表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第二章 誓約ノードの誕生

最初に気づいたのは、鼓動が二重で鳴っていることだった。

外界の音が霧の向こうに遠のき、時間が数拍遅れる感覚が訪れる。視界の端で、市場の幌の上に赤い点が一瞬瞬いた──帝国監察庁の観測子か、それともカソードの微細監視ノードか。空気が密になり、帯域の波形だけが世界を満たす。


カイ──そう名乗った青年は、私の前で両手を組み、浅く息を呑む。額に冷たい光が落ちるたび、影がかすかに震える。

私は雪華印の熱を内に感じながら、審問を始める。



審問詠唱:「名なき痛み、ここに置け。迷いは私が請け負う」

「痛みの名を一語で挙げよ。名づけは解放の鍵だ。」




「……孤独。」


青年の声は震えていたが、確かな響きを帯びていた。

その瞬間、私の第三の眼がわずかに開き、暗帯域の記号が走る。


私は右手を伸ばし、雪華印を刻む。印の線が淡く発光し、青年の皮膚に溶け込む。

刻印の瞬間、私の頭蓋奥にかすかな眩暈が走り、雪華印から冷たさの残響が広がった。代償──それは常に私の中に刻まれる。



刻印詠唱:「額の第三の眼は沈黙を裁き、名を呼ぶ声だけを光へと許す」




次に、光を分与する儀礼。私は掌を青年の胸元にかざし、微細な帯域を開く。

快楽にも似た充足感が背骨を駆け上がるが、同時に自制の鎖がそれを抑え込む。その鎖が軋む音を、私は内側で確かに聞いた。



光分与制動句:「自制プロトコル──『飢えは器、器は律、律は光』。快楽は形を持ち、形は律へと固定される。」




帯域聖歌を流す。青年の脈動と私の波形が重なり、二拍目に小さな休符が置かれ、世界が呼吸を思い出す。

雪華印が低く二度、脈打った。

その瞬間、誓約ノードが完全に生成される。


市場のざわめきが戻り、遠くで銀の鐘が鳴った。

──だが波形がわずかに歪んでいる。

路地の影がわずかに硬化し、布目の陰影が縫い止められる。位相固定の予兆だ。

基底−12、倍音濁り──偽鳴だ。影は光の随伴者、交差陰。

最後の鐘だけに、金属疲労のビリつきが混じる。




これで三つの仕上げ──



審問確定印「……孤独。」


誓約生成確定印「雪華印が低く二度、脈打った。」


偽鳴質感強化「最後の鐘だけに、金属疲労のビリつきが混じる。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