王太子と平民聖女、偉いのはどっちでしょうね?
「モカマ・タリ!
聖女の称号を振りかざし、このオルタナ・ティーを迫害してきたこと、許しがたい!
這いつくばって謝罪しろ!」
目の前で何か喚いてるのは、確かこの国の王太子でしたか。
名前は……思い出せませんね。
まあ、そもそもほぼ関わってませんし、関係ないですからね。
そもそも、私は神殿代表として、卒業式の祝辞に来ているだけで、この学院の関係者ですらないのですが。
で、王太子の脇に立っている女の人がオルタさん? 知らない人ですね。
「その方、オルタさんでしたっけ?
迫害って、なんのことでしょう?」
「貴様、しらばっくれるのか!」
素直に訊いただけなのに、怒鳴られましたよ。
知らないってはっきり言わなきゃ通じないんでしょうかね?
「私はそのオルタさんなんて人、知らないですけど」
「オルタじゃない、オルタナだ!
わざとらしく名前を間違えるとは、不敬であろう!
だいたい、その言葉遣いはなんだ! これだから平民風情を聖女にするのは反対だったんだ」
ああ、いけない、つい言葉遣いが地に戻っちゃいましたね。
でも、聖女らしい言葉遣いって、なんか偉そうで、性に合わないんですよね。
有り体に言えば、苦手です。
「確かに私は平民の出ですが、たかが王太子ごときが反対のどうのと、むしろ不敬はあなたの方ですよ?
私的な場なら許してあげますが、ここは公の場ですからね。
直ちに這いつくばって謝罪するなら、今回だけは大目に見ましょう」
「ふざけるな! 王太子ごときだと!?」
私としては助け船を出してあげたつもりなんですけど、なんだかもっと興奮させちゃったみたいです。
う~ん、困るのはそっちなんだけどなあ。
なんて思っていたら、脇のオルタさん? が何か言い出しました。
「やっぱり言葉が通じないのです、この山猿には。
あなたのような山猿が聖女などと、神殿の品位が疑われますわ。
私のような気品ある者こそ聖女にふさわしいのです」
「そうだ! オルタナこそ聖女にふさわしい令嬢だ!
貴様、聖女の称号をオルタナに渡せ!」
あ~あ。
バカって困るよね。
人がせっかく許してあげようと思ってたのに、わざわざ台無しにしてくれちゃって。
ここまで言われちゃったら、私としても対応しなきゃいけないじゃんか。
チラチラ左右を見ると、衛兵が困ってた。
そりゃそうだよね。
思いっきり不敬だもの。
かといって、自分とこの王太子相手じゃ、動くのも怖いもんね。
しょうがない、きっかけをあげようか。
私は、胸に下げていた聖女の証のペンダントを掲げて声を上げました。
「聖女の名において、我を害さんとする神敵の討伐を命ずる!
ここな2名の神敵を滅ぼせ!」
私が声を上げると、様子見をしていた衛兵たちが王太子とオルタを取り囲みます。
聖女が『神敵』と宣言したことで、遠慮がなくなったようです。
「お、お前達、何をしている!?
俺は王太子だぞ!
なぜ平民ごときの言うことをきくのだ!?」
王太子が喚いていますが、救いようのないバカですね。
「聖女とは神のお告げによって決まる神の代理人である。
たかが一国の王太子ごときと同列に論じるな。
神に背きし者は人に非ず。
お前は既に王太子ではなく神への反逆者である。
無駄な抵抗はやめて滅ぶがよい」
「そんなバカな…うわあぁぁ」
取り囲んだ衛兵の剣で一斉に貫かれ、元王太子は立ったまま死にました。
オルタとかいう女は、声も出せずに、涙を流していやいやをしながら貫かれました。
「敬虔な神の僕たちよ、大儀でした。
この国に神の加護があらんことを」
神への礼をとる衛兵たちを労い、私は会場を後にしました。
神の怒りに触れたら、国が無人の荒野と化すことくらい、王侯貴族の常識だと思うんですけど、どうしてこういうバカはいなくならないのでしょう?