銃剣と機械獣
喉をやりました。
暗い回廊である。
等間隔に壁にかかった松明はかろうじて足元を照らしている程度だ。
「どこだよ...あいつらが心配だな」
「そうだね...心配だね...」
「ッ!」
「やあ、こんにちは」
振り向くと壁があった。
「誰だお前...なんか、随分と胴体の面積が...」
「そんな事言うな!お前ふざけるなよ!」
「ふざけてはないけど...敵だね?」
「こちらからすれば、君が侵入者で敵なんだよ、わかるかい?」
眼の前の男は異様な大きさの鉄の鎧をまとっている。剣を手に持っていてヘルメットはしていない。美しくはない顔で足が短い。モンスターのような見た目だ。
ほかに分かることは、あまりない。この男以外に敵はいないし、鎧の素材を見る限り苦労する相手ではないだろう。
「僕は仲間のとこにいかなくちゃならないんだ。邪魔はしないでほしい」
「いやねえ、じゃまするななんて言われても...ここは俺達の住処だぞ?無理なお願いをしてくるね」
「じゃあ、ここで懲らしめる」
「ほう、やってみなよ、この俺に勝てるかな?」
「もちろん。余裕さ」
「ガキめ、すぐに殺して」
その言葉を言いかけたところで、ルースは男の眉間をレーザー銃で撃ち抜いた。
男は、倒れた。血が飛び散るが、そんなものは見慣れた光景である。風穴の空いた後頭部から魂が抜けていく色が見える。
「先を急がなきゃな」
再び足を踏み出そうとしたとき、また後ろから声がした。
「運命」
「今度は何だよ?」
男の死体は、たしかにそこにある。
「一体何だ...?この男、何者だ?異変は...ないはずだ」
「ないはずだが...いや、ある。剣が無くなっている...一体どこへ?」
また、あの声がする。
「憎悪」
焦りと謎の声の圧迫感から、ついに苛立ちが隠せなくなったルースは声を荒げた。
「一体誰だ!どこにいるんだ!出てこい!」
立ち上がった瞬間、目と鼻の先には刀身がこちらへ振り下ろされていた。
間一髪で避け、その姿をついに目視した。
そこにあったのは、剣だった。
あの男の持っていた剣かはわからないが、その剣の刀身にはトゲが生え、大きく目玉がついている。
おかしいのは、その剣は独りでに浮遊している。
「なんだ...こいつのホロコーストか?いや、そんなはずはないな、こいつは確実に死んでる。さっき確かに魂が抜けていくのが見えた...こいつ、まさかとは思うが...」
再びその剣が独りでに切りかかってくる。
そして、また姿を消す。
「もし、僕の予想が当たっていたとしたら...この剣は...『機械獣」か」
『機械獣』
機械獣とは、「ノヴァ・ジョニー・ウォーカー」の手によって作られた、人間以外の動物、または物体の形をもした戦争兵器の総称である。これらにはAIが搭載され、言葉を話す機能を持っているものもいる。
人類機械間戦争が起こったあと、「ウルティマ社」によって回収され、世界立法(世界共通の法律が定まったこと)が起こった後も、「第四章 AIと世界の利便 (第一条から第十七条)第十二条 AIの使用または研究については、二千七十三年の機能より発展もしくは二千七十三年以降に開発された機能を使ってはならない」という法律を無視してこの兵器の使用と改造を行っている。だがそれは現在ウルティマ社が発見している機械獣に限る話で、いまだ発見されていない機械獣や、現在郷衛神団が保護、または使用しているものは、改造せずとも調教され、行動を共にする団員が存在している。(郷衛神団の団員、もしくは関係者で機械獣を保有しているものは、第十二条は適用されていない。)
機械獣には階級があり、それぞれ「十五小機械獣」「十中機械獣」「五代機械獣」と、その数字が少なくなるほど強さが増していく。ちなみに、五代機械獣以外の機械獣は改造せずとも飼いならすことが可能。五代機械獣は知能が高いため、人間が大きな改造を行わない限り飼いならすことは不可能である。
これらの機械獣が戦争のために作られた兵器であることは間違いないが、なぜノヴァが戦争のための機械を作ったのかは不明。今ではあの戦争に意味などなかったとまで言われているほど。実際、ノヴァが所有していたデータは少なく、限りある資料の中で見つかっているのが、「魂」についての資料データと、「機械獣」に付いての資料データのみ。それ以外のものは見つかっておらず、国際データバンクでも見つけることができなかった。ノヴァの死体は未だに見つかっていないため、現在も調査が続いている。
「こいつは...十五小機械獣『デュランダル』...機械獣なんて久々だな...」
普通の人間なら姿が見えないため、どこにいるのか見当がつかないが、ルースのつけている眼鏡は一味違う。
ルースの眼鏡はお高めのもの。郷衛神団と協力が厚い会社、ヘパイストス社の最新作である。
レンズが捉えた生物や物体の基本的な情報を映し出してくれたり、魂の位置までこの眼鏡によって知ることが出来る。
