連戦だ!成長だ!
4話。
束の間の休息を挟み、東からバイクをも越すほどのスピードで、新たな敵が迫ってきていた。
「ちくしょう、今度はなんだ?」
迫ってきていた俊足の相手は、地面を蹴り上がり、
空中で2度3度回って着地した。レックスは思わず
「おお、体操選手のお出ましか?」
話しかけた。
「なんだ、ありがてえこと言ってくれるんじゃねえかァ?」
「お前、何者だ?」
「俺ァ、ガブル・フレイ。アスガルドの、まァ、新人だな」
「アスガルド、か」
「なァ、俺ァ退屈してんのさ。とっととやっちまおうぜ、お前の実力も知りてェ」
フレイは三本の長い鋼の爪をギラつかせながら意気揚々にファイティングポーズをとる。
「よっしゃ、かかってこいよ、フレイ」
「さあ、いくぜ!」
その言葉がレックスの耳に届いた途端に、フレイは少年の間合いに入り込み強烈なアッパーをかまそうとした。
当たってはまずい。そう瞬発的に思ったレックスは、そのまま後方へ下がった。が、遅かった。奴の方がスピードは上だった。
後ろに回り込まれた。即座に身体を捻った。それも遅かった。
自らの左脇腹から突き出た三つの内一本の刃が、首を下げずとも見えていた。
「グァ...」
「勝負ありだなァ!少年!」
血が流れてきた。もうおしまいか。と思っとが、意外と、そうでもなかった。
「俺さ、13の時、なっがいパイプが脇腹に刺さってさ、生きてたんだよ」
「はァ?」
「もう元気いっぱいでさ」
「テメェ、何が言いたい?」
「こと程度じゃ、俺は死なねぇって事だよ!ガブル・フレイ!」
フレイが驚いたのも束の間、レックスは突然前に走り出し、自力で腹から刃を抜いた。
「なっ!」
フレイは驚きを隠せない。その反応は間違いではない。何故ならもう既にとんでもない量の出血をしている。それを置き去りにするようにレックスは、元気そうな足で振り返り、「ふう」と深呼吸して
「さあ、第2ラウンドだぜ、覚悟しな!」
「ちっ、クレイジーだぜェ...」
「ケッ、いいぜェ、俺も本領発揮と行こうかァ」
その言葉と同時に、フレンの右目が燃え上がった。
正確には、炎に包まれたような見た目であり、不思議な魅力が、そこにはあった。
「『ルーン』...」
そう呟き、その妖しげな炎が頬に伝わり、肩に伝わり、腕に伝わり、手に伝わり、刃に伝わった。
右手の刃を下に構え、そのまま空に向かって拳を突き立て、アッパーのようなフォームを作り出した。
突然!黄色い炎の火柱が立ち上り、それがレックスに近づいてゆく。
「何っ!?」
ゴォゴォ、ボォボォと音を立てながら近づいてくる雷のような火柱に、レックスは為す術なかった。
(これがっ、ソウルエネルギー...!)
──魂命力とは、どんな物体、生命にもある潜在能力の概念、魂のエネルギーの具現化である。本来、魂を具現化させ、可視化させたり、実際の物体に影響を与える事が出来ない。だが其れを己の所有する武器を通じて本来概念でしかない魂を現実に反映させ、物体や人体に影響を与えることが出来るのだ。加えて、実体化させた魂命力を操る方法、そのことを『ホロコースト』と呼び、郷衛神団では戦いの主要となる人物達、即ちレックスやハデス等の各チーム毎の位の高い人物達が会得している。──
「ウォォォッシャァッ!」
次なる攻撃を繰り出す。どんどんと辺りが焼け野原になっていき、次第に逃げ場は失われていた。チェックを掛けられたキングのように、レックスは焦っていた。それが、目に見えてわかった。
(まずいな、このままじゃ押し負ける...!)
「ホラホラァッ」
(くっ...!!)
(今だっ!)
たった少しの隙を見極め、その脇腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。
「おいおい...そんなもんかよォ」
「へっ、お前に言われたくねぇな」
「なんだとォ?」
「お前、弱いだろ」
「あァ?」
「そういう事だ、ああそうさ、お前は俺より強くない。だったら、お前にできること位、俺は容易くやってのけれるっつー話だ」
2週間前...
「己の魂を見ろ。レックス 」
「うーん...」
「集中の仕方が違うのだ!」
「って言われてもなぁ...」
「魂の形」。其れを見抜けなければ「力」は使えない。魂命力を操る、その力は、レックスは翼鎧と呼ばれる黒い鎧を着た屈強な戦士サン・ベルセポネーに、その力の使い方を教わっていた。
「いいか!『眼』を閉じて『魂』を見ろ!其れがヒントであり、そして鍵だ」
「んぅ...」
(魂を見る...か)
その時、彼の心眼に紫の炎が浮かび上がった。初めは小さかったその炎が、ぼォぼォと音と大きさを上げていった。
「できたじゃないか、レックス」
眼を開くと自分の右の眼球が暖かくなっているのを感じた。あまりにも強く眼を瞑りすぎて、グッと熱くなったのだと勘違いすらした。
だが実際の視界は紫がかっていた。右眼は燃えていたのだ。不思議と燃えるような感覚は無い。其れが異常なのだ。
「こ、これが?」
「そう。其れが『ホロコースト』だ
だが、まだ完全に使い慣らすことができたのでは無い。其れを更に引き出して、物体に影響させられるようになれば良いのだ」
「ハァ?これでもダメなんですか!?」
「当たり前だろう、いいか?マスターした操冥魂と言うのはこうするのだ」
サンは腰に掛けた剣を鞘からゆっくりと抜き、レックスと同じ様に、また、軽々と右眼を燃やして剣を一の字を描くように振るった。
驚くべき事が起こった。
「山が...切れた...!?」
「嘘だろ...?3kmは離れてるんだぞ?!」
「これが操冥魂だ。お前のはまだまだ赤ん坊レべル。これからも特訓には付き合ってやるさ。せいぜい頑張るんだな」
其れを経た今のレックスは、大きく成長を遂げていた。今なら出来る。今ならと、彼自身もまた自らの殻を破る為に、心眼を覗いた。
「おィおィ、少年?まだかよ?もうそろそろいいか?退屈だぜ」
「...」
「シカトかよ」
「...」
「シビレ、来ちまったぜェ」
力いっぱいに鉤爪を引き、まるで槍投げのフォームのような形を取った。
「消えろッ!『イリーヴェ』!!」
叫ぶと同時に右眼が燃える。確固な瞳が魂に染まる。強き剣が紫色変わる。
レックスは今この瞬間、完全に操冥魂を我が物にした。
「当たったなァ...少年?」
フレイは確信した。少年は倒れた。自らの洗礼された攻撃によって、自らの力によって。
「惜しかったな、もう少し速ければ良かったのに」
「何ッ!」
(変わった...この少年...!見た目だけじゃなィ、其の中身迄も...)
「さてさて...?第3ラウンドだ」
レックスの住む地方、グローリーヴァースとツキヨミの住む地方フラワーヴァースでは、ホロコーストの呼び名と性質が違います。フラワーヴァースではホロコーストの事を操冥魂と呼び、基本的に物体を変化させるのではなく、自身の身体を変化させたり、簡単に言うと生物に直接影響を与えられます。
わお、難しいね