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-NOVA-  作者: 原田酒
二章 魂と放熱編
9/12

明日は

プライドというものは、とても怖いもので。誰か人間は、それの下に生きているのかもしれません。

 「私は右から行きます!あなたはあの崖の上で待機していて下さい!」


イシスは崖に指を指す。そしてウルは頷いて戦線を一時離れる。


「おう、なんだいお姉さん?あんたすげえ華奢だけど、俺とほんとに張り合えんのか?」


「失礼ですね!仮にも郷衛神団です!舐めないで下さい!」


「ック!ならこいよ!もう少しで開けた場所に着く。そこについたら粉微塵だぜ!」


それから険しい道を幾つか抜け、開けていて広く、かつ乾いた土地に出た。


「ほら、ここだ!戦うにはあんたの墓場に最適だろ?」


「あたしの墓場はここではありません。私はもっと綺麗なところで死にますよ!」


そして飛び上がり、美しい褐色の足で蹴りかかる。


男は空中でその蹴りを軽々とガードしてみせた。


「へえ、まあまあって感じ...だなっ!」


そして片腕で足を払いのけた後、地上へ降り着く。


「さあ、はじめようぜ!あの崖には一人お客さんがいるんだろ?観客一人の殺戮ショー(サーカス)だ!」


「ウルさんは観客ではありませんよ!貴方を倒す者の一人です!」


「...ック、変わらねえよ。どっちでもよお...」


その男の背中から伸びたプロペラが肩、腕と機械音を鳴らしながら近づいていき、取っ手に手をかける。

そして不気味に笑う...


「ックック...よおスムージーちゃん、覚悟しろよ?あんた今から痛い目合うぜ」


「望むところ...ただ、痛いのはお互い様ですよ」


腰の両側についていた十字架を手に取った。


その瞬間、彼女の髪の毛がふわっとなびいた。手に取られた十字架の先から光線のようなものが伸びた。

十字架はあっという間にビームサーベルへと姿を変えた。


「あらスムージーちゃん、スタイリッシュな武器を使うんだな?」


「その『スムージーちゃん』って何ですか?やめて下さい...!」


「んん?どうして?間違ってはないだろ?いや。まだなってねえか?...これからなるのか?『スムージーちゃん』になあ」


そう言い放ち、イシスに向かって走り出し、対するイシスもレストラに向かって互いに走り出した。


レストラのプロペラと、イシスのサーベルが火花を出してぶつかり合っている。次第に激化していく中で、「この程度」とレストラは高をくくっていた。


「ホラホラ、そんなもんかよ嬢ちゃん?このままじゃ嬢ちゃんの体力が切れちゃうんじゃねえか?」


「なんですって?」


「俺のこの『電斬鋸(ソートレル)』の動力源に尽きはねえ。この俺の(ソウル)が消えない限り、この回転は止まることはねえ!」


ずっしりとした一撃一撃に、イシスは次第に押されていく。


「ここまで来たら、とりあえず...!」


「なんだよ、秘策でもあんのか?だったらやらせるわけにはいかねえな!」


下からのアッパーカットカットがイシスに迫る。サーベルで構えたガードも剥がされてしまった。


「ガードを剥がした!剣も飛ばした!隙ができたぜ!クソの時間稼ぎもできずに死ねッ!」


レストラの左腕に装備されたプロペラが、イシスの胸に向かって突き出される。


その時彼女の右目に炎が宿った。その炎は形を変え十字架のマーク変化した。


そして、イシスは即座に身をかがめ、下から上に、男の胴体を切りつけた。


何が起こったか理解できなかった。レストラはただ、自分の腹から胸にかけての出血を確認すると、危機を感じてすぐさま距離を取った。


「...痛え」


「油断したわね」


「どうゆうマジックだ。これはよ?」


「マジシャンにタネ明かししろって言うのかしら?」


「すっかり口調も変わっちまったな、腹立ってんのか」


「当たり前じゃない、暴言はかれたんだもの」


「おお、そうか、じゃあ奇遇だな...俺も今!!クソほど腹立ってるぜ!」


怒りを顕にし、イシスに向かって走り出す。


向かってくる敵に対して、イシスは上空に、片方のサーベルを放り投げる。


また挑発されたと感じたレストラは、左手をイシスに向かって振り下ろす。


だがそれは空を切り、地面にプロペラを突き立てただけだった。イシスは消えたのだった。


「クソ、どこ行きやがった!」


「こっちよ!」


声のする方を探し、上を見上げれば、矛先を男に向けたイシスが空から降ってきていた。


「おいおい、危ねえ事してくれるな!」


苛立ちで荒い攻撃なってしまうことで、レストラは更に焦っている。


(チクショー...!一体どうなってやがる!なんですぐに消えやがるんだ!)


