明日は
プライドというものは、とても怖いもので。誰か人間は、それの下に生きているのかもしれません。
「私は右から行きます!あなたはあの崖の上で待機していて下さい!」
イシスは崖に指を指す。そしてウルは頷いて戦線を一時離れる。
「おう、なんだいお姉さん?あんたすげえ華奢だけど、俺とほんとに張り合えんのか?」
「失礼ですね!仮にも郷衛神団です!舐めないで下さい!」
「ック!ならこいよ!もう少しで開けた場所に着く。そこについたら粉微塵だぜ!」
それから険しい道を幾つか抜け、開けていて広く、かつ乾いた土地に出た。
「ほら、ここだ!戦うにはあんたの墓場に最適だろ?」
「あたしの墓場はここではありません。私はもっと綺麗なところで死にますよ!」
そして飛び上がり、美しい褐色の足で蹴りかかる。
男は空中でその蹴りを軽々とガードしてみせた。
「へえ、まあまあって感じ...だなっ!」
そして片腕で足を払いのけた後、地上へ降り着く。
「さあ、はじめようぜ!あの崖には一人お客さんがいるんだろ?観客一人の殺戮ショーだ!」
「ウルさんは観客ではありませんよ!貴方を倒す者の一人です!」
「...ック、変わらねえよ。どっちでもよお...」
その男の背中から伸びたプロペラが肩、腕と機械音を鳴らしながら近づいていき、取っ手に手をかける。
そして不気味に笑う...
「ックック...よおスムージーちゃん、覚悟しろよ?あんた今から痛い目合うぜ」
「望むところ...ただ、痛いのはお互い様ですよ」
腰の両側についていた十字架を手に取った。
その瞬間、彼女の髪の毛がふわっとなびいた。手に取られた十字架の先から光線のようなものが伸びた。
十字架はあっという間にビームサーベルへと姿を変えた。
「あらスムージーちゃん、スタイリッシュな武器を使うんだな?」
「その『スムージーちゃん』って何ですか?やめて下さい...!」
「んん?どうして?間違ってはないだろ?いや。まだなってねえか?...これからなるのか?『スムージーちゃん』になあ」
そう言い放ち、イシスに向かって走り出し、対するイシスもレストラに向かって互いに走り出した。
レストラのプロペラと、イシスのサーベルが火花を出してぶつかり合っている。次第に激化していく中で、「この程度」とレストラは高をくくっていた。
「ホラホラ、そんなもんかよ嬢ちゃん?このままじゃ嬢ちゃんの体力が切れちゃうんじゃねえか?」
「なんですって?」
「俺のこの『電斬鋸』の動力源に尽きはねえ。この俺の魂が消えない限り、この回転は止まることはねえ!」
ずっしりとした一撃一撃に、イシスは次第に押されていく。
「ここまで来たら、とりあえず...!」
「なんだよ、秘策でもあんのか?だったらやらせるわけにはいかねえな!」
下からのアッパーカットカットがイシスに迫る。サーベルで構えたガードも剥がされてしまった。
「ガードを剥がした!剣も飛ばした!隙ができたぜ!クソの時間稼ぎもできずに死ねッ!」
レストラの左腕に装備されたプロペラが、イシスの胸に向かって突き出される。
その時彼女の右目に炎が宿った。その炎は形を変え十字架のマーク変化した。
そして、イシスは即座に身をかがめ、下から上に、男の胴体を切りつけた。
何が起こったか理解できなかった。レストラはただ、自分の腹から胸にかけての出血を確認すると、危機を感じてすぐさま距離を取った。
「...痛え」
「油断したわね」
「どうゆうマジックだ。これはよ?」
「マジシャンにタネ明かししろって言うのかしら?」
「すっかり口調も変わっちまったな、腹立ってんのか」
「当たり前じゃない、暴言はかれたんだもの」
「おお、そうか、じゃあ奇遇だな...俺も今!!クソほど腹立ってるぜ!」
怒りを顕にし、イシスに向かって走り出す。
向かってくる敵に対して、イシスは上空に、片方のサーベルを放り投げる。
また挑発されたと感じたレストラは、左手をイシスに向かって振り下ろす。
だがそれは空を切り、地面にプロペラを突き立てただけだった。イシスは消えたのだった。
「クソ、どこ行きやがった!」
「こっちよ!」
声のする方を探し、上を見上げれば、矛先を男に向けたイシスが空から降ってきていた。
「おいおい、危ねえ事してくれるな!」
苛立ちで荒い攻撃なってしまうことで、レストラは更に焦っている。
(チクショー...!一体どうなってやがる!なんですぐに消えやがるんだ!)
