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38.初めてのお誕生会

 だいぶ気分が上向きになったのか、涼葉は笑顔でどれから食べようか迷っているようだ。


「で、どれがりょういちくんが作った料理なんですか?」


「聞かないでくれ、拙いのがわかるから!」


興味津々な雰囲気でどれを作ったのか聞いてくる涼葉に、諒一は頑なに教えようとしない。


「そんなことないですよ?こうして見ていても、どれがりょういちくんが作った料理だかわかりませんもん。教えてくれないんですか?」


 ちょっとがっかりした雰囲気を出す涼葉に諒一が焦っていると、舞香が割り込んできた。

 

「ふふふ。諒一先輩が作ったのは、これとこれ。あと、それと……あれれ、諒一先輩てば、ちゃんと自分が作った料理は涼葉先輩の近くに置いてるじゃないっすか。まったく素直じゃないんすから」


「っっっ!」


あっさりと舞香にどれを作ったのかばらされたあげく、涼葉に食べてほしい気持ちが暴走して全部涼葉の手の届く範囲に並べていることも暴露され、羞恥のあまり声も出せなくなってしまう。


「へぇ、ふふふ……いただきます……。うん、おいしいです。りょういちくん」


諒一が作った料理を食べて笑顔になった涼葉がおいしいと言った。うれしいのだが、不思議な感覚が頭と胸をかきむしっていてうまく返事を返せない。


「ふふ。諒一君うれしすぎておかしくなってるわね。涼葉ちゃんどんどん食べてね?」


「はい!」


にこやかに返事をして、つぎつぎとはしを伸ばす涼葉を見ているうちに、少し落ち着いてきてみんなも食べ始める。涼葉がおいしいと言ってくれるたびに言葉がつまるが、涼葉は嬉しそうに食べてくれている。

しかも、やはり諒一が作った物は分かるのか、諒一が作った物を食べるたびに諒一の顔を見て、おいしいです。と的確に言ってくるのでずっと調子が狂いっぱなしなのだ。


「ふー……いっぱい食べちゃいました。こんなに食べたの久しぶりです。あの、今日はこんなにしていただいて……」


 涼葉はいつもよりたくさん食べた上に小さめとはいえケーキまで平らげて満腹のようだ。急に決まった誕生日会のため、ケーキだけは市販のショートケーキになってしまった。

 

 一応お菓子屋さんに連絡を入れてみたが間に合わないと言われてしまったのだ。

 

「あらあら、涼葉ちゃん?まだ少し早いわよ。ほら諒一くん。もう、しっかりしなさいな」


 亜矢子がそう言って背中を押してくれるが、諒一の精神はだいぶ疲弊している。それでも涼葉にとことん喜んでもらう。それだけを考えて準備したのだ。と、諒一は気合を入れなおす。


 諒一は涼葉に見えない位置に置いていた手提げ袋をずっと涼葉の前に置いた。


「その、正直喜んでもらえるかは自信ないけど……」


 頭をかきながらそう言うと、それが誕生日プレゼントである事に遅れて気付いたのか、涼葉が瞳を大きくしている。


「私と総一郎さんからはこれね。」


「ジブンはこれっす!」

 

「亜矢子さん達も舞香さんまで……」


 涼葉は目の前に置かれた自分へのプレゼントを見つめて、少しオロオロとしている。


「その、俺が買えるようなものだから、あんまり期待しないでほしいっていうか……」


「ふふ……私たちもたいしたものじゃないぁら遠慮はいらないわ。開けてみたら?」


「そうっす、時間がなかったんで、当たり障りのないものになってしまったっすけど……」


 そう言って舞香は頭をかく。舞香に誕生日会の事を話したのは昨日だったから余計に時間がなかったと思う。

 

 皆から言われて涼葉が恐る恐るプレゼントの包みを開くと、亜矢子達のプレゼントは可愛らしい飾りのついたネックレス?ペンダント?とにかく首につける装飾品だ。舞香は入浴剤とタオルのセット、諒一はスマホとリンクできるスマートウォッチだった。

 