再び互いの武器がぶつかり合い、力の押し合いになる。


すぐさまイシスは相手のガードを崩し、その華奢な体からは想像もつかないような蹴りを入れ、その蹴りで数メートルほど吹き飛ばした。


だがレストラも負けじと歯を食いしばって空中で体勢を立て直し、左手のプロペラを地面に突き刺し、水かきと似た容量で、推進力を使ってイシスに向かっていく。


イシスとの距離が狭まると、足で地面を蹴り、そのジャンプ力でプロペラを地面から引っこ抜き、また空中からそれを振り下ろす。


が、イシスは左手のサーベルをすぐそこへポン、と投げた。そして消える。


その姿はレストラのまさに右側。そこにいつの間にか立っていたのだ。ただ単純に移動していたのではない。なぜならば体全体の向きと、足の構え方がコンマ数秒前と異なっていたからだ。


ガラガラの右脇腹にまたも痛烈な蹴りを入れた。


「ぐあはっ!」


「あら、もうおしまいですか?」


「何だと...?舐めるんじゃ...ねえよクソ...」


「今見せたのが、私の能力。ホロコースト」


「ほお、今のがね...勝手はなんとなくわかってきたぞ」


「じゃあ、本気でやるわよ、ついてこられるかしら?」


突如として彼女は、リミッターが外れたように並外れたスピードで駆け回った。


「さっき貴方、『時間稼ぎ』って言ってたけど、時間稼ぎなんかじゃないわ」


「ああ!?」


「それに、これはあんたを捕まえるための戦いなんだから、仲間に頼ってばっかりじゃいけないなんてことは、私が一番よくわかってる」


話しながらも、攻撃の手は止めない。そして本格的なアタックに入る。


素早い斬撃と、正確に弱点を攻撃するその技量に、男は押されていく。


彼女は巧みに、サーベルを手から離す、掴む、ワープする、切る。これを使い分けて相手を翻弄する。


更には、地面にサーベルを突き刺し、片方のサーベルだけで突っ込む。やはり身に危険を感じるため、男はプロペラを振り下ろす。だが、あらかじめ地面に突き刺しておいたサーベルに瞬間移動し、フェイントを入れてから、男の腕に切り傷をつける。


だが、男も負けてはいない。プライドがこの世に意識をがっしりと掴んでいるからだ。男のプライドが壊れるまで、男は死ぬことはない。それを、イシスも薄々感じていた。


そして、プライドの乗ったプロペラが、彼女の体を切りつけた。


即座にして吹き出る、大量の血液。


イシスはその場にひざまずいてしまった。


口からも出血が止まらなかった。


意識も、遠のいていた。


「俺のはプロペラなんだ。普通のカッターなんぞとは刃の向きが違う。だから傷口もおかしなことになるんだよ」


「あっ...げほっ...」


「ックック...ダアーーっはっはア!!勝った!残念だったなクソアマ!あとはあのアーチャーだけだ!」


耳に悪い笑い声も、ほとんどイシスには聞こえていない。


「だがその前に...お前にトドメを...!」


レストラが左手を振り上げ、力を込める。


そのこもった力が最頂点に達したとき、一本の矢がレストラの腹部を貫いた。


男は衝撃に襲われた。


「チクショ...あのクソッタレ...ターゲット変更だ...!」


左手のプロペラを再び背中に合わせ、飛行する。


「あの崖の上から撃ってきやがったのは確かだなァ」


そして全速力でその方角へ向かっていった。もはやアドレナリンで痛みなど感じていなかった。


「見えたぞ...!今に殺してやる!」


そして男はまた、衝撃に襲われる。


「結界だ...俺の弓は撃った軌道がそのまま結界になる。そこを通過すれば、矢を食らったのと同じ衝撃、痛み、同じダメージを与えられる!」


ウルは崖の上で呟く。


「ぐ....あああああああっ!!!」


もう引き返せない。レストラはもう、ヤケになった。何度も結界に触れ、衝撃が走り、肉が裂け、血が流れ、骨が砕け、内臓がグシャグシャになってもまだ進撃を続ける。


そして最後。もう一度左手にプロペラを装備し、最後の振り上げを行う。


「地獄に落ちろ!!このクズどもがアア!!!」


ウルは冷静に弓を引き、放つ。


その一本が、レストラの頭を貫き通し、なんともあっけなくプロペラの回転は止まり、体は崖に届くことなく地面へ落ちていった。


「イシスの元へ急がなければ」


崖を降りて走り出した。
















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