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音楽室は僕の実家。
そう表現したくもなるほど、僕は音楽室という空間に入り浸るのが好きだった。
音楽室なんてそうそう人が来るようなところではなかった。
吹奏楽部も合唱部もそれぞれ部室があって、音楽室は音楽の授業で使う。それだけの用途で用いられている。
音楽の授業だって、選択授業の一つだからそんなに取る人なんていないんだ。
合唱をしたければ合唱部に入って、楽器を弾きたいなら吹奏楽部に、軽音部に入るというのが全校生徒の共通認識。
音楽でやるものなんてたかが知れてる。
だからこそーー。
7限目の終わりのチャイムがなった。
火曜に7限があるのは高1と3だけ。2年の僕は火曜は6限終わりだった。
授業が終わった瞬間、別館にある音楽室に直行して、ダラダラとしていた。
もう1時間。音楽室の中は時間の流れが早いように感じる。
特に何かしてるわけでもない。
もちろんピアノが弾けるわけでも、音楽理論的なものに興味があるわけでもない。
だけど、何だろうか。どこか懐かしいような、そんな空気が好きなんだ。
ピアノの蓋をそっと開けた。
「白、黒、白、黒、白、白、黒、白、黒、白、黒、白、白」
半音階を指でなぞりながら、そこに当てはまる色を口に出す。
よくよく考えれば凄いことだ。
これだけしか音数がないのに、無限に曲がある。それをまたよく考えれば当たり前のことなんだろうけど、どこか不思議に感じる。
まあ、いい。
僕は考えるのをやめた。
そっとピアノの蓋を閉めて、ピアノに背を向ける。
今日はもう帰ろう。
明日また、音楽室に行こう。
実家にはちゃんと帰らないといけないんだ。
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