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70.縁を結ぶキツネ

「よし、熱もないし、気分もスッキリ!涼葉様々だな」


 翌日はちゃんと自宅で目覚めた諒一は、きちんと体温を確認して平熱である事に満足してそう独りごちた。


 気分良くパンを焼きながらコーヒーを淹れようとしていると、チリンとスマホにつけたキツネについている鈴が鳴った気がする。


「ん?」


 キッチンのカウンターの上に置いているスマホに近寄ると同時にカチャリと玄関の開く音がする。

 そのまま玄関の方を覗くと、こっちに歩いてくる制服を着た涼葉と目があった。


「おはよ!」


「お、おはようございます。そ、その……体調はどうですか?」


 いきなりだったから動揺したのか、少し口籠もりながら涼葉がそう言う。

 どうやら諒一の体調を心配して、朝からわざわざ見にきてくれたみたいだ。

 

「ありがと。うん、もうバッチリだ。涼葉のおかげだな」


「そ、そうですか、それなら良いのですが、無理はしたらいけませんよ?」


 人差し指を立てて諒一の鼻先に持ってくる仕草はいつも通りの涼葉だ。


「はい、気をつけます」


 そう言った諒一に涼葉はにっこり笑って頷いた。


「わざわざ心配して見にきてくれたのか?ごめんな?」


 そう言いながら諒一は牛乳をカップに入れてレンジで温めだす。涼葉の分もコーヒーを淹れるつもりで。


「いえ、あ、そうなのですが……少し気になる事もありまして……」


 少し不安そうな顔になった涼葉は、諒一の部屋に置いてあるマイカップを諒一のカップの隣に並べた。牛乳を温めている時点で自分の分を用意している事に気づいたのだろう。


「気になる事?」


 聞き返しながらドリッパーにお湯を注ぐ。すぐにリビング中にコーヒーのいい香りが充満する。

 しばらくその香りを堪能していた涼葉は、諒一の言葉に頷いた。


「その……昨日の話なんですけど……りょういちくんは高校くらいから痛みが出だしたって言ってましたよね?今の所そう言った兆候は、ないのですか?」


 不安そうな表情の理由はそこだったか。涼葉の言うように前の諒一の時は高校生くらいの時に熱と共に痛みが出るようになった。最初は熱による関節の痛みでしょうと医者に言われ、そんなもんかと思っていたが、その痛みは次第に強く顕著になっていった。


 しかも同時に足になんとも言えない不快感が襲ってくるようになって、痛むと疼くの中間のような不快感は、まさしく居ても立っても居られないという感じで動かすのもつらいがじっともしていられない状況だった。

 後の方で病名がはっきりした時にその不快感の病名も分かったのだが、「足むずむず病」という、まさしくそのままなのだが冗談で言ってるのではないか?と思うような名前だった。


「りょういちくん?」


「あ、ごめん。ちょっと思い出してた。今の所は何もないよ。だいじょぶ」


 そう言ったが、すぐに、そうですか。とはならない。涼葉はじっと諒一の顔を見つめてくる。

 無理や遠慮をしていないか疑っているのだろうが、あまりじっと見つめられるのも、なんともむずがゆい。


「……本当でしょうね?」


「信用ないなぁ」


「りょういちくんは変な所で遠慮するし、少しぐらいならと言って無理するから信用ないです」


 ぷくっと頬を膨らませて涼葉が言うのを、心当たりがあるので苦笑いして誤魔化した。


 膨らんだ頬をつんつんしながら本当だから。と何度か繰り返してようやく頬が元に戻る。


 そして出来上がったカフェオレを渡すと、息を吹きかけながら美味しそうに飲み始める。

 諒一もパンにジャムを塗って朝食の準備が完了する。


 パンとコーヒーを持ってテーブルに行こうとしたら、涼葉がそれをじっと見ている。


「……それだけですか?」


「え?そうだけど……」


 すると涼葉は、だからそんなに細いんです、と小さく呟く。


「朝食はしっかりとるべきですよ?」


 と、少し困ったような顔で見ながら言ってくる。

それに困っていると、涼葉はチラリと冷蔵庫を見る。


「ちょっと冷蔵庫を見てもいいですか?」



 10分後、パンとコーヒーだけの朝食はそこそこ豪華な物に変わっていた。

 タマゴとウインナーを焼いた物とスープ、プチサラダが追加された朝食を満面の笑みで勧めてくる。


「さあ、召し上がってください」


「涼葉……だいぶ家から持ってきてない?」


 調理中はあえて声をかけなかったが、だいぶ持ち出しがある。少なくとも諒一宅にウインナーやサラダは常備されていない。冷蔵庫を見てもいいか聞いてきた涼葉が、扉を開けて30秒ほど固まっていたのが何とも言えない時間だった。


「はぁー、うまそうっす。では遠慮なく頂きますっす」


 そしてなぜか舞香もいた。いつの間に沸いたんだこいつは……


「私が材料を取りに自宅に行ったりしていた時にばったり会ってしまって……」


 と、涼葉が申し訳なさそうにしているが、涼葉のせいではない。そして舞香はもう少し遠慮しなさい。


「そ、そうですよ、舞香さん。ほとんどりょういちくんのおうちの材料なんですから」


「いや、材料はどうでもいいけど、急に増えたから涼葉の手間がかかっただろ。ただでさえオレのせいで手間かけさせてるんだから」


「いえっ!あ、その……りょういちくんのご飯作るのは手間とかでは……りょういちくんをもう少し太くしよう計画もありますので」


「ちょっと待って、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど……」


 諒一がそう言うと、涼葉は両手と首を振る。


「ほ、ほんとにりょういちくんのご飯は手間じゃないですよ?」


「ああ……うん、それは本当にありがとう。いつも助かってます。それじゃなくて、太らせる計画のほうね」


 ああ、そっち?と言う顔をして、なぜか涼葉はムッとした顔になる。


「だって……りょういちくん、お腹周りとか、私とあまりサイズ変わらないじゃないですか……。女性として思うところはありますし、私は適正な体格を維持してるので、どうにかするならりょういちくんの方になるので……」


 涼葉は着替えを貸した時の事がずっと頭に残っているらしい。諒一は特に気にしていなかったが、女の子は違うみたいだ。


「いや、今自分で適正な体格って言ってるじゃない、そんな気にしなくても……」


 そう言うと、涼葉は諒一の鼻先に指を突きつけた。


「りょういちくん?女の子は気にするのです。男性が細い方だと、隣に並ぶ女性は気後れするものなのです!」


 ビシッと言われて、そういう物なのか……と思い始めた所で舞香がサラダを頬張りながら口を挟んできた。


「そっすか?ジブンはそこまで気にならないっすけどねぇ。諒一先輩が隣に並んでくれるんであればいつでもウェルカムっす」


「ま、舞香さん!」


 パシパシと涼葉から叩かれて舞香は笑っている。


 予期せず、朝からとても賑やかな朝食になり、諒一は気分が良くなり元気に登校できそうだ。と自然と笑顔が浮かぶのだった。

 

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