいい。でもどこに忘れたか分からないと、あちこち探す羽目にならないだろうか……しかも連絡する術はない。諒一は友達になったばかりの楓花はもちろん篠部の連絡先も知らない。

 これまでは何か用事があっても涼葉にメッセージを送ってもらえば事足りていたからだ。涼葉が身近すぎた事が災いしていた。


「どうするかな……」


 とりあえず、いつまでも学校にいてもしょうがないので、考えながら家まで戻ってきた。リビングのテーブルの上に二つ並んだスマホを見て、諒一はなんとなく頭から離れてくれない涼葉のスマホを見つめている。


 いっその事、忘れた事に気付かないで帰ってきてくれれば……だめだ。夕食を作ってもらう約束をした。律義な涼葉は買い物しながらきっとメッセージを送ってくるはずだ。

 遊びに行った先を知っていれば、いっそ持って行った方がすっきりするのだが、楓花の知っている店に行ったらしく、そっち方面は全然知らない。


「はあ……」


 諒一がため息を一つついた時、またチリンと鳴った気がした。いや、動かしてないのに何で鳴る……ピロン。今度は電子音がして涼葉のスマホにメッセージが入った。

 勝手に見るのはどうかと思ったが、もしかして手がかりが……そう考えて見てしまった。


「ロックかかってるよな。そうだよな……」


 でも、着信した時にでる小窓の分は読める。しばらくの間だけだけど表示されていたメッセージは……カラオケでスイーツがおいしいという、篠部のメッセージだった。


「は?なんで一緒にいるはずの涼葉にスイーツの感想のメッセージを送ってるんだ?篠部……」


 その疑問はすぐに氷塊した。ピロンという電子音と共に表示された小窓には同じく篠部からのメッセージ。そこには、(おいしいよ、今度一緒に来ようね大ちゃん)とハート付きで出ていた。


「誤送信してるぞ篠部!」


 頭を抱えたくなったが、抱える前に叩きたくなった。


「俺はばかか……大志に連絡して篠部から涼葉に伝えてもらえばいいんじゃないか……」


 がっくりと脱力しながら自分のスマホで大志に電話をかける。篠部の誤送信のおかげで気付いた事に悔しい思いをしながら……


「なるほどな。ふふっ、分かったるみに連絡して、卯月さんに伝えるように言うよ」


 状況を説明したところ、快く大志は引き受けてくれた。電話越しにニヤニヤしている顔が浮かんでくるが、涼葉が慌てたりするよりましだ。


「悪いけど頼むよ」


 そう言って通話をきる。これで安心のはずだ、コーヒーでも飲んで気分を入れ替えるか……そう思って立ち上がったところで、また聞こえたチリンという音。

 さすがに偶然とは思えない。またスマホの前に座って、待つこと数秒……はたして大志から電話がかかってきた。


「というわけだ、すまん。あいつ夢中になると気付かない事がよくあるんだ。よっぽど楽しいんだと思うが……とにかく定期的にかけてみて連絡がついたら水篠に伝えるから。そう心配するな、きっと何事も無く帰ってくるさ」


 大志はそう言って通話を切った。

 連絡を取ろうとしたが、篠部はメッセージも見ないし、電話にも出なかったらしい。カラオケに行っているんだから、騒いで歌っていれば気付かない事もあるだろうが…………そんなに不安そうにしているんだろうか。電話越しに大志に気付かれるくらい……いや、自分をだますのはよそう。不安だ。この根付の鈴の音といい、しっかりしている涼葉がスマホを忘れた事、なぜか連絡がつかない事。

 どれか一つでもうまくいけば、それほど気にしないのに……はっきり言ってしまえば嫌な予感がする。



 それから30分くらいしただろうか。落ちつこうとコーヒーを淹れて飲んでいるが、一向にリラックスできない。あれから一度だけ篠部からの誤送信が入った。六時にはカラオケを出るという大志に向けたメッセージ。大志からは、まだ連絡がつかないとメッセージがきたので、篠部のメッセージを伝えておいた。


 誤送信でもスマホを触っているんだから気付いてくれよ!そう思ってしまうが、どうしようもない。今は六時半、カラオケを出て帰路についたころだろう。

 そしてスマホがない事に気付いて慌てている所かもしれない。


「はあ……」


 もう何度目かしれないため息がでる。コーヒーは何杯目か忘れてしまった。


 チリン……


 鈴の音。ピロン。メッセージ。それを見た諒一は思わず立ち上がっていた。慌てて何度も打ち間違いながらも、その単語を検索して見つけた瞬間、二つのスマホを掴んで部屋を飛び出した。


 また、篠部が誤送信してきた内容は……


「大ちゃん助けて、いま和カラをでてミントにいくみち。涼葉ちゃんがさら」


 だった。

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