55.久しぶりの登校
壮太は、しょうがないなぁと言う感じで見ているし、どうなってんだ?と、諒一は首を傾げた。涼葉もいきなりそんな空気になっていて、キョロキョロと視線を彷徨わせている。
「ごめんなさい、なんか嬉しくなって、つい……。ごめんなさい涼葉ちゃん」
シュンとしたまま篠部が涼葉に頭を下げる。
「え?あ、あの……」
涼葉も混乱しきりである。
「水篠くんも、ごめんなさい不快な思いさせちゃったよね?」
篠部は、涼葉だけではなく諒一にまで謝罪してきた。さすがにそれには諒一も驚く。
「え、俺?いや……俺は別に」
「ううん、いいよ。彼女さんがベタベタされてたらムカムカしちゃうよね。ほんとごめんなさい!」
篠部が机に座ったままだが、その机に額をぶつけかねない勢いで頭を下げるので、諒一も混乱する。
しかも言ってる事が理解できない。
「い、いやちょっと待って!いろいろ誤解が生じてる気がする。」
諒一がそう言うが、大志が篠部を責める事をやめないので、篠部は申し訳なさそうに、諒一にまで謝ってくる。
「ち、ちょっと……」
「はい!そこー。親睦は休み時間に深めなさい!」
さすがに今はホームルーム中であり、先生の話を聞かず騒いでいた。
怒られても仕方ない。
「……ごめんなさい」
その事で、さらに篠部が申し訳なさそうになっていた。
その後はおとなしくして、ホームルームが終わり、今日はこれで終わりとなる。
先生が教室を出ると、一気に騒がしくなる。
「涼葉ちゃん、水篠くん、さっきは本当にごめんなさい」
諒一達の机のとこまで来て篠部が頭を下げる。涼葉の事なので諒一が「もういいよ」とは言えず、困っている。
涼葉もどうしていいか分からなくなって諒一を見てくる。
「ま、まずは落ち着こう。さっきも言ったけど、なんか誤解が生じてる気がする。取り敢えず、涼葉には馴れ馴れしすぎたから謝ってるって事でいいか?」
眉を下げて篠部が頷く。
「涼葉はもういいよな?」
性格的に謝っている人間に、よっぽどのことじゃない限りいつまでも怒るようなタイプじゃないと思っているので、そう聞けば涼葉はコクコクとうなずいている。
「そんで、だ。何で俺に謝るんだ?」
諒一にまで混乱を広げた要因について訊ねる。さっきの流れだと涼葉にだけ謝ればいい話だ。
そう言うと、篠部は言いづらそうに言った。
「だって……アタシが涼葉ちゃんに馴れ馴れしくして水篠くんの気分を害したっていうか……そりゃ気分よくなかったかなぁってアタシも思ったし……」
「え?いや、何でそんな事になってるんだ?」
諒一がそう言うと、篠部だけじゃなく大志と壮太も首を傾げている。
「えっと……篠部が卯月さんにベタベタしてた時にちょっとイラッとしてただろ?」
壮太がそんな事を言うので諒一からすれば驚きである。なんなら涼葉もびっくりして諒一を見ている。
「いや、そんな事は……そりゃ、涼葉が嫌がる事はやって欲しくないとは思ったけど、さっきは涼葉もびっくりしてただけで、そんな嫌がってはなかったし、そこまでは……」
諒一がそう言うと、三人でまた顔を見合わせている。
「俺が篠部に注意したのは、水篠が怖い顔をしていたからだぞ?きっと彼女に馴れ馴れしくされて、イラついたのかなって思ってさ」
大志がそんな事を言ってきた。
「俺が?」
そんな顔をしていた自覚がないんだが……
しかし、篠部達三人の顔を見るとそう思っているのか、お互いに頷き合ってるし……
「と、いうかそもそも彼女とかそんなんじゃないから。俺はともかく涼葉に悪いから……」
諒一が少し語気を強めて言うと、三人は眉をひそめる。涼葉も困ったような顔をして諒一を見ている。
「なんだよ……」
その反応を見て諒一は不貞腐れたように言った。
「いや、まぁいいんだ。うん、水篠が怒ってないならいいんだ」
ごまかすように笑って壮太が話を終わらせる。三人とも何か言いたげな微妙な表情をしているし、涼葉はずっと俯いている。
さて、じゃあ帰るかとなったところで、他のクラスメイトに取り囲まれた。さっきまでは大志達と話していたから遠慮して様子を見ていたらしい。特に自己紹介の時に注目してた男子は喋りたくて仕方ないといった様子だ。
ただそのほとんどが涼葉に集中している。
「ねぇねぇ、卯月さんて部活何やるつもり?」
「どこに住んでるの?」
「今度一緒に遊びに行かない?」
などと、周りからいろんな質問が飛んできて、涼葉はひどく困っている。
大志達は取り囲む輪から押しやられ、苦笑いしながらこっちを見ている。
「いや、あの……」
涼葉が何か言おうとしても、それより早く質問がくるからどの質問にも答えられないでオロオロしている。
諒一の方にはほとんど質問が飛んでこないので、やはり可愛い女の子の方に興味をひかれるのだろう。
ただ涼葉は見た目で近寄る人を信用しない。可愛くなくていいと自分で言うほどに、そのせいで嫌な事にあってきている。
見かねた諒一は質問をさえぎって止めた。
「悪い、ちょっと待って欲しい!俺もそうなんだけどさ、涼葉も初めての人と話すのに慣れてないんだ。もう少し手加減して欲しい」
そう言うと一部の人はそうなのかと一歩引いてくれたが、一部の特に男子は納得行かなそうな顔をして、諒一に詰め寄った。名札には牛島とある。
「いや、それを何でお前が言うんだよ。さっきの話聞こえたけど、お前卯月さんの彼氏でも何でもないんだろ?それなら関係ないじゃないか」
そうだそうだと残りの連中も言い出す。
「そう言われると弱いんだが……でも涼葉が引っ込み知りなのは確かなんだから加減はしてほしい」
すると諒一の言葉を聞いて、牛島は馬鹿にしたような顔になる。
「なんだよ引っ込み知りって……変な言葉使ってんじゃねーよ」
そう言われて諒一も恥ずかしくなった。普段からよく使っていたから、つい言ってしまった。
思わず言葉に詰まった諒一を見て、牛島は得意げな顔になる。
「俺は卯月さんに話をしてるんだからさ、邪魔しないでくれるか?」
そう言って諒一の胸を押す。それほど強く力を込めたものじゃなかったが、思わず一歩下がってしまった。
牛島はそれで勝ったとばかりに涼葉に向き合う。
「卯月さんも誰も付き合おうが、こいつには関係ないよな?お節介焼きなの?こいつ」
馬鹿にするように笑いながらそう言うと、その周りの男子も一緒になって笑っている。
「おい、お前ら……」
さすがにまずいと思ったのか、大志と壮太が割って入ろうとする。
それにも、お前達も関係ないだろ?と言った牛島は、涼葉を見て言葉をなくした。
それまで一気に話しかけられて困ってはいたが、それなりに愛想良く対応していた。
普段気を抜いた時に見せる柔らかい笑顔とはだいぶ違ったが、十分好感の持てる印象だったと思う。
その涼葉は無表情になって、牛島を見ていた。
「あ、あの……卯月さん?」
そう言われても、ニコリともしないで見つめる。その様子に牛島は何も言えないでいたが、プイッとそっぽを向くと、向いた先にいる諒一に話しかけた。
「りょういちくん、帰りましょうか?」
少し固いが笑顔を浮かべてそう言うと、カバンを持って諒一の袖を引っ張る。
「あ、ああ。そうだな帰ろうか……」
その雰囲気に諒一も何も言えずに、自分のカバンを持つ。
涼葉が諒一の袖を引きながら、動こうとすると周りを囲んでいた生徒が避けてサッと道ができた。
牛島とは目も合わせようとしないで、その他の生徒に少し微笑んで会釈しながら歩き出す。
囲んでいた生徒の後ろで心配そうに見ていた篠部の姿を見つけると、篠部には「じゃ、また明日」と声をかけて、篠部の表情を明るくさせている。
そのあとはさっさと教室を出てしまい、諒一達の一日目の登校は終わった。
早速友人ができた喜びと、少しの不穏を感じさせながら。




