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60. 好みのタイプは?

その日も牛島は諒一に対して嫌がらせに近いことをしてきて、壮太や大志を憤慨させていた。だがそういった牛島の行いを憤っていたのは彼らだけではなかったらしい。


休み時間に涼葉や篠部を含む数人の女子が談笑していた。なんてことない話だったのだが、いつの間にか好みの男性のタイプの話になった。

当然クラス中の男子はその会話に耳をそばだてていた。


「男性の好み、ですか?」


そしてその矛先は同席していた涼葉にも向けられた。


「私は……あまり好みというのは無いんですが……」


そう言ってちらりと諒一を見る。篠部など面白そうに諒一の反応を見ている。


「そうですね、具体的には……強いて言えば私の事をちゃんと見てくれる人、でしょうか」


少し微笑みながら涼葉がそう言うとすぐに篠部が乗っかる。


「ほうほう、では諒ちゃんがそうだと?」


ニヤニヤしながらそう言う篠部を「もう」と言いながら涼葉は軽く叩いている。


「でもそうですね。だから逆に全く私の事は見ないで、自分の事ばっかり押し付けてくる人はちょっと……例えば私が大切に思っているものを平気で傷つけるような人は……嫌いです」


涼葉にしては珍しく、はっきり嫌いと言い切った。これには篠部も目を見開いて驚いているようだ。そして涼葉が言っている事が誰に向けられた事なのか、事情を知っている者であればはっきりとわかった。


ガタン!と椅子の音をさせて牛島が教室を足早に出て行った。本人にも涼葉の言葉に乗せられた意味が分かったのだろう。

それを追いかけるようにして数人の男子が出て行ったが、そんな事はどうでもよかった。


諒一は涼葉の傍にきていた。半ば無意識に……

そして涼葉の背中をなでる。


「どうしたんですか?りょういちくん。そんな顔して……別に背中はかゆくないですよ?」


いつもと変わらないような表情で涼葉は言うが、諒一はやめなかった。


「いや……なんとなく俺がやりたかった」


目を逸らしたまま諒一がそう言うと、涼葉は普段見せるようなフニャリとした笑みを一瞬だけ浮かべると


「そうですか……」


というだけで、諒一の好きにさせた。周りの女子は涼葉の笑みも事情もわからないのか、諒一の行為に首をかしげるばかりだったが、位置的に篠部と大志、壮太は涼葉の油断した笑みを見てしまっていた。


そして、顔を見合わせると「あれはヤバイ……」と認識をあらたにした。



その昼休み……いつものように昼食を一緒にとろうとして机を寄せていると、普段は諒一と涼葉を隣同士にしようとしてくる篠部が待ったをかけた。そして間に大志を入れようとする。


「なんだ、どうした?」


訳が分からず諒一が言うと、篠部が諒一と涼葉を見て言った。


「諒ちゃんは学校にいる間は涼葉ちゃんに近づかない方がいいと思います!」


「ええ?」


篠部の突然の宣言に驚く。涼葉も目を白黒させている。

大志や壮太に目をやると、仕方ないかなあ……と言い、苦笑いをしている。


「そんな顔を?」


涼葉が驚きの声を上げた。結局座る場所については涼葉が悲しそうな顔をしたため、いつも通りである。バッグから諒一の分のお弁当を出して、渡しながら驚いている。


「そうだよ!私も見てキュンとしちゃったもん。禁断の道に引きずり込まれるかとおもったわ」


そう言いながら自分の肩を抱いてくねくねする篠部を放置して、苦笑しながら大志が続けた。


「うん、普段見る笑顔と全然違ったからさ、あの笑顔をみたら卯月さんの事を好きになる奴が増えると思う」


大志がそこまでいうのだから相当だったのだろう。


「そんな笑顔だったの?」


諒一は顔を背けていたので、見ていない。涼葉に聞くと、当の涼葉は首をかしげている。


「ちょっと記憶にないんですよねぇ。でもそこまで気にすることもないかと思いますけど……」


「自覚がないのが一番怖い。諒一、お前気を付けとけよ?」


壮太がそう言うが、いったい何をどう気をつければいいのか教えてほしい。


「まぁ、それはともかく卯月さんの事情は俺たちも理解してるから協力する。今日みたいな感じでいいんじゃないか?」


 大志がメガネの位置を直しながらそう言った。諒一も概ねこんな感じかと掴んできている。距離感が重要だと。


「でも、涼葉はもうあんな事はやめた方がいいと思う」


 諒一が弁当に舌鼓を打ちながら涼葉に向かって言った。それを聞いた涼葉がキョトンとした顔で諒一を見る。


「ほら、好みのタイプって話の時だよ。あの時明らかに特定の誰かに向けて言っただろ?あんな事言ったら涼葉が恨まれるかもしれないじゃないか」


 少なくとも、当人や心当たりがあるならいい気はしないだろう。恨みまではしなくても、涼葉に対して悪感情を持たれるのは諒一としても看過できない。


 涼葉も分かって言ったのだろう。諒一が何を言ってるかすぐに理解して俯いた。


「でも……」


「涼葉が苦手なタイプってのはわかるけどさ?わざわざ波風立てることはないだろ?涼葉がどうしても無理だって言うなら俺が……」


「それです!」


「え?」


「そうやって、りょういちくんがかばってくれたりするから……あの人りょういちくんに嫌がらせして……陰湿じゃないですか!」


 パチリと箸を置いて下を向いたまま、涼葉ははっきりと言った。


 あまりはっきりとした言い方をしない涼葉には珍しい事なので、全員が手を止めて涼葉を見る。


「……まぁ、さすがにどうかとは思うよな」


 壮太が苦笑して言った。壮太や大志もやめるように言ってくれたが聞かなかった。

 ただ、諒一はある程度は覚悟していたので、割と平気だったりする。


「ありがとうな、涼葉」


 そう言って諒一は涼葉の背中を優しく撫でる。涼葉は割と撫でられる事が嫌ではないのか、抵抗したりしない。


「でもさ、それも含めての計画だからさ。一番は涼葉に被害が及ばない事だから、そう意味では成功といえるんじゃないか?」


「ほぇー……一番の被害者の諒ちゃんがそう言えるのはすごいねぇ」


 篠部がしげしげと諒一の顔を見て感心したように言う。


「でも……」


 それでも涼葉は納得いかないのか、表情が暗い。


「あいつもさすがに可能性がないとわかれば諦めるだろう。水篠は大変だろうけど、もう少しの辛抱じゃないかな?」


 大志が諒一をいたわるように見ながら言うと、涼葉は不安そうに諒一を見ながら箸を持ち直した。


「それでも……見ていてつらいです」


 小さく呟くのを聞いて、諒一は優しく微笑むと宥めるように背中を撫でるのだった。


「……諒ちゃんも大概だね」


 篠部が呟いた声は諒一達には届かなかった。

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