が、この眼鏡を持ってしても機械獣の魂を捉えることができなかった。男が剣を持っているときにも反応していなかった。
また独りでに動く剣に奇襲をされるが、なんとか回避する。
やはりこの機械獣には意思があり、知能があり。数百年も前の技術でこの精度、AIの機能なので、もし一般にAIの規制が書かれていなければ、この地球は終わっていたのだろう。
というのも、このAIの世界法律ができたのも、あの戦争が原因で、戦争を引き起こしたノヴァ・ジョニー・ウォーカーが作ったサイボーグやこれら機械獣が世界に恐怖をもたらした。
そこから、AIや機械というのは世界共通で「恐ろしいもの」という認識が強まった。
今から50年ほど前から、機械を製造する会社は殆どなくなってしまった。唯一残っているのがヘパイストス社と、裏社会の代表、ウルティマ社である。
「(やはり、ウルティマ社は何をしてでも解体しなければならないな...)」
こんなことを考えている間にも、絶え間なく攻撃され続けている。体力も無駄に消費されてしまっている。
「仕方ない。きっと、弱点はあの目玉だろうな。じゃ、こうだ」
ルースが手首を上にスナップさせると、持っていた二丁の銃が、変形する。銃身の下部から刃が展開され、あっという間に2つの剣になった。
相変わらず四方八方から攻撃を仕掛けてくる機械獣の動き、刀身の行く末をしっかり見極め、次にどこから現れるのか予測しながら避け、反撃の瞬間を待つ。
「(こいつ...)」
地面から現れて突進してきた。それはそのまま天井へ消えた。そこで、その天井の方に体を向けてみた。
そうすると、ほんの少し、本体が現れるまでの時間が長くなった。
「(こいつ、規則性がある...地面から現れたときはそのままその方向の天井へ消えて、そのあと僕の背中側から現れて攻撃してくる。その次は左の壁から出てきて、また背中側から地面へ消える...)」
「(いま僕が体の向きを変えたことで、その規則性がズレて攻撃が遅れたのか...)」
ここで、ルースのアクティブさが顔を出す。
ルースは突然、自分が出せるマックススピードで不規則に思いのまま動き回る。
ルースの読み通り、規則性が通用しなくなった機械獣は誤作動を起こしたのか、やがて実体を持った。
「さて、やっとだな」
剣に大きくある目玉に斬撃を入れると、そのまま落ちて地面へ突き刺さった。
「やっぱり、コピー品か。本物じゃない...ウルティマ社はどれだけ生産してるんだ?」
地面に刺さったただの剣と化したそれに近寄り、地面から抜く。
「とりあえず、アジトの武器庫に入れておくか...」
中々に重たいそれを持って、回廊をふたたび歩き始めた。さっきよりより早い足取りで。
少し歩みを進めると、何やら破壊された壁が右手に見えた。部屋になっているようで、天井には不自然な青空が広がっている。
血痕が見受けられ、まだ新しいようだ。加えて、ケンタウロスのような機械が倒れていて、既に活動は停止しているように見えた。
「(...ここで誰か戦ったのか?)」
「(もし全員が同じ場所に飛ばされたのなら、近くに皆がいるはずだ!)」
そのまま回廊を少し走ると、一人の背中が見えた。
「(手が...剣!)」
「マック!!!!」
名前を呼ぶと、その男が振り返った。
「やっぱり...!マック!無事かあーーっ!」
「おう...ギリギリな」
「お前...何があった!?」
持っていた機械獣の亡骸を放り捨て、マッカーサーの両肩を掴んだ。彼は重たそうに口を開く。
「なあ...ルース」
「どうした!ゆっくりでいいからな!」
「...ジャックに...会ったよ...」
「何っ!ジャ、ジャックにか!」
俯いて垂れた前髪に、目が隠されている。そこから、涙が落ちる。
「お、おい...泣いてるのか...マック?」
「あいつ...いなくなった日に...施設の奴らに...施設の...っぐ...」
言葉を最後まで言う前に、片腕でマッカーサーを抱きしめた。
「ジャックに会ったんだな...わかった...話せたか?」
「...ああ、話せたよ...懐かしっ..懐かしかったよ...」
涙ながらに話すから、聞き取りづらい。マッカーサーからそんな声を聞くのも、泣いている姿を見るのも珍しかった。というより、無かったに等しい。
「そうか...」
「戻ろう、マック」
それに頷かれることこそ無かったが、剣を回収して更に歩いた。
その後、また別の部屋で倒れていたアレスを抱え、出口らしきところから外へ出た。
「...返ったらちゃんと報告しなきゃな」
「今はとりあえず救急隊を呼ぼう」
「もう呼んどいたぜルース」
「ほんとうか、ありがとう」
暫し待つと、救急隊と同時に調査隊がやってきて、三人は治療車に乗った。
その中で、ルースだけが研究所に戻るといって、少しの処置だけをしてもらった。
その間、ルースとマッカーサーは、昏睡しているアレスを見つめて静かに座っていた。
受験が終わり、前よりかは早いペースで更新させていけそうです。




