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117.ようやく序章回収

 「ど、どうしたの?涼葉」


 驚いて涼葉に駆け寄ると、泣きそうな顔をして諒一の顔を見てくる。


「あっ……」


 どうしようかなと思っていると、さらに舞香まで同じように切符を持って呆然としている。

 諒一も自分の切符を見てみた。


「なにが……普通の切符だし、おかしなところは何もな……いや?」


 諒一がある部分に気づくと、そこを何度も見直した。そして時計を見る。


「今は8時40分……。なあ、これ9時15分発って書いてあるんだけど……」


 諒一が切符の該当部分を指しながら言うと、それを見ていた舞香の顔色がだんだん悪くなっていく。


 あじさいがあるマンションから、今里駅までバスを使って30分ほどかかる。

 乗る予定のバスは最寄りのバス停に9時にくる……

 

「これ……間に合わなくない?」


 諒一がそう言うと、舞香が地面に座り込んだ。そして土下座に近い格好で頭を下げる。


「ご、ごめんなさい!ジブンが時間を勘違いしてたっす。本当は一時間前に集合してなきゃいけなかったっす……」


 そう言って謝る舞香に諒一は頭を抱える。


「ま、まぁ私たちも舞香さんに任せっきりにしてたのもいけなかったですし……ほら、舞香さん立ってください。事情を話して、便を変更できないか駅で聞いてみましょう?ね」


 涼葉がそう言って舞香を立ち上がらせる。涼葉の言う事はもっともではある。諒一達はなんの確認もしてないで舞香に全部任せてしまっていた。

 前日にでもタイムスケジュールの確認をしておけばこうはならなかっただろう。


「それもそうだね。諏訪崎さん、気にしないで。こんなトラブルも旅の醍醐味の一つじゃない?」


 諒一もそう言って和ませようとしたが、舞香の表情は暗い。

 そして、いつにない低いテンションで言った。


「3時っす……」


「え?3時がどうしたの?」


 諒一が聞き返すと、泣きそうな顔になった舞香が答えた。


「うちの実家の方に行く便。次は3時っす。田舎なんで少ないんですよ」


「「3時⁉︎」」


 諒一と涼葉が声を揃えて言った。

 さすがに3時から行くのはつらいかもしれない。舞香の話では、神麓駅に着いてもそこから山道を結構歩くらしいから……


 顔を見合わせて、言葉もなくしているとエレベーターが開いた。


「あら、今日からだったわね。いってらっしゃい!気をつけていくのよ?……って、どうかしたの?」


 エレベーターから姿を現したのは亜矢子だった。諒一達の姿を見るとにこやかに送り出そうとしたが、様子がおかしい事に気づいた。

 諒一がわけを話すと、苦笑いになって言った。


「そうね、舞香ちゃんも二人も確認不足だったわね。でも誰かに責任を押し付けないのはえらいわ。それに免じて今回は助けてあげる」


 ニコリと笑って、パチリとウインクを飛ばすと亜矢子はふたたびエレベーターに戻っていく。


「車を回すから、駐車場の方で待ってなさい。車でもギリギリだから急ぐのよ?」


 そう言い残して、エレベーターは上がっていった。


 無言で三人は顔を見合わせる。そして……


「急ごう!」


 諒一が言うと、慌てて荷物を抱え駐車場の方に走る三人だった。



 亜矢子が操る車は、軽快に走り駅前のロータリーに滑り込む。

 時刻は9時を少し回った所だ。


「すいません、亜矢子さん……」


 車が止まると諒一がそう言いかけたが、亜矢子が遮る。


「そんなのいいから急ぎなさい!それ、一番遠いホームだから遠いわよ。気をつけてね!」


 切符には四番ホームと書いてある。普段あまり電車を利用しない諒一にはそこまで気が付かなかった。


 急いでトランクに入れた荷物を取ろうと、車の後ろに回ってトランクを開けた諒一はふと気づいた。

 トランクの中にあるカバン類は六つ。それぞれが二つずつ持ってきていた。


 ただ、見るだけで中身の量が違うことがわかる。女の子だけに色々と必要な物があるのか、涼葉も舞香も諒一の荷物の倍ほどの量があるように見える。


「時間ないから!それお願い」


 そう言うと、諒一は一番重そうな荷物を取った。そして自分の荷物を持ってきてと頼んだ。


「あ、でも……」


「それ、重たいっすから……」


 涼葉も舞香も諒一が手に取った荷物を見て申し訳なさそうな顔をするが、これから駅の構内を走る事を考えるとありがたい。


「ごめんなさい、りょういちくん!りょういちくんの分はちゃんと持ってきます!」


 涼葉がそう言って、軽い方の自分の荷物と諒一のカバンを持った。

「舞香さん、そっちをお願いします」


「はいっす!」


 舞香が荷物を持つのをみて、諒一は駅の中に向かって走り出した。


「急ごう!」


「「はい!」っす!」


 車のそばで立って見送る亜矢子に手を振ると、三人は駅の構内を走り出した。


 自動改札に切符を入れて、四番ホームの矢印に沿って走る。


「ごめんなさい!通ります!」


 先頭を走る諒一が、前を歩く人に向かって、そう叫ぶ。ぶつかったりしたら、どう考えてもこんなところをダッシュしてる自分たちが悪い。


 走っているだけで目立つのに、ぶつからないように声を出しながら走っているので、やたらと目立つ。


「うう……すごく見られてます」


 涼葉が下を向きそうになるのを堪えて、諒一の背中だけを見て走る。


「あ、あそこを登れば……四番、ホームだ」


 息を切らして、諒一が指差すのはホームをまたがるように建っている通路だ。こちら側から階段を登り、廊下を進んだ先で降りる。

 歩道橋みたいな形をしている。


「りょ、りょういちくん!電車、電車もうホームに入ってます!」


 電車の入っていない二番と三番のホームから見えるのは、四番ホームにもう入っている車両。

 もう待っていた乗客は乗ってしまったのか、人が乗り降りする姿は見えない。


「なんで、よりによって四番ホームなの!」


 思わずそう叫びながら、階段を駆け上がった。



 三人とも、膝に手を当てて乱れた呼吸を整えている。

 なんとか乗り込んだ電車は、諒一達が乗るとまるで待っていたようにドアが閉まり、走り出した。


「な、なんとか間に合った……」


 一番重い荷物を持っていた諒一は、息も絶え絶えになっていた。


「すいません諒一先輩、重い物持たせちゃって……とりあえず席に座りましょう。」


 そう言って諒一の手から自分の荷物を取ると、座席車の方に向かう。


「大丈夫ですか?りょういちくん。ほんとにありがとうございます私のトランク、大きくて重いから自分で持ってたらこんなに走れませんでした」


 涼葉は自分のトランクを持つと、膝に手をついた姿勢のまま息を整えてる諒一の背中を撫でる。


 やがて呼吸が落ち着いた諒一は、身を起こして涼葉に微笑んだ。


「ともかく、間に合ってよかった。間に合わなかったら延期もやむなしだったもんね」


 無事に電車に乗れて、安心したのか笑顔を浮かべてそう言った。

 この電車でも到着は昼過ぎの予定になっている。もし、3時発に乗れば、向こうに着く頃は真っ暗になってしまう。

 真っ暗な中、知らない土地のしかも山道を歩くことなんてできない。

 まして、女の子が二人もいるのだ。だから、もしこの列車に間に合わなかったら、出発を明日にするしかないと話していたくらいだ。


 諒一は涼葉を促して、舞香を追って座席車に向かった。やや古い作りの扉が開くとずらりと座席が並んでいる。


 向かい合わせで四人がけになっている。その一つから手が伸びていた。


「諒一先輩!涼葉先輩!こっちっす。」


「ちょ!舞香さん、そんな大声で……」


 離れた所から大声で諒一達を呼んだ舞香の声に、涼葉が肩を窄めて周りを見る。が、


「……涼葉、だいじょぶ。この車両俺たちの貸し切りみたいだ」

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