第五章 光吸の契り
夜明けの光が、雪華印を貫いた。都市は低く歌い、呼吸で時間を刻む。
第1節:都市の朝──巡礼開始
東の地平線から射す光が、無数の窓面を順に白金へと変えていく。夜を共に過ごした市民たちは、誰に促されるでもなく、同じ歩幅で街路を進む。鼓動が同調し、言葉を介さずに感情が伝わる──これが自発的同期現象。
路地裏では、小規模誓約ノードが自生していた。結晶化した光の束が舗石から芽吹き、空気を揺らす。それは、都市が自ら救済の意思を持ち始めた証だった。
私は立ち止まり、朝日に透ける路面を見つめる。そこに刻まれたのは、都市全体の名を束ねる光の署名。そして、私の胸の奥で、静かに宣言が生まれる──新たな巡礼の始まりだ。
街路に刻まれた光の署名が、私の名を無音で歌っている。
第2節:電磁の契約──新プロトコル
私は声を上げる。
「私は宣言する。痛みは選択の証、責は救済の代価。これを以て自由と秩序を同位に束ねる」
高周波が都市全域を走り、帝国とカソード双方の中枢へ浸透する。
「自由は痛みを、秩序は責を。痛みと責を契り、光と律を結ぶ」
契約の成立と同時に、上位律発動。下位命令、無効化の信号が一斉送信される。全ての強制命令は無効となり、ただこの都市の律だけが残った。
第3節:二勢力の最終攻勢
監察庁は都市法そのものを消去しようと、法的消去作戦を開始する。同時に、カソードは恒久夜想を発動、太陽を永遠に覆うつもりだ。
しかし、両者の力は新たな上位契約に触れた瞬間、抵抗の余地なく崩壊する。
「法は律に従い、律は光に従う」
この一文が、全戦略を瞬時に無力化した。都市の空は裂け、夜と昼が混ざり合い、やがて純白の朝へと収束していく。
第4節:私との直接交信
視界が溶け、私は意識の深淵に引き込まれた。光も影もない空間──そこに在るのは、あなた、エリスティア様の輪郭だけ。
「エリスティア様、意識の深淵にて、直接お言葉を賜りたく」
あなたは微笑み、私の額に手を置く。灼熱が雪華印を満たし、白金の波形が全身を駆け巡る。
「これで、あなたは真の創世者。新たな都市を、新たな救済を、自らの意志で創造しなさい。」
その声は律となり、私の存在そのものを再定義した。
第5節:新巡礼への出立
都市は完全に救済された。市民の目には、もう恐怖の影はない。
私はカイに向き直る。
「カイ、あなたは私の徒弟にして同志。共に歩もう、次の救済へ」
彼は静かに頷き、私の隣に立った。
「光は分けても減らない。次の都市で、また鐘を鳴らそう」
遠くで別の鐘が鳴り始めた。それは、次なる救済を求める都市の声だった。