98.髪は長い友達
「あ、俺も買いに行かないと行けなかったんだ。諒一!一緒に行こ……うっ」
壮太が自分も一緒に行くと言い出したのを、なぜか篠部が止めた。
ただ、もう全部言ってしまっている。
「もう、バカ!壮太のバカ!」
「えー、何で俺怒られるてんの?」
壮太は何で怒られているのかわからないという顔をしていたが、篠部どころか楓花からも責めるような視線を送られて焦っている。
大志を見てみると、そっと視線を逸らしていた。
「……?よくわからんけど、壮太も行くなら一緒に行くか。この際だから大志も行くか?遊んでこよう」
諒一がそう言うと、篠部と楓花に壮太が拉致されていった。
大志は苦笑いしながらそれを見ていたが、諒一の誘いに応じた。
「そうだな、あの感じだとみんなも来るだろ。明日な?」
離れた所で篠部と楓花に責められている壮太をチラリと見て、大志がそう言う。
「涼葉もいいかな?」
「はい。楽しみですね」
涼葉は篠部達とは関係ないのか、言葉通り楽しそうな顔をしている。
一体篠部達はどうしたんだろうか?
首を傾げていると、しばらくして壮太達は戻ってきた。
「もちろん私達も行くよ!すぅちゃん、私のおすすめも教えるね!」
「はい、ありがとうございます。るみちゃん」
戻ってきた篠部達はいつも通りだったが、壮太は疲れた顔をしている。
「そ、壮太もそれでいいか?」
一応聞いておくと、壮太は乾いた笑いを浮かべて頷いた。一体何言われたんだ?
……気にしないでいいと、強めに言われた。なんなんだ……
「そうだ!あそこにあるカラオケの割引券持ってるからさ、みんなで行こうよ。」
「あ、いいね!盛り上がっちゃう?」
楓花と篠部は何事もなかったように、そんな事を言ってはしゃいでいるし、大志は苦笑いのまま行こうと誘う篠部にうなずいていた。
「あー、でもカラオケか……。涼葉は大丈夫?」
一応聞いてみると、涼葉は消極的賛成といった感じだった。引っ込み知りにはカラオケで盛り上がる!なんて事は慣れていない。
「無理して歌わせようとかしないようにクギをさしとくよ。俺もあんまり得意じゃないし」
そう言うと、涼葉は安心したように頷いた。
「えー!すぅちゃん歌わないの?一緒に歌おうよぉ!」
「歌う事が楽しい人間ばかりじゃないんだ。少しずつ慣れていくと思うけど、無理強いすると次から来なくなるかもしれないぞ?」
諒一がそう言って脅すと、それは嫌なのか、篠部もしぶしぶ頷いた。が、すぐにニヤリと笑って、諒一と涼葉を見る。
「諒ちゃんと一緒に歌えばいいじゃない。デュエット!」
「残念!俺も人前で歌うのは苦手なんだ。引っ込み知りを舐めるなよ?」
涼葉を庇うように立つ諒一がそう言うと、あからさまに篠部ががっかりしてみせる。
「引っ込み思案な人は、そんなはっきり拒絶もしないと思うんだけど……」
何かぶつぶつ言ってるが、譲れない部分ははっきりさせておいた方がいい。これからも長く付き合っていくつもりならば余計にだ。
「水篠くんは涼葉ちゃんが大切なんだねぇ……」
楓花が呆れたように、いや呆れてないな。楽しそう?に二人を眺めてしみじみ言っている。
大切なのは確かだけど、言い方が気になるので一言言おうとしたが、先生が来たので自分の席に戻らないといけなくなった。
楓花も気づいていたのだろう。小さく舌を出して笑いながら自分の席に戻って行った。
席に戻り、始まりの礼をして座った所で、涼葉がじっと見ている事に気づいた。
……どうかした?
声をひそめて涼葉に言うと、涼葉も無意識だったのか、ハッとした顔で小さく首を振って、前を向いた。
……どうしたんだろ?
気になったが、先生の話が始まったのでそっちのほうに気を取られていった。
授業が終われば今日はもう終わりだ。ホームルームも終わり、みんなが諒一の席に集まってきた。
「明日は何時集合にする?」
すでにウキウキした様子を見せて、篠部が集まる時間を決めようと騒いでいる。
「諒ちゃん達は何時ごろが都合いいかな?」
「俺達?俺は別に何時からでも……涼葉はどう?」
「私も特に……あ、あんまり早いとあれなんで、午後からはどうでしょうか」
午後からだと、帰りが遅くならないだろうか……カラオケも行く事になってるし。
諒一はそう思ったが、自分がしっかりとガードすればいいかと考えていると、篠部は何か察したような顔をしていた。
「フムフム……そうだよね、時間かかるもんね?すぅちゃん?」
「そ、そこまでは……ただやっぱり……」
楽しそうな篠部が涼葉の机の脇に立って、からかうような感じで言うと、涼葉は照れたように俯いてしまった。
「うんうん、気持ちはわかるよ!私も楽しみにしとくね?」
そう言われて涼葉も顔を上げて笑顔で応じている。
「じゃあまた明日ね!諒ちゃんもちゃんとおしゃれしてくるんだよー!」
篠部はそう言いながら、教室を出て行った。家が同じ方向の大志や壮太、楓花も連れ立って教室を出ていく。
諒一は今日日直だったので、黒板周りを綺麗にした後、日誌を書いている。
「りょういちくん、黒板消しきれいにしてきましたよ」
「ありがとう、ごめんな。手伝わせて……」
書き終えた日誌を閉じながら言うと、涼葉は機嫌よさそうに首を振った。
「それ出して帰りましょう。一緒に」
そう言って自分の机に荷物を取りに行った。一緒に、か。諒一にも涼葉が手伝いをしてくれた理由が分かった気がした。
そして翌日。
洗面台の前で、普段よりは念入りに身だしなみを整える諒一がいた。と、いっても大したことができるわけではない。頭はクシを通して、寝癖がないようにチェックして、服装は以前涼葉に見繕ってもらったものを参考にして買った冬服だ。時間は昼を少し回ったくらい。簡単に昼食を済ませた諒一はリビングでコーヒーを飲みながら涼葉が来るのを待った。
「……遅いな」
一時を回っても涼葉は来ない。メッセージを送ったが、ちょっと待ってくださいと返ってきただけだった。女性の支度には時間がかかるのが相場であるとは理解しているが、いささかかかりすぎのような気もする。
「かと言って急かすのもな……」
そう思っていると、静かに玄関が開く音がした。そしてパタパタともはや聞きなれた涼葉のスリッパの音が近づいてくる。
「……お待たせしてすいません。」
リビングに入ってきた涼葉を見て、諒一は思わず目を見張った。
髪を短くしてしまったから、寒い事を考えてか、首元をしっかり覆う服装で、露出は少ないのに、不思議と女性を感じる。
その短くしてしまった髪は、サイドをうまく流してあるのか、パッと見た感じどうなっているのかもよくらからない。
残った髪が一房ずつ耳の前に下がっているからか、顔もいつもより小さく見える。
「あの……あまり見られると、少し……」
「あ、ごめん!すごいおしゃれだなって思ってつい……」
「いえ!その、どうでしょうか?」
「え?」
一瞬何を聞かれたのか理解できず、思わず聞き返してしまった。
「その……変、じゃないでしょうか?」
恥ずかしそうに俯き加減になりながらも、チラチラと諒一の様子を窺っているところが、すごく愛らしい。
「……かわいいと思います。」
「……なんか言わされた感じ」
「ちがっ!……ごめん、本当の事を言うと……見惚れてた。普段よりもなんて言うか……すごく可愛らしいし、女性っぽく感じて……ちょっとまともに見れない」
「見てくれない⁉︎それでは頑張った意味が……」
シュンとしてしまった涼葉に諒一は慌てて続ける。
「いや!俺のセンスは当てにならないっていうか……自信もないし……きっとみんな可愛いって言う」
そう言ったが、涼葉は落ち込んだままだ。
「涼葉さん?」
「りょういちくんのセンスは別に求めてません……ただ、単純に、りょういちくんから見て変じゃないなら……」
「変じゃない!今の涼葉を見て変だって言う奴がいたら、そいつがおかしいから無視していいと思う。その……俺はすごくかわいいと思う……」
そう言うと、ようやく涼葉は顔を上げた。そして諒一をじっと見てくる。
「ちょ……なに、しかえし?」
「……いいえ。本当の事言ってるのかなぁって。お世辞はいりませんよ?」
機嫌が戻ったのか、笑顔を見せながらそんな事を言い出したので、ようやくホッとしながら諒一も笑った。そして、涼葉に手を伸ばした。
「涼葉涼葉、ちょっと手貸して?」
そう言う諒一に涼葉ちょこんと首を傾げた。




