100.冬休みの計画
「やったぁ!明日からお休みだよ。ねえ、すぅちゃん!冬休みどこかお出かけするの?諒ちゃんと!」
テストが予想を遥かに上回って、自己最高記録を叩き出した篠部は、終業式と休み前のホームルームが終わると、一気にテンションを上げている。
「ちょ、るみちゃん落ち着いてください。私は同じマンションに住んでる子の実家にお邪魔させてもらう事になってます。少し遠くて山奥だそうですが、そこに目的があるので楽しみなんです」
落ち着いてと言ったわりには、篠部に負けないくらいウキウキした様子で涼葉はそう言った。
「え?ほんとに?諒ちゃんと山奥にお泊まり?ええ?」
しかし、篠部とか論点がずれていたようで、こちらは諒一とお出かけと言う所に驚いている。
その様子を見て、涼葉は少し余計な事まで言ってしまったと後悔したが、その反面別にいいかと言う気持ちもある。
隣で諒一は苦笑いしているが。
「ええ、いいなぁ!私も行きたい。ねぇ、大ちゃん!私達も行こうよ」
腕をグイグイと引っ張られ、メガネを押さえる大志は、揺れながらため息をついた。
「勝手な事を言って迷惑をかけるな。卯月も用事があって行くって言ってるだろう」
そう言って大志がなだめるが、篠部は簡単には諦めない。
「だってさぁ、今度の冬休みは強気で交渉できるんだよ。このテストの結果があれば、大体の事は許して貰えると思うんだ!」
どうやら篠部は、普段よりよかったテストの結果を両親との交渉に使うつもりらしい。
「あ、あのですね?私達が行くところって、舞香さんの祖父母の方が経営してらっしゃる旅館なので、私たちの一存では……」
見かねたのか涼葉がそう言ったが、今度はグルンと振り返った篠部が涼葉の肩を掴む。
「ひっ!」
「じゃ舞香ちゃんがいいって言えばいいんだね?聞いてくる!」
そう言うと、カバンからスマホを取ると止める間もなく耳にあてる。
「……鬼気迫る迫力がありました」
肩を掴まれて思わず声を出した涼葉が胸を押さえて苦笑いしながら言った。
「すまん……」
「あ、勝俣さんのせいでは……」
大志が疲れたような顔をして謝っていると、当の篠部はスマホに向かって話し出した。
「そう!おねがいできないかなぁ?うん、うん、ごめんね!待ってるね」
そう言って通話を終えたのか、スマホをポケットにしまう。
「聞いてみるって!」
満面の笑みで篠部はそう言った。
「るみ……」
呆れた顔で何か言おうとする大志に向かって、篠部が先に口を開く。
「だって、来年の冬休みはさすがに受験もあるからさ……思いっきり遊べるのはせいぜい来年の夏休みまでじゃない?このみんなで、どこかに行きたいなぁっては思ってたんだよ」
篠部がやたら乗り気だったわけを話す。
……篠部の普段のテストの結果を考えれば、来年の夏休みもそんな暇はないのでは……と諒一は思ったが口にはしない。余計に止まらなくなりそうだったからだ。
それを聞いて、何か言いたげな大志も言葉を呑んだようだ。すると、すぐに篠部のスマホに着信が入る。
画面には舞香の文字。
篠部は緊張した様子でスマホの画面にタッチする。
『あ、もしもしー、るみさんっすか?』
篠部はスピーカーにしたのか、手に持っているスマホから舞香の声が聞こえる。
「うん、急にごめんね?どうだった?」
篠部がさすがに申し訳のなさそうな口調で言うと、ゴクリと息を飲む暇もなく、舞香の軽い調子の声がスマホから聞こえてきた。
『あ、大丈夫っすよー。ぜひいらして下さいってじいちゃん喜んでたっす』
「やったー!ありがとね、舞香ちゃん」
両手を上げて喜ぶ篠部は、それから少し舞香とやりとりをしてスマホを切った。
「ふふふ……いいって!大ちゃん、すぅちゃん、これならいいでしょ?」
勝ち誇った顔でそう言ってくる篠部に大志は額に手を当てて疲れたように言う。
「いいも何も、もう相手方に言ってしまったんだろ?はあ……せめて両親に確認してから電話しろよ」
そこはさすがに篠部も悪いと思ってるのか、少しシュンして言った。
「だってぇ。でも、うちの親は大丈夫だよ!このテストを見せればきっと飛び上がるから」
「普段どんな点数を取ってるんだ……」
あまりにもテスト結果を交渉材料に使えると言う篠部に、思わず諒一がそう言うと、篠部はすっと顔を逸らした。
今回の結果が良かったといっても、八十点くらいだったはずだ。
それに苦笑いしながら諒一は隣にいる大志に話しかける。
「勢いで決まりそうだけど、大志達は大丈夫なのか?」
「うちは、多分大丈夫だとは思う。普段の行いが違うからな」
メガネを直しながら大志は自信ありげにそう言った。
「うちは割と放任主義だからなー。農作業も冬はそれほど忙しくないから、それまでにしっかり家の事手伝えば問題ないと思う」
テストの結果をうんぬんから空気になろうとしていた壮太もそう言って大丈夫と言う。
「じゃ、あとは楓花だね!聞いてくる」
そう言うと、再び止める間もなく篠部は教室を出て行ってしまった。
「はあ……」
大志がため息をつくのを苦笑いが囲んでいた。
しばらくして、篠部が引っ張って来た楓花は、目をキョロキョロとさせて、困惑していた、
「え?え?なんなの、るみちゃん!」
篠部は訳も話さずに連れて来たらしい。どうして連れてこられたのかわからない楓花が盛大に動揺している
「はぁ……。お前理由も話さずに連れて来たのか」
「もうここで話したほうが早いと思って」
えへへと篠部が頭をかいているが、さすがにいい加減にしろ。と大志に怒られている。
「で、私は何の用で連れて来られたのかな?」
ほったらかしにされてしまった楓花が、苦笑しながら涼葉に聞いてきた。
「ああ……。えとですね、るみちゃんが冬休みにみんなでお手かけをしたいそうです」
それだけで理解できるのは、さすが篠部の友人だけある。
「ああ、なるほど。で、どこに行くか決まってるんだよね、るみちゃんがあそこまで乗り気になってるということは」
理解の早い楓花に、今度は涼葉の方が苦笑しながら、さっきの話を伝える。
「でも……お邪魔じゃない?二人で出かけるんでしょ?」
楓花は冷静に諒一と涼葉を順番に見て訊ねる。
「今更だね。篠部はノリノリだし……もうダメって言える状況じゃない」
諒一がそう言うと、涼葉も苦笑いのまま頷く。
「るみちゃん、すごいテンション高いもんね。でも、そう言う事ならぜひ一緒に行きたいな」
「ほんとに?じゃあ全員参加だね!楽しみだなぁ」
お説教が終わったのか、大志と篠部が戻ってきたが、篠部のテンションは高いままだった。
大志は疲れたような顔をしている。
「悪いな。よっぽど楽しみなのか、俺にも止められそうにない。よほど嬉しかったんだな、いい点取れたことが」
そう言うと大志は、少し優しい顔になって楓花と話している篠部を見ている。
今の篠部が、テストのおかげで機嫌がいいと聞けば、教えた涼葉も嬉しくなる。
結局誰も反対意見が出ないまま、全員が行くことで決まってしまった。
「賑やかになりそうだね」
帰り道に涼葉と並んで歩きながらそう言うと、涼葉もクスッと笑って頷く。
「そうですね。楽しそうではありますが、舞香さんに無理してないか確認は必要ですね。舞香さんのお爺さん達に迷惑をかけちゃうといけないので」
苦笑いしながら涼葉はそう言い、諒一も確かにと頷く。
そんな事を言いながらでも、諒一も涼葉も嬉しそうな顔になっている事は、二人とも気がついていなかった。




