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56. 付き合ってる

下校中、涼葉は機嫌が悪そうに歩いている。愛想が悪いのに通りすがりの生徒の視線を集めているのは、やはりそれだけ涼葉の容姿が優れているという事だろう。


涼葉はそのまま諒一の袖をつまんだままなので、涼葉を見た者がそのままの流れで諒一も見るから非常に居心地が悪いものになっている。

 特に男子の一部は、諒一に対して悪感情を見せる者も多い。


 その視線を振り切りながら、昇降口まで来てようやく涼葉は諒一から手を離した。


「怒ってるか?」


 諒一がそう言うと、涼葉はチラッと諒一を見たあと首を振った。


 上履きから靴に履き替えながら涼葉はため息をつきながら話す。


「前の学校でもこんな事ありましたから……でもあんな感じで周りを押しのけてグイグイくる人は苦手と言うか……嫌いです」


 はっきり嫌いと言う事は珍しい。普段はやんわりとした言葉でしか涼葉は話さない。


「それに……りょういちくんをバカにしてました。りょういちくんは私をかばってくれてたのに……」


 そう言いながらプリプリと怒る涼葉もまた珍しい。


「まぁ、俺はともかくちょっと感じ悪かったよな。壮太達にも関係ないだろ、とか言ってたし」


「一定数いるんですよねぇ、あんな人」


 そう言って涼葉は大きめのため息をついた。さっきまではほとんど喋ることもできなかったのに、諒一の前ではこうして話してくれる事が嬉しくて、諒一の頬はどうしても緩んでしまう。


 学校の外に出てしまった後に諒一を振り返った涼葉は

 少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「いきなりりょういちくんにも迷惑をかけてしまいましたし……」


 そう言いそうな気がしていたから、諒一は涼葉の額に軽くチョップした。


「てい」


「……いきなり何するんですか」


 痛くはなかっただほうが、額を押さえて少しにらむ涼葉の頭をポンポンと叩く。


「この前話したでしょ?涼葉が告られて、断っても聞いてくれない時の対処」


「……彼氏がいるからって断る。聞かれたらりょういちくんの名前を出す」


「そ!俺は涼葉の壁になるつもりでいるんだからあれくらいで気にしないの」


 そう言うが涼葉は納得いかない顔をしている。



「でもそれは告白された時の事で……というか、りょういちくんクラスメイトに普通に彼女じゃないって言ってたじゃないですか……」


「あ……」


 言ってた。確かに……


「その時になって付き合ってるって言っても信じてくれない気がするんですが」


 若干ジトっとした目で見られ、諒一は焦る。


「そうだった……ごめん」


「いや、謝らなくてもいいですけど……その、どうしますか?」


「え?何を」


「なんて言いますか……その、付き合ってる……事にしときます?」


 顔を赤くして上目遣いでそう言う涼葉に、諒一は思わずたじろぐ。


「そ、そうだな……そうしといたほうが……いいのかなぁ?」


 だんだん自信がなくなってきて、尻つぼみになってしまう。


「私はいいですよ?りょういちくんが彼氏さんなら文句はないです。誰か文句をつけてくるなら怒っちゃいますよ?」


 涼葉が言った事の意味が頭に染み込み、顔が熱くなる。


「ま、涼葉がいいなら……それで行こう。あの牛島って奴なんか怪しいし……」


 顔が赤くなってる自覚があるので、涼葉に見られるのが恥ずかしくなって、諒一は顔を逸らしながら言った。


 声を出さないようにして、涼葉が笑っている気がした。



「諒一くん、涼葉ちゃん、おかえり!どうだった?」


 マンションに入ると、エレベーターで亜矢子が降りてきて涼葉に抱きつくようにして迎えてくれる。

もしかしたら諒一達が帰ってくる時間帯を見計らって、気にしていたのかもしれない。

そう考えると気にしてくれているんだなぁと感じ、胸が暖かくなる。


「はい、大丈夫でしたよ?まぁ、今日はホームルームだけでしたし……」


 涼葉も嬉しいのか、笑顔で報告している。


「それでもよ。クラスの人はどう?やっていけそう?」


「……まあ、変な人はいなさそうでした。取り敢えずは頑張ります」


 涼葉がそう言うと、亜矢子は心配そうな顔をしながらも頷いてくれた。


「わかったわ。さ、着替えてゆっくりするといいわ」


 そう言うと亜矢子はエレベーターのボタンを押す。さっき亜矢子が降りてきたばかりなので、ドアがすぐに開く。


 亜矢子も一緒に乗り込んできたところを見ると、やっぱりわざわざ迎えに来てくれたのだろう。


 亜矢子が六階で降りて、諒一達は七階でエレベーターを出る。部屋に入る涼葉に手を振って別れると諒一も自分の部屋に入った。


 制服がシワにならないようにハンガーにかけて部屋着に着替える。

 リビングのソファに座ると、やはり気を張っていたらしいのか意外と疲れを感じた。


 今日は早めに休もう。そう思って、まずは夕食はどうしようかから考えないといけない。

 食べ物に興味がないので、どうしても億劫に感じてしまう。

 ただ、食べないとなぜか確実に涼葉にバレて怒られるので、冷蔵庫にあるものでどうにか……と重い腰を上げた。



 翌日、学校への道を歩いていると、途中で同じ制服を着た女子が立っている事に気づいた。見覚えがある。


「涼葉、篠部さんがいる」


 気づいていない涼葉にそう伝えると、涼葉は小さな声で「あ、ほんとだ」と呟いた。


 特に一緒に行こうとか、待ち合わせをしていたわけではないらしい。

 そのまま歩いていると、篠部がこっちに気づいてパッと表情を明るくさせて、軽く手を振った。


「おはよう!涼葉ちゃん、水篠くん」


 それに挨拶を返すと、篠部は涼葉の隣に並んで歩き出した。


「私のうち、この少し先なんだ。よかったら一緒に行ってもいい?」


 諒一達の通学ルートのちょうど中間あたり。その近くに篠部の家はあるらしい。


 涼葉も微笑んで頷いているので、嫌という事はないようだ。

 諒一としても、涼葉に仲の良い友人ができる事はいい事だと思っているので、邪魔はしない。

 二人並んで話しながら歩くのを少しだけ距離をとって歩く。


 邪魔したくないという、それだけのつもりだったのだが涼葉は何か言いたげな顔で諒一を見てくる。


 それに、どうした?と声に出さずに聞くと、プイッと顔を逸らされた。


 どうしてそんな反応をされるのか、分からずに変な顔をしていると篠部がやや気まずそうに諒一を見る。


「あの……水篠君?私、涼葉ちゃんと仲良くなりたいけど、二人の邪魔をするつもりはないの。」


邪魔とかそんな事は考えていない。そう言いたかったが、諒一が距離を取ったことがそう思わせたらしい。

あらためて涼葉の隣に並ぶと、横目で見ていた涼葉がそれでよろしい。と言いたげな視線を送ってくる。そこで昨日の会話をようやく思い出した。


あ、俺は涼葉の防壁になるんだった。あくまでフリだから必要以上に親しくする必要はないけど、それなりの距離感はたもっておかないといけない。俺はだめだなぁ……と頭をかきながら涼葉には苦笑を返した。

そんな俺たちを篠部がずっと見つめていた事にこの時は気付いていなかった。



 

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