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18.親近感

歩道を並んで歩く。街中と比べると郊外にあるマンション付近は道路も広く大型のダンプなんかでも結構な速度で走っている。

すれ違うたびにかなりの風と土埃を巻き上げながら走っていく。

何気なく涼葉を見ると迷惑そうに顔を背け、髪とスカートを押さえていた。


「…………」


諒一は涼葉の袖を引っ張ると、自分と位置を入れ替えて自分が車道側を歩くようにした。そしてまた歩いていると、さっきと同じように涼葉がじっと見ている。


「え、っと……涼葉ちゃん?そんな見つめられると、照れるっていうか……その」


「あっ!ご、ごめんなさい。その、やっぱりなんかスマートだなって思って。」


スマート?と思ってさっきの事かと思い至る。


「いや、そんな事は……」


ないと言おうとして、少し感じていた事を話してみた。


「あ、でも……なんていうか、涼葉ちゃんにはなんとなく接しやすいっていうか……多分他の女子とかにはこんな事できないと思う」


諒一がおずおずとそう言うと、涼葉は少し驚いた顔をして言った。


「あ……水篠くんも、ですか?実は、私も……不思議なんです、けど。水篠くんは話しやすいって思ってました」


諒一だけでなく涼葉も同じように感じていることに、密かにうれしく思いながら、心当たりを話す。


「多分だけど俺と涼葉ちゃんって環境が似てるっていうか……同じような問題抱えてるし。父親とか学校とか……それで、勝手に親近感を覚えちゃってるのかなって思ってる。その……気を悪くしたら謝るけど」


地面を見つめながら諒一がそう言うと、涼葉は少し感心したような顔をしてから首を振る。


「そんな、気を悪くなんて……でもそうですね。なるほどって思っちゃいました。水篠くんがあじさいに来るって話を聞いた時も……きっとお話とかうまくできない、んだろうなって思ってました。」


 二人とも引っ込み知りですから。と涼葉は笑う。

 

そして、涼葉は地面を見る諒一を覗き込むようにして言った。


「でも……引っ込み知り同士だからこそ、お話できたんですね」


と、嬉しそうに言った。そんな親しくもないのに、親近感があるとか言ったら最悪引かれるんじゃないかと思っていた諒一はなんとなく嬉しくなって涼葉を見つめた。

それに淡く頬を染めながらも、涼葉はご機嫌そうに笑っていた。



にこやかに笑う涼葉に諒一はドキドキしてしまっていたが、その笑顔にやられたのは諒一だけにとどまらず、本屋に向かうまでの間、周囲の人達の視線を随分と集めてしまい、涼葉はすぐにうつむいてしまった。



「ありがとうございましたー」


目当ての問題集を購入した諒一は、書店を出るともう昼時の時間になっている事に気付いた。諒一は買うものが決まっていたから早かったのだが、涼葉は何冊かの本をどれを買うかで悩んでしまい、割と時間がかかってしまったというのもある。


「ありがとうございましたー」


本屋を出たとこで待っていると、諒一の後に並んでいた涼葉も会計を終えて出てきた。


「すいません、時間かかって……」


と、申し訳なさそうにする涼葉に諒一はなんでもないかのように言う。


「いやいや、別に他に用事があったわけでもないし。俺本読むの好きだから色々見てたし……」


別にこの後一緒に行動する約束があるわけでもないので、待つ必要はなかったのだが一人でさっさと帰るのもどうかと思い、待っていたのだ。その間に予定にない文庫本を二冊ほど買ってしまったが……。

