71 ダングル王国の事も気にしつつ、恋人のカナエとの事も気になる。
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――陛下からの命令から直ぐに拠点である家に戻り、皆に集まって貰い事情を説明し、まずは俺一人でキャンピングカーに乗って今のラスカール王国に移動し、当時助けて貰った商業ギルドのギルドマスターに挨拶をしてから、それなりに良い土地を購入し、ストレリチア村の野菜を売る店を構える事を話した。
無論キャンピングカーにも扉がある為、拠点に戻ったりすることは可能で問題は無い事と、キャンピングカーは俺にしか動かす事が出来ないし、モンスターの攻撃も受けないし、壊れる事もなく、俺がいなくてもその場に置いたままでも問題が無い事もきちんと説明し、ご飯の時とおやつ時間の時と、お風呂と寝る時は拠点に戻る為、声を掛けて欲しいとお願いした。
すると――。
「婚約してるのに、カナエちゃんを置いて行っちゃ駄目よ~。二人で婚約しましたって商業ギルドマスターに挨拶した方が絶対いいわ」
「ロスターナもそう思うか?」
「ええ、カナエちゃんも先生と離れるのは嫌よね?」
「そうですね。出来れば一緒に連れて行って欲しいです」
「俺は平気っすよ。店の方は慣れたっす。俺とダグラスの二人なら余裕っすよ。ただ楽器店はそちらに任せるしか出来ないっすね」
「楽器店の時は私が動くわ。一応確認だけ取って貰えるかしら」
「了解っす。ただ、楽器店も売り上げ的には落ち着いてきた感じっすね」
「そうだな、開店当初は馬鹿みたいに売れて凄かったが、今は大分落ち着きつつあるな」
「そうね、今は子供用の楽器がよく売れるわね。子供用のバイオリンとか元の世界でも高いし」
そうなのだ。楽器店が大分売り上げ的に落ち着いてきて、そう忙しいと言う訳でもなくなってきた。後はボチボチ毎日数点ずつ売れる感じで、金額は大きいし売れている間は売ろうと思っている。店内でミニコンサートや子供向けに色々な楽器に触れて貰う機会を企画してもいいかも知れない。
後の調整とかは調律師はそれなりの数がこの国にはいるらしいので、そちらに任せている感じだ。
「じゃあ、明日の朝から出かけるが……まず現場監督のシュウ」
「はい」
「注文分が結構多い。皆で手分けしてやって欲しいが、無理なく進めて欲しい。足りないものがあったら都度連絡を」
「畏まりました」
「それからダグラスとエリーナには、子供達に体調不良などが出ないように注意して見守ってやってくれ。疲れている子がいたら休憩は大事だからな」
「おう」
「任せておいて」
「ニノ、君の力を借りることになるが頼めるか?」
「イイヨ 飴タクサン モラエルカラ ヤルヨ」
「助かる。今度チュッパな塔を月末の報酬で渡そうな」
「オオオオオ!!! アノ スバラシキ 塔!!」
「仕事を頑張ってくれ!」
「ムロン!」
こうしてニノのやる気を引き出した所で解散となり、その日からニノは素晴らしい働きを見せたそうだ。
分裂してからの大量詰め替えは子供達ですらドン引きしたようで、ニノに詰め替えたりして貰いながら子供たちが終わった物を運んで新しい商品を持ってきてと、そんな風に動き回る方が多かったのだと言う。
一日に何度か呼び出され、アイテムを空間収納に入れて更に新しく商品と詰め替え用を出してを繰り返したくらいだ。
「ニノのやる気が凄すぎて」
「俺たち仕事が少ないよな」
「うーん……でもニノ一匹にする訳にもな」
「でも、俺達は俺達で頑張って詰め替えたりしよう。そうすれば売り上げも伸びるし、今は砂糖も塩も胡椒も商業ギルドとボルドーナ商会、それにお城にも卸しているから沢山あった方が良いよ」
「それはそうね。皆で頑張りましょう」
「確かに大きい納め口があると……。よし、頑張るか! 流石現場監督だぜ、シュウ!」
「シュウは切り替えも上手いし頭の回転も速いよな。元は良い家に住んでたんじゃないか?」
そうダグラスが聞くと、シュウは悲しそうな表情をし、ナノも悲しそうな表情をしている。
これにはダグラスも不味いと思ったらしく「すまん、気が利かなくて」と謝罪し、シュウは首を横に振り「気にしていませんよ」と苦笑いしていた。
「確かに良い所で育ちました。ですが両親が目の前で殺されてしまい……。俺達は男たちに捕まってオスカール王国の奴隷市場に売りに出されたんです」
「そうだったのか……」
「明日殺処分だったところを先生とカナエ姉さんに助けて貰いました。今の生活はとても幸せに満ちています。確かにダングル王国の事は気がかりですが……今の俺達ではどうしようもありませんからね」
