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100.髪は長い友達

「ちょ、俺の扱いひどくない?」


 正直に言うと、壮太はそう言って不貞腐れた。

 それもホームセンターに着く頃には元に戻っていたが……


 連れ立って中に入る。ここにくるのは涼葉と二人で買い物に来た時以来だ。


 中に入ると、涼葉が待っていた。


「りょういちくん、後でまたペットコーナーに行きましょうね!この間の猫ちゃん、まだいますかね?」


 楽しみそうな顔をして、涼葉が言う。諒一にとっては可愛い猫を見て、さらに可愛い猫を見た可愛い涼葉を見れるので、二重においしいので、是非とも行きたい。


 あの時の、猫を見て笑う涼葉の写真は、諒一のスマホのデータフォルダの奥に大事に保管してある。

 取り繕わない素の表情を切り取った貴重な一枚だ。


「ほら、何してんだよ!あっちだよ、行くぞー!」


 張り切った壮太が諒一を呼んでいる。涼葉と二人で顔を見合わせて、少し笑った後壮太の後を追った。


「俺のおすすめはこれとこれだ。洗った後スーってして気持ちいいぞ!」


 シャンプーコーナーに着いた途端に、壮太は数あるシャンプーの中から二つ取ってきて、諒一に見せてきた。


 男性用によくある、メントールが入っている商品だ。


 効能を読むと、どちらもスカルプケアに重きを置いた商品のようで、壮太がしっかり選んだだけはあると思った。

 が……そのシャンプーを見ている時に、視界の端に見えてしまった。涼葉が商品を取って諒一の方を見て、そっと戻したのを。


「……なるほどな。参考にさせてもらうよ、ありがとう壮太」


 諒一がそう言うと、壮太は嬉しそうに頭皮のケアについて話をすると、自分のシャンプーを探しに行った。


 何気なさを装って、商品を見ながら涼葉の方に近寄る。


「あ……。何かいい物をお薦めされました?」


 涼葉がそう声をかけてくる。


「うん、頭皮のケアをしてくれるってやつ。ただ、なんで男性用って何でもかんでもメントールが入ってるのかな?正直、俺はいらないんだよね」


 壮太には聞かれないように、声のトーンを落として言った。嘘ではない。寒がりの諒一にとって、これからの季節、せっかくお風呂で温まったのに、メントールでスーッとさせる意味がわからない。


「夏は気持ちいいかもしれないけどね?」


 そう言うと、涼葉はクスクス笑って「男の人用ってそうなんですね」と言った。


「その……渡さんがお薦めしてくれた物もいいのでしょうけど、こっちも悪くないと思いますよ?」


 そう言って、さっき手に取っていたシャンプーを諒一に見せてくる。同じく頭皮のケアを主題にしているが、こっちは自然由来の成分を使ってあるようだ。


「多分ですけど、りょういちくんって……あまり肌強くないですよね?」


 そう言われて、思わず涼葉を見た。あまり気にした事はないが、そう見えるんだろうか?