涼葉は料理の本を買おうとして悩んでいたようだ。


「ああ、もうこんな時間になっちゃって……水篠君はお昼ご飯どうするつもりだったんですか?」


時計を見た涼葉が諒一に訊ねると、諒一は微妙な顔をしていた。


「昼ごはんかぁ……まず食べるか食べないかだけど。」


「いや、食べましょうよ。今から帰って、それから支度したら遅くなっちゃいますね。……えっと、水篠くんお昼ご飯食べにいきませんか?」


「へっ?」


涼葉の言葉が食事に誘っているのだと理解するのにしばらくかかった諒一からは、そんな返事しか出てこなかった。

それに涼葉はクスクスと笑っている。


「その……私のせいで遅くなってしまいましたし、水篠君放っておいたら面倒になって食べなさそうですし」


後半を半目で言われた諒一は、顔が引きつるのを必死でこらえた。図星だったのである。


食べる事に興味がない。この事は前の人生で誰一人として理解してくれなかった。食事を作ってくれる人に言うと角が立ってしまうので言わないが。本音は、腹が減るから仕方なく食べる。だった。

別に同意を求めているわけじゃなくて、そういう人もいると思ってくれるだけでよかったのに、本当の意味で理解してくれた人はいなかった。

変わってるのは自覚している。


そしてその性質はしっかり今の諒一にも出ていた。栄養とかエネルギーとかを棚に上げてしまえば、正直なところ二日に一食くらいでよかった。


涼葉には話した事があったので、しっかりばれていたようだ。


「遅くなってしまったのは私のせいですので……おごりますから、行きましょう。といってもファミレスくらいですけどね?」


そう言って少し微笑んだ涼葉は、戸惑っている諒一の後ろにまわると、ぐいぐい背中を押すのだった。



近くにあったファミレスに入ると、すぐに周りからたくさんの視線が飛んでくる。涼葉は慣れているのかあまり気にしていないようだが、一緒にいる諒一まで値踏みするような視線が飛んできてものすごく落ち着かない。


「はい、なんでも好きな物食べてくださいね」


そう言って涼葉は諒一にメニューを差し出す。


「うう……」


食べ物で何が好きか。よく聞かれる事で一番答えにくい事だった。食べたくないものはすぐ出てくる。でも食べたい物というのが出てこない。よくある、晩御飯なにがいい?という質問が苦痛でしかなかった。


結局無難に日替わりランチをごちそうになったが、興味がない上にずっと視線にさらされ、何の味もしなかった……


かわいい女の子と食事を共にするという、男子にとっては夢のようなシチュエーションだったのに……

雰囲気も食べ物もろくに味わう事が出来なかった諒一は肩を落として帰路についた。


心なしか落ち込んだ様子の諒一を気づかわしげな目で見ていた涼葉だったが、マンションにつくころにはすっかりシュンとしてしまっていた。


「あの……」


エレベーターで七階まで上がってきた所で涼葉が口を開く。


「無理に、誘ってしまって、すいませんでした……やっぱり嫌でしたか?」


申し訳なさそうに沈んだ声で言われ、諒一は自分の態度を振り返って激しく後悔した。


「いや、ごめん!そうじゃないんだ」


慌てて諒一は訳を話す。涼葉と食事を共にしたこと自体はうれしかったのだ。


「はあ……なるほど。まぁ、視線についてはすいません、私は気にしないようにしてるんですが……迷惑でしたね。」


苦笑いをしてそう言った涼葉に諒一は焦って言う。


「ごめん、そんなの涼葉ちゃんのせいじゃないのに、俺が勝手に意識しちゃって……せっかく誘ってくれておごってまでくれたのに、こっちこそ、ほんとごめん!」


そう言って頭を下げると、細い指が伸びて来てやんわりと諒一の頭を持ち上げた。


「そこまで、気にしないでください。水篠君が嫌じゃなかったのならいいんです」


「嫌じゃない!う、嬉しかった。」


首を振って勢いでそう言うと、涼葉は一瞬目を丸くしたあと、微笑んでくれた。


「なら、よかったです」


ふにゃっと微笑んだ涼葉の顔を見て、今度は諒一が目を丸くする。胸をわしづかみにしてくるような微笑みに、しどろもどろになった諒一は自分でも訳が分からないような事を言って、手を振りながら自分の部屋に戻った。


しばらくの間、心臓がすごいリズムを刻んでいた。

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