再び互いの武器がぶつかり合い、力の押し合いになる。
すぐさまイシスは相手のガードを崩し、その華奢な体からは想像もつかないような蹴りを入れ、その蹴りで数メートルほど吹き飛ばした。
だがレストラも負けじと歯を食いしばって空中で体勢を立て直し、左手のプロペラを地面に突き刺し、水かきと似た容量で、推進力を使ってイシスに向かっていく。
イシスとの距離が狭まると、足で地面を蹴り、そのジャンプ力でプロペラを地面から引っこ抜き、また空中からそれを振り下ろす。
が、イシスは左手のサーベルをすぐそこへポン、と投げた。そして消える。
その姿はレストラのまさに右側。そこにいつの間にか立っていたのだ。ただ単純に移動していたのではない。なぜならば体全体の向きと、足の構え方がコンマ数秒前と異なっていたからだ。
ガラガラの右脇腹にまたも痛烈な蹴りを入れた。
「ぐあはっ!」
「あら、もうおしまいですか?」
「何だと...?舐めるんじゃ...ねえよクソ...」
「今見せたのが、私の能力。ホロコースト」
「ほお、今のがね...勝手はなんとなくわかってきたぞ」
「じゃあ、本気でやるわよ、ついてこられるかしら?」
突如として彼女は、リミッターが外れたように並外れたスピードで駆け回った。
「さっき貴方、『時間稼ぎ』って言ってたけど、時間稼ぎなんかじゃないわ」
「ああ!?」
「それに、これはあんたを捕まえるための戦いなんだから、仲間に頼ってばっかりじゃいけないなんてことは、私が一番よくわかってる」
話しながらも、攻撃の手は止めない。そして本格的なアタックに入る。
素早い斬撃と、正確に弱点を攻撃するその技量に、男は押されていく。
彼女は巧みに、サーベルを手から離す、掴む、ワープする、切る。これを使い分けて相手を翻弄する。
更には、地面にサーベルを突き刺し、片方のサーベルだけで突っ込む。やはり身に危険を感じるため、男はプロペラを振り下ろす。だが、あらかじめ地面に突き刺しておいたサーベルに瞬間移動し、フェイントを入れてから、男の腕に切り傷をつける。
だが、男も負けてはいない。プライドがこの世に意識をがっしりと掴んでいるからだ。男のプライドが壊れるまで、男は死ぬことはない。それを、イシスも薄々感じていた。
そして、プライドの乗ったプロペラが、彼女の体を切りつけた。
即座にして吹き出る、大量の血液。
イシスはその場にひざまずいてしまった。
口からも出血が止まらなかった。
意識も、遠のいていた。
「俺のはプロペラなんだ。普通のカッターなんぞとは刃の向きが違う。だから傷口もおかしなことになるんだよ」
「あっ...げほっ...」
「ックック...ダアーーっはっはア!!勝った!残念だったなクソアマ!あとはあのアーチャーだけだ!」
耳に悪い笑い声も、ほとんどイシスには聞こえていない。
「だがその前に...お前にトドメを...!」
レストラが左手を振り上げ、力を込める。
そのこもった力が最頂点に達したとき、一本の矢がレストラの腹部を貫いた。
男は衝撃に襲われた。
「チクショ...あのクソッタレ...ターゲット変更だ...!」
左手のプロペラを再び背中に合わせ、飛行する。
「あの崖の上から撃ってきやがったのは確かだなァ」
そして全速力でその方角へ向かっていった。もはやアドレナリンで痛みなど感じていなかった。
「見えたぞ...!今に殺してやる!」
そして男はまた、衝撃に襲われる。
「結界だ...俺の弓は撃った軌道がそのまま結界になる。そこを通過すれば、矢を食らったのと同じ衝撃、痛み、同じダメージを与えられる!」
ウルは崖の上で呟く。
「ぐ....あああああああっ!!!」
もう引き返せない。レストラはもう、ヤケになった。何度も結界に触れ、衝撃が走り、肉が裂け、血が流れ、骨が砕け、内臓がグシャグシャになってもまだ進撃を続ける。
そして最後。もう一度左手にプロペラを装備し、最後の振り上げを行う。
「地獄に落ちろ!!このクズどもがアア!!!」
ウルは冷静に弓を引き、放つ。
その一本が、レストラの頭を貫き通し、なんともあっけなくプロペラの回転は止まり、体は崖に届くことなく地面へ落ちていった。
「イシスの元へ急がなければ」
崖を降りて走り出した。




