不吉な黒猫
「あ、あの猫は」
「黒猫は不幸を呼ぶから追っ払え!」
「この間隣町で起きた火事のときも黒猫が近くにいたらしいじゃないか!」
公園で集まり話をしていた青年たちはそう言うと、公園の端に植えられている木のそばを歩く黒猫に対して石を投げた。猫は自分の近くに落ちた石を無関心に見ると、そのままどこかへと歩いていってしまう。
それを見届けてから青年たちも帰ろうとするが、一人が躓いて転んだ拍子に地面に落ちていたガラスで手をケガをしてしまった。
「もう少しズレてたら手首を切ってたかもしれないな」
「やっぱりあの猫は不幸を呼ぶんだな」
「さっさと追い払ったからこの程度で済んだんだな。良かった良かった」
青年たちに追い払われた猫は、日当たりの良い場所に置いてある車を見つけるとその上で丸くなる。しかしすぐに運転手が戻ってきて猫を追い払ってしまった。
「全く、不吉な黒猫に乗られるなんて。事故でも起こるんじゃないか」
一人でそう呟いていた運転手だったが、その直後に本当に壁にぶつけて事故を起こしてしまった。
幸いなことに怪我人はいなかったが、運転手はあの黒猫のせいだと嘆いていた。
青年たちに追い払われた猫が歩いていると、飲み物の自動販売機の前で子どもが二人いた。子どもたちは猫を見るとかわいいと言いながら近づいて来て彼を撫でる。
猫は大人しく撫でられるままになっており、それに気を良くしたのか子どもの一人は猫を抱き抱えた。その直後にもう片方の子どもが歓声をあげた。
「ジュース当たった! もう一本だって!」
それを見た猫は子どもの腕からスルリと抜け出すとそのままどこかへと歩いていってしまう。
神社へと戻ってきた黒猫は一つ欠伸をする。
今日もずっと幸福を運んでいたのだが、それに気付いている人は少なかった。