49.お友達
「は?何勝手な事言ってんだ?行きたいならその女置いていけよ」
「ひゃはは、そうそう。お前はおよびじゃねーんだからよ!」
……涼葉だけ先に逃がすか。諒一一人なら最悪どうなってもいい。喧嘩になって勝とうが負けようが、痛い思いしようが涼葉が無事ならこっちの勝ちだと思っている。
金髪の男の目を見ながら涼葉に手で逃げるよう伝えた。涼葉は首を振ったが、短髪の男の方が涼葉にちょっかいをかけてきている。
「もし涼葉が捕まったら何もできなくなる」
涼葉にだけ聞こえるように言うともう一度逃げるように押した。涼葉はそれでもたっぷり逡巡していたが、ようやく逃げ出した。
短髪の男が追おうとするのを前に立って阻む。
金髪が分かりやすく不機嫌になっているのが分かる。
「はあ……何してくれてんの?カッコつけちゃってさあ……せっかく可愛い子見つけたのに邪魔しやがって!」
「ふざけた事してんなよお前」
諒一はただ黙って二人の男を見る。内心では逃げ出したい気持ちと、涼葉が離れる時間を稼ぎたい気持ちがせめぎ合っている。
金髪の男が諒一を押し除けて行こうとするのを、手を掴んで止める。
それを見た短髪の男が諒一の襟首を掴む。殴るつもりなのか右手をふりかぶっていた。
精一杯の虚勢で、目は閉じないようにして短髪の男の顔を見続けていると、背後から足音が近づいてきた。
「なにしてんの北野」
2人の男の動きが止まった。諒一を掴む手を振り払って後ろをみると、知らない同年代くらいの男子が二人立っていた。よく見るとその後ろに、見知らぬ女子に肩を抱かれた涼葉がいる。
「ちっ!渡……勝俣」
知り合いなのか、金髪が舌打ちする。
「すぐに警備員が来る。逃げるなら今だとおもうが?」
もう一人の方が強めの語気で言うと、金髪が思いっきり諒一を睨みながら立ち去っていった。
入れ替わるように涼葉が走ってきて、諒一にしがみつく。
「りょういちくん、その……あ……」
言葉にすることもできない涼葉の頭を優しく撫でると、助けてくれたらしき二人に向き合った。一人は茶髪でイケメンだが、やや軽薄そうな雰囲気で、一人は真面目そうな雰囲気でにこりともしない。
「ありがとう、助けてくれて。正直どうしようかと思ってた」
そう言って頭を下げる。
「その割には落ち着いてたじゃん。まあケガとかなくてよかったよかった」
軽い感じでそう言うと茶髪の男が諒一の肩をパンパンと軽く叩く。
「あいつらは、一応同じ学校の同級生なんだ。迷惑をかけてすまない。……君の彼女さん?が泣きながら必死に助けを求めてきたんだ。間に合ってよかった」
真面目そうな方の男がそう言って安心したように息をついた。
「ああ、いや彼女ってわけじゃ……」
ないと言おうとした諒一の声にかぶせるように、元気な声で涼葉の肩を抱いていた女の子が言った。
「ほらほら立ち話もなんだし、自販機コーナー行こ?彼女さんずっと泣いてたんだよ」
そう言ってその女の子は真面目そうな男子の腕にしがみつく。
そしてまた、自販機コーナーに戻ることになった。
◆◆ ◆◆
「ほんとうにありがとう、俺は水篠諒一といいます」
「……その、卯月、涼葉です」
自販機コーナーのソファに座り、改めて自己紹介をしている。
涼葉はようやく泣き止んだものの、人見知りを全開にさせて諒一の腕を離さない。
「見せつけてくれちゃってぇ。俺は渡 壮太壮太でいいよん」
茶髪の方の男子はこのこのと、諒一を突っつきながらそう名乗った。それを見てため息をつきながら、真面目そうな方の男子も名乗る。
「俺は勝俣 大志だ。俺も大志でいい。こいつが鬱陶しくなったら叩いていいからな」
大志がそう言うと、壮太がそんなぁ!と大げさに嘆いている。
「そんで私が篠部 るみ大ちゃんの彼女でーす。みんな清和中の二年生。君たちも一緒くらいに見えるけど……見たことないね」
「俺たち、明日から清和中に編入するんだ。同じ二年生だから……よろしく」
諒一が言うのに合わせて、涼葉もぺこりと頭を下げた。
「ええ!そしたら新学期から来る転校生って君たち?」
るみがそう言って諒一たちを見る。その後ろでは壮太も大志も目を丸くしている。
まさかの同じクラスだった……
「さっきの奴らもそうだ。クラスは別だが……少し荒れててな。昔は割と仲良かったんだけど……」
やっぱりさっきの奴らと、目の前の彼らは知り合いだったようだ。だからこそあっさり引き上げたんだろう。
壮太たちはこれからカラオケに行くらしく、ホームセンターを出た所で別れた。一応誘われたが、今日はそんな気分じゃないと言って断った。
知り合ったばかりの人とカラオケに行くなんて事は、諒一と涼葉にはまだ難しい。
今はモール内のファストフード店で食事をとって、ようやく涼葉も落ち着いてきたところだ。
「はぁ、怖かったです」
それでも涼葉はすっかり元気をなくしている。
「ごめん、涼葉。俺がもっと気にしてれば……」
「りょういちくんが謝ることじゃないですよ。私がもっと毅然と断る事ができればいいんですが……」
二人してシュンとしてしまうが、ここは気を取り直す。せっかくのお出かけなのだ。
「これからどうする?涼葉もう一か所行くって言ってたよね?」
そういうと涼葉は少し迷っていたが、ためらいがちに行きたいと言う。
「わかった。じゃあ行こう。どこに行く?」
と聞くと、涼葉は遠慮がちに「ちょっと洋服を……」と言った。ここのモールには衣料品を扱うお店があった。