「ダングル王国なぁ……。俺とエリーナが奴隷になる前の情報で良いなら教えるぜ?」
「良いんですか?」
そうダグラスが伝えると、何でもダグラス達が居た頃は既に王城で働く兵士たちも少なくなっていて、血の気の多い国王に疲弊して離れていく者達がとても多かったそうだ。
副業をしながら城勤めをするというのが流行り出したのもその時だそうで、その時の副業が護衛の仕事だったらしいのだが、エリーナさんがドジをして失敗。自分たちはノスタルミア王国兵に捕まり奴隷一直線だったらしい。
「それと、国民は一応食べ物には困っている様子は余り見られなかったが、今の王が独裁者過ぎてノスタルミア王国へ避難する国民が後を絶たなくてな。家財を売って金にして家族で逃げる奴らも多かった。そいつらが流れ着いてストレリチア村に今はなっているだろう?」
「まぁそうだな」
「今更ダングル王国に戻りたい奴なんていないと思うぜ。あの国王がいる間はな」
「……」
「前の陛下と王妃の時はとても平和だった。他国との睨みあいもなく、ノスタルミア王国と友好国でさえあった。それなのにあんな事になっちまって……。今頃王子と王女はどこでどうされているか……」
「王子と王女は見つかっていないと聞いたな」
「ああ、どこかに連れ去られたと専らの噂だ。殺された陛下に似てとても頭のいい王子と、王妃に似て心の優しい王女だったと。俺は下っ端だったから会う事は無かったが、まさか二人がその王子と王女とは言わねーよな!」
「そ、そうですね! でも無事生きておられると良いですね!」
「俺達獣人の希望だからな。生きていたら守って差し上げたい。それは騎士としての誉れでもある」
「騎士としての誉れ……」
「なんてな! 王子と王女の事は気になってストレリチア村に新しく避難して来た者にも聞き込みしてるが、行方を知る者は見つかってない。生きていると希望を持つしかない。 ま、俺達はアツシ達に助けられて今はここで生活してるわけだしな……」
「「……」」
「シュウもナノもいつかダングル王国に行って友達とか世話になった近所の人に元気な姿を見せれたらいいな! だいぶ話が長くなっちまったが、そろそろ仕事に戻ろうぜ。やる事は一杯だ」
「そうですね」
「うん」
「俺も明日に備えて色々準備するかな。とは言っても直ぐ終わるが、ニノの働きの手伝いでも後でしに来るよ」
「おう、頼んだぜ!」
こうして移動部屋からキャンピングカーに入り、冷蔵庫に明日飲むジュースやお茶を入れて、サングラスもあるのを確認する。
カナエからプレゼントされたこのサングラスは結構いい品で、キャンピングカーに乗る時は重宝している。
明日から数日掛けてラスカール王国へ移動するし、カナエの分の飲み物や軽食を入れて準備万端だ。
どうせなら拠点に帰らず、ストレリチア村の二人の家に戻っても良かったが……その内考えようと思う。
特にラスカール王国に着いてからは夜寝る時くらいは二人の家に行って寝てもいい訳で。
「余り恋人らしい事をしてやれないのもな」
何時かカナエに捨てられたらどうしようかと悩んでしまうが、もう少し二人だけの時間だって作りたい。
だが仕事をしている以上難しく、二人きりになれるのは木曜か金曜だけで、その日だけはストレリチア村の二人の家で過ごす。
子供達との時間も大事だが、恋人との時間もとても大事だからだ。
もう先生と教師ではないが、皆がいる前ではカナエは俺の事を「先生」と呼ぶ。
子供達が困惑しないようにという事もあるが、本人がやはり気恥ずかしいらしい。
だが、二人の家にいる時は「アツシさん」と呼んでくれるので、ちょっと特別感があって俺は好きだ。
それに、カナエは絶対に怒らせてはならないと思っている。
それは水野の時に思い知った。
あの時のカナエは静かに、とても静かにキレていた。
ダグラスはカナエの言う事は絶対だと思う程に恐怖が染みついている所がある。
恋人期間や夫婦になった時でも喧嘩をする事があるかも知れないが、俺から折れる事の方が絶対に多いだろう。
それに、なんだかんだ言って俺は好きになった相手には甘いんだ。
本当はもっとイチャイチャしたいのだって我慢している。
それはきっとお互い様だと思うので、年配の俺が我慢せずにどうする。
「だが正直に言うと、カナエを抱きしめて可愛がりたい!」
「そういう事は車内ではなく私に直接言えばいいのに」
「うわっ!?」
後ろにカナエがいるとは思わずビックリすると、カナエはクスクス笑いつつ椅子に座り隣をトントンと叩いた。
隣に座れという事だろうと思い座ると、腕に手を回して抱き着き甘えてきたのが凄く可愛い。
「アツシさんもやっぱり我