最高だね
ああ!生贄が必要だァ!
遠くには爆音が蔓延る。
流れる血の匂いが鼻を突く。
今、魂を見せつける。
――――――――――――
「さてさて...?第3ラウンドだ」
「髄まで狂ってんなァお前!」
所々と隆起した地面を蹴り飛ばし、レックスは目標に突っ込む。剣を振りかぶり、そのまま回転して、地面を切り付けながらも速度は落ちることなく前進する。
(死ぬッ!)
身を引かざるを得なかった。それが命取りだった...フレイは後悔した...だがもう遅かった!
「避けたなぁ?」
「必死だなぁ...おい?フレイ...」
「ァ゛?」
「言ったよな?お前ができるんだからな、俺も出来んだよ」
意味を理解した時にはもう遅かった。もう反応不可だった。
「『インニヴォムス』」
紫色。地面からの一本の火柱が、その瞬間フレイを焼き尽くした。
「はっ...グァァァァ」
白目を向き、完全に意識を失っていたフレイだった。だが死亡している訳ではなく、要するに戦闘不能、負けたのだ。
実況者が興奮した声で戦いの勝者を読み上げた。
同時に、また別の戦闘も繰り広げられていたらしい。レックスの他にもう一人、名前が呼ばれた。
「さあ!残るはタルタロスの新人、ナイク・レックスと!オリュンポスの新人、フラントル・ヘルメスだぁ!」
あまりにも大きい音だった。なのできっと、耳を塞いでいても聞こえたであろうその声に、レックスは反応した。
「...オリュンポス?そんなエリート部隊の新人が残りやがったのか?...こりゃ厳しい戦いになりそうだな」
「さあ!聞こえているでしょうか?まだ残っている選手は、コロシアムの中央に来てください!そこで優勝者を決める最終決戦をしてもらいます!」
「中央か...行くしかねぇっ」
一生懸命に走り抜けて辿り着いた中央には、先に着いていた相手の選手がいた。先程実況者の言っていた「フラントル・ヘルメス」という名の男の姿を彼は初めて見た。
少し小柄で白髪に、緑の目をしていて、金の首輪にダボッとしたデニム生地の服。右手首には機械的なブレスレットをしている。膝が見えないくらいのハーフパンツと、重厚なブーツを履いていた。見るからな少年だった。
「おお、来たかい?ナイク・レックス」
「お前がフラントル・ヘルメスか」
「ヘルメスでいいよ。呼びずらいだろう?フルネームじゃ」
「それなら俺もレックスで構わないぜ」
「よろしくレックス。さて、準備は整っているかい?僕は早く戦いたいんだよ、ここまで残った君と。思う存分」
「ああ、準備は済んでるぜ。もう十分ウォーミングアップもしてきたからな」
「じゃあ?始めようか」
手首をグラグラと揺らしながら構えをとった。
二人とも同時に間合いを詰め、激しい戦闘を繰り広げる。
二人の少年の熱気も、会場の熱気も最高潮に達していた。
互いに相手の特徴を掴みつつあった。先にダメージを入れたのは、レックスの方だった。脇腹から左肩にかけて切りつけた。
ヘルメスは切り飛ばされ、地面を転がった。
「なんだ、もう終いか?さっきのやつの方がもっと楽しかったぜ」
その時、どこからか拍手が聞こえた。思わずその方向を向いた。
「お手並み拝見させてもらったよレックス。なかなか凄い身体能力だ」
「お、お前?確かに今切ったろ!」
驚いて後ろを振り返ったが、ある筈のヘルメスの身体がどこにも見当たらなかった。
「これが僕のメカ。『カドゥケウス』の機能だよ。簡単に言うと、分身を作り出せる」
「おいおい、そんな簡単に手の内明かしていいのか?」
「明かして困る手の内なら、最初から持ってないよ。これはまだ、序の口だからね」
「へぇ、おもしれぇじゃねえか」
「じゃあ、見せてあげようか?手の内をもう少しだけ、明かしてあげるよ」
ヘルメスは右手首のブレスレットに手をかけた。
「『鏡映釆人』」
二、二から四。四から八。八から十六。とどんどんと増えていく。あっという間にヘルメスの分身体が、レックスのことを取り囲んだ。
「Gravissime!(まじかよ!)」
「驚きが隠せないみたいだね?無理はないけど!」
大群が一斉に襲いかかった。レックスも必死に体を動かして、バタバタと分身体を切りつけていく。
だがいずれ体力にも限界が来る。もう既に何発か重たい打撃を受けている。