ファストフード店を出てさっそく向かう。あわよくば涼葉に自分の洋服を見立ててもらおうと思っていたが、いろいろあったので、すっかりそんな気分じゃなくなっていた。
歩いていると、ふとマネキンが着た洋服に目が留まった。長袖だから秋物なのだろうか、涼葉が着たら似合うだろうなと思っていると、諒一がじっと見ている事に気付いた涼葉が足を止める。
「あの服がどうかしたんですか?」
「ああ、いや。涼葉に似合いそうだなって。」
そう言うと涼葉は近づいて洋服を手に取って見ていたが、少し考えた後戻した。
「……今日はやめときます」
そう言って、少し周りを見た。
「あの……りょういちくん、少しの間別行動でもいいですか?ちょっと見たいものがあるので」
と、言い出す。
さっきの事があるので、気になったがこの辺りは人目があるから大丈夫かと思いなおす。それに諒一に見られたくない買い物もあるだろう。
「分かった、じゃあそこのベンチで待ってるよ。俺も少し見て回るけど長くはかからないだろうから。その……何かあったらすぐに連絡して?」
「そうですね……じゃあまた後で」
涼葉もまだ少し不安げな様子が見えるが、小さく手を振って人混みの中に消えていった。
それから二十分くらいで涼葉は戻ってきた。その頃には諒一も自分の用事を済ませてのんびり待っていた。
「結構買ったんだね」
涼葉は紙袋を三つも下げていて、どれもそこそこ膨らんでる。諒一がそう言うと涼葉は少し恥ずかしそうに微笑んだ。。だいぶいつもの涼葉に戻ったみたいだ。
「はい」
手を出すと涼葉は首をかしげる。紙袋を指すとこれくらい自分で持つと言う。
「違う違う」
諒一は笑って、涼葉が持っている紙袋を取って、右手で持つ。そして左手で空いた涼葉の手を握った。結局紙袋も持つが、目的は手を繋ぐことの方だ。
「……あ。」
諒一の意図がわかって、涼葉はわずかに顔を赤らめながら「もう!」とふくれてみせたが、すぐにうれしそうな顔になっていた。
それからまた結構な時間をかけてマンションまで帰ってきた時にはもう日が暮れかけていた。
「ふう……ちょっと疲れましたね」
諒一の部屋のいつもの場所に座った涼葉は普段より力が抜けている。諒一がコーヒーを入れると嬉しそうに受け取って冷ましながら飲んでいる。
それを見ながら諒一は自分の買ってきた紙袋を涼葉に渡した。
「え?」
不思議そうに諒一を見る涼葉から目を逸らしながら、紙袋を押し付ける。
恐る恐る紙袋をのぞいた涼葉が「あっ」と小さく声を上げる。
涼葉が紙袋が出したのは、洋服を見にいった時に諒一が似合うと言って、涼葉が興味ありそうにしながら買わなかった服だ。
「その、せっかくのお出掛けだったし、俺が似合うと思ったから……もらってくれると嬉しい」
そう言うと、涼葉は驚いていたが洋服を紙袋ごとキュッと抱きしめた。
「ありがとうございます!今度お出かけする時に着て見せますね」
嬉しそうに笑いながらそう言ってくれて、諒一はホッとした。
あの時、今度にすると言って戻して買っていないのは確認していたが、勝手に買っていいものだろうかと悩みながらも購入してきたのだ。
涼葉は紙袋ごと大事そうにしばらく見ていたが、思い出したように自分が買ってきた紙袋のうち二つをとって、中から洋服を出した。
「あ、あの……実は私もりょういちくんの服を、買ってて……よかったら」
そう言って差し出してくれたのは、シャツとズボンが入っている。両方とも諒一が選びそうなものより、ちょっとだけカジュアルな感じになっている。
「うわ、ありがとう……実はさ、服を買いに行くって聞いた時に、よかったら見立ててほしいなんて思ってたんだ。俺、服とかあまり気にしないっていうか、無頓着だからさ……」
後から聞けば、諒一が着るものに無頓着なのは涼葉も気にしていたようで、それならば選んでプレゼントしようと思っていたらしい。しかも諒一が買ってきた洋服もほんとは気に入って買おうと思ったんだけど、値段を見て買ったら諒一の服が買えなくなるので、諦めたと言う。
……頑張って買ってきてよかった。
しばらくお互いニマニマしながら過ごしていたが、涼葉が自分の荷物を見て思い出したように言った。
「りょういちくん、そう言えば照明替えるのってどれくらい時間かかるんですか?」
買って来た照明をいつ取り換えるか考えたのか、そう聞いてきたので答える。
「んー?十分くらい?」
「そんな早くできるんですか⁉」
涼葉が買った照明はシーリングライトという種類のものなので、いまついてる照明を外して付け替えるだけだ。
「え……じゃあ今日から使えたりします?」
それに頷くと涼葉はいそいそと買い物の中から照明を出してきた。
「お願いします」
◆◆ ◆◆
そのかわいいシーリングライトは涼葉の寝室の天井につけられた。リモコンでファンが回り風を下に向けて送ってくれる。ベッドに寝転んでその照明を見た涼葉はうれしそうにしている。
「うん、かわいいです。りょういちくんも見てください、照明の色で雰囲気も変わるんですよ?」
リモコンで照明の調光機能を使って、ニコニコと満足げな様子で笑いながら、明るくしたり暗くしたり、暖色にしたり寒色にしたりとご満悦の涼葉だった。
そんな涼葉を見ていると自分も嬉しくなって、いつの間にかさっきまでの疲れを感じなくなっていた。