 涼葉は何ともいえない顔で目の前のプレゼントを見つめていた。


「涼葉ちゃん、あまりお気に召さなかったかしら?」


 心配気に亜矢子がそう言うと、涼葉は慌てたように両手を振って否定する。


「ごめんなさい、嬉しいんです!でもなんか、何もしてないのにこういう物を貰うのが気の毒と言うか後ろめたいというか……どうしてもそんな気持ちになっちゃって……」


 困ったような顔でそう言うと弱々しく微笑む。


 その顔を見てようやく涼葉が誕生日のお祝いを拒否していた原因の一端を知った。遠慮。これに尽きる。 

 涼葉にとって誕生日だからと、ただで物を貰ったり食事を振る舞ってもらったりすることに慣れないのだろう。


「私の母はいつも遅くまで働いてましたし、誕生日だからって特別に何かあるわけでもありませんでしたから……」


 少し眉を下げて涼葉は言いにくそうに言った。

 しかも話を聞くと、小学生の頃に友人が主導して涼葉の誕生日会をしてもらった事があったけど、今日と同じような反応をする涼葉を見て、良い子ぶりっ子していると思った一部分の同級生達からかなりの陰口を叩かれていたという。

 おそらく涼葉がかわいくて男子から人気がある事を妬んでの事もあったのだろう。


 涼葉はそういう事を話すとジュースを一口含んで喉を潤した。

 

「それだけじゃないんですが……」


 他にも何かあるのか涼葉は少し元気をなくしたようにそう呟いた。


 それを見て諒一はそんな顔を見たくなくて……今日は涼葉が何も気にせず喜んでも良い日なんだと言う事を伝えたくて……


 気づけば真っ直ぐに涼葉を見て話していた。


「涼葉、過去になにかあったかもしれないけど、ここにいる人はみんな涼葉が喜んでくれる事を心から望んでる人ばかりだから……見返りを求めたり、下心があるわけでもなく。ただ純粋に涼葉の事を好きな人がこうしているんだ。涼葉は何も気にせずに受け取っていいんだよ」


 無意識のうちに力を込めてそう言っていた。言ってしまった後で我に帰り、亜矢子さんたちを見たがニコニコと見ていたので間違った事は言っていないかと思うが……

 当の涼葉が呆然とした顔でこっちを見ている。


 そして小さく、ほんとうに小さく「……いいんでしょうか?」と呟く。


「私……小さい頃にこんな誕生日会をしたと聞くたびにお友達が羨ましくって……一度だけお母さんにお願いしたんです。いつも忙しくしているのに……でも、お母さんはそれを叶えるために無理をしてしまって……体調を崩してしまいました。それからずっと思わしくなくて……体調に不安を感じたお母さんはずっと断っていた再婚の話を受けてしまいました。私のためだけに。それか今の義父です。その後母は亡くなってしまいましたし……私のせいでって、ずっと思っていて」


 いつからか俯いて時々滴をおとしている。さっき話したそれだけじゃない。という話の事だろう。いきなり胸の内を話し出した涼葉は、自分でも止める事ができないようで涙をこぼしながらでも、声を詰まらせながでもやめる気配はない。


 たまらなくなった諒一は涼葉の隣に座り、膝の上に置かれた涼葉の手を掴んだ。

 少しだけ驚いたように諒一を見た涼葉は、微笑むだけでそれを拒否する事はなかった。


「義父は狭量な人で……何かにつけて自分のおかげだと言いました。日々の食事も、学校に通える事も……誕生日を迎えてちょっとしたご馳走を食べれる事も……そして誕生日を迎え、大人に近づいていくにつれてあの人の視線が変わっていくのが分かったんです。目線が私の体を見ていましたし……」


 涼葉の辛そうな独白は続いた。そして、涼葉が何に対しても遠慮をする事の原因がわかった。

 そして、父親のくせに子供にそんな遠慮を強いるのみか、義理とはいえ我が娘にそんな視線を向けるあの男に強い怒りが湧いた。


「りょういちくん。顔がこわいですよ?」


 知らず知らずのうちに涼葉の義父に怒りを覚えて……感情が表にでてしまっていたようだ。


「……ごめん」


 慌てて謝って手を離そうとしたが、涼葉のほうからも諒一の手を握っていて、離れなかった。

それに少し驚いたが、今度は優しく涼葉の手を包むように握り直した。


「自分でもそれがあったからかな?って思いはするんですけど、気づいた時にはもう染み付いてて……でも、本当に今日は嬉しかったです。ありがとうございます」


 涼葉がそう言うのを聞いて、諒一は自分のバッグの奥底に封印していた物を取り出す。


 そして、たっぷり数秒迷ってから涼葉に差し出した。


「え……あの、りょういちくん。これは?」


なんの変哲もないカード。むしろお手製感があって出すのを恥ずかしく思い、出せなかったくらいだ。


 あじさいから今日の誕生日会のためにテーブルなどを借りて運んでいる時に見つけて、思いつきで作ったもの。

 四苦八苦しながらパソコンで打ち出したカードを見つけたラミネーターでラミネートしただけの、安っぽい会員証みたいなカードだった。


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