「(やるしかねぇ!でなきゃぁやられる!)」
決断した。覚悟を決めた。ホロコーストの力を。自分の魂の活力を最大限に引き出した。
「『バック・イン・ブラック』!!」
分身体を一掃して、そこにはまだ本体と思わしきヘルメスが立っていた。
「へえ、やっぱやるなレックス」
「まだまだこんなもんじゃないぜ?もっとお前を追い詰められる!」
「じゃあ、やって見せてもらおうか?ただし抵抗はさせてもらうけどね!」
持ち前の身体能力を活かして一気にレックスに間合いを詰めて、一発二発と蹴りを入れていく。
「ぐっ」
「ほらほらどうしたんだい?まだまだ行けるだろう!」
甘くなった守りの隙をつき、大きく上空に蹴り飛ばし、再びブレスレットに手をかざす。
数人に分身し、遠い空へ飛ばされたレックスの元へ即座に追いつき、その上からまた蹴り落とす。かと思えば今度は左へ蹴り飛ばし、右へ、左上へ、何度も何度も、様々な方向へ蹴り飛ばしていった。
レックス自身も、もう既にあちこち骨が折れていることは分かっていた。蹴られる度に骨が碎ける音がしたからだ。
「これで僕はこの大会の優勝者になるよ!終いだっ!『飛脚蹴時雨』!!」
トドメの一撃だった。完全に脳天に入ったかかと落としに、レックスは地面に落下していった。
土煙が上がった。勝利は決まった。実況者も更に声を張り上げて話した。
「これはぁぁ!とんでもない技が決まりました!レックス選手起き上がってきません!この勝負は...!」
決まったかに思えた。
「効いたぜ.今のは...」
土煙の中から大剣のシルエットが見えた。
「くそっ...クラクラするぜ...視界も良くねぇし」
「まだ立ち上がるのかい!ならいいよ!もっともっと苦痛を味あわせてあげる!」
煙の中から、弾丸のようなスピードでレックスは飛び上がった。
「はやっ!」
「着いてこれるよな?ヘルメス」
「舐めるなよ...!そのスピードで切りつけて来たんじゃあ...これを防御できない!」
再度蹴りを入れようとした。が当たらなかった。
「ふんっ!」
その場で高速に回転して、攻撃から身を守った。いや守ったと言うより反撃した。
「ぐぁっ」
「守れねぇだと?ハナから守る気なんてねぇんだよ!俺ぇあよ!」
地面に足が互いに着いた瞬間、大地を大剣が切り裂いて、紫炎の斬撃が放たれた。
「あぶねぇっ!あつっ!」
「おらへばってんじゃぁっ!ねぇっ!」
力一杯に剣を振り下ろす。ヘルメスはそれを交し、その代わり地面は大きく砕けて粉々になった。
大剣が地面から抜けなくなったことを瞬時に汲み取り、右手で大剣を掴んだまま左手を離し、すぐさまヘルメスの首をがっしりとして掴んだ。
「くっくぁっ...!」
「がら空きだぜ!」
その腹に蹴りを入れてやって、さっきの仕返しをした。大剣は地面からようやく抜けて、また剣を前に構え直した。
「ほら、ラストスパートだぜ」
「はっ...ぐっ...ラストスパートだと?冗談じゃないな...ここからじゃないかレックス」
「まだやるってのかよ」
「もちろん...まだ明かせてない手があるからね...」
「なら、あともう少しだけ付き合ってやる。ただし勝つのは俺だぜヘルメス」
「じゃあもっと頑張らなくちゃァね『鏡映霧街』...!」
彼のブレスレットからではなく、彼自身から霧が放たれていた。彼の右目は淡い蒼に燃えていた。
「なんだ?...目眩しかよ!」
「なぁレックス!最高だと思わないかい?色んな人達が僕達のことを見ていて、そしてこの戦いで勝ちさえすれば!中々に良い報酬と地位が与えられるんだよ?それって本当に...!最高だね」
「ああ、そうだな」
鼻で笑いながら答えた。その心の中には緊張感が糸を張り巡らせていた。
突然鈍痛が走った。
「がっ!」
「ほら、じっとしてちゃあいけないよレックス!動いて反応するか、僕を探さなきゃあ...」
「てめぇ...小癪だぜホントに!」
「(こんな霧晴らしてやる!)」
一気に回転して霧をその風で払おうとしたが、すぐに流れ込んでくる。
だんだんと攻撃される頻度も多くなってきている。
「(ピンチ!)」
「これはまずいぜ...」
霧の中で窮地に追い込まれていた。
遅れて申し訳ありません!いや、もうほんとに