 素直に涼葉に聞いてみる。


「あ、りょういちくんは、時々肌荒れしてるのを見ますし、どっちかって言うと敏感肌なんだと思いますよ?」


 さすがと思った。今はまだいいが、もう少し歳を重ねてヒゲの手入れを毎日するようになると、剃った部分でしょっちゅう肌荒れをおこしていた。


 今でこそ、まだヒゲが生えてくる気配はないが、肌は弱いくせに、ヒゲは割と濃いほうだったので、常に肌荒れと吹き出物に悩まされる事になる予定だ。


 こっそり涼葉にそう伝えると、しばらく考えていた涼葉は諒一にお薦めしたシャンプーを自分のかごに入れた。


「これは私が買って、あとであげますので。りょういちくんは渡さんがお薦めしてくれたやつを買ってください」


「いや、悪いよ。ほらこんな自然由来成分にこだわったやつとか、値段高めだし……俺が二つ買えば……」


 そう言う諒一の言葉を涼葉は遮った。


「ダメです!もう決めました。これは私が買ってりょういちくんにプレゼントします。これは決定事項ですので」


 そう言うと涼葉はさっさとシャンプーコーナーを離れて行った。

 まぁ確かに、壮太も諒一のために選んでくれたのだから、違う商品も買うのを見たらあまりいい気分にはならないかもしれない。


「お言葉に甘えとくか……」


 そう呟いて、諒一は壮太が薦めてくれたシャンプーセットを自分のかごに入れた。


 そのあとみんなでペットコーナーに行ったが、この前いた猫はいなかった。売れたのか、他の店舗に移されたのか……


 幸せに暮らしている事を祈っておいた。


「見てくださいりょういちくん!ほら、こんなに尻尾を振って!かわいい……」


 この前の猫がいない事に、シュンとした涼葉だったが、この前にはいなかったポメラニアンの子犬を見て、歓声を上げていた。


「猫が好きってわけじゃなくて、動物が好きなんだね?」


 そう言うと涼葉は目を細めて微笑んだ。


「そうですね。どうしても選ぶなら猫の方が好きですが、犬も全然好きです。あまり大きいのは苦手ですけど……」


 視線の先には、ゆったりと座って周りを見ているゴールデンレトリバーの子犬とその隣にはサモエドの姿もあった。

 諒一もどちらかといえば猫派だが、犬も嫌いではない。サモエドの毛に覆われた体と、大きくなる事を予感させる手足のゴールデンレトリバーを眺めて、ペットコーナーを後にした。


「集合時間まで後五分くらいですね。戻りましょうか?」


 今はそれぞれの買い物をするので、それぞれバラバラに動いている。

 この後は軽く食事をしてカラオケに行く予定になっている。


 さっきのポメラニアンの事を話しながら、レジに向かう。


「おーい水篠」


 呼ばれて、声の方を向くと大志が手を上げている。その周りにはみんないるので、諒一達が最後のようだ。


「もうみんな待ってるみたい。行こ?」


 そう言いながら手を出すと、涼葉は軽く小首を傾げる。


「持つよ?」


「これくらい大丈夫ですよ?」


 そう言って涼葉はレジ袋を諒一から遠ざけるようにして持つ。


「シャンプーって地味に重いじゃん、俺の分もあるし。ほら」


 そう言って、涼葉の持っている買い物を取って自分の分とまとめて持つ。


「もう!ありがとうございます!」


 口に出した言葉はお礼だが、表情は怒っている。

 

「……怒った顔でお礼を言われるのは斬新だ」


「……持ってもらうから、お礼は言わないといけないと思うんですけど、感情がそれを素直に認めきれなかったんです!」


 そう言い合いながらも、足早に大志達の所に向かった。


「諒ちゃんって、いつもああなの?」


 みんなが待つ場所についたとたん、篠部が涼葉に声をかけた。


「……わりと。」


「ふーん……」


 ニヤニヤしてくる篠部を見ないようにしていると、少しポカンとしている楓花と目が合う。


「……なに?」


 つい、つっけんどんな言い方をしてしまったが、楓花は気にしていないようで、しみじみと言われた。


「水篠くんって……涼葉ファーストだね」


「な、なんだよそれ!変な事言わないでくれ」


 唐突に言われた言葉に慌てて振り返ると、しっかりと聞こえたようで、恥ずかしそうに俯く涼葉と、ニヤニヤ度合いを深めた篠部が見ていた。



 ◆◆ ◆◆



 ショッピングモールに入っているファミレスで食事を済ませて、いよいよカラオケに向けてテンションを上げていた。主に篠部と壮太が……

 壮太もかなりカラオケ好きらしい。


 それはいいが、ファミレスでもしっかりからかわれて、涼葉が少々おかんむりなのである。


「もう!りょういちくんがあんな事をするからみんなに言われるんですよ?」


「いやでも……シャンプー3セットって結構重いし……ほらほら見て、袋が食い込んじゃってる。」


「だから、三つも持つからじゃないですか!もう……返してください。自分で持ちます」


 そう言って強引に諒一が持っている袋を取ろうとする涼葉をなんとか押し留める。


「わかった、わかったから。仕方ない、じゃあこっちな?」


 差し出された袋を持って、何か感じたのかちょっと中を覗いた涼葉が、ジロッと諒一を見る。


「……これ、りょういちくんのじゃないですか。シャンプーの箱が一個だけの」


「うん。これで俺はシャンプーを三つも持ってないし、涼葉も荷物を持った訳だ。重いほうを持つくらいはいいだろ?」


 涼葉はぷくっと頬を膨らませていたが、ぱしんと諒一の肩を叩いてきた。


「……よしとしときます」


 視線を合わせないようにして、そう言う涼葉を見て笑っていると、もう一度叩かれた。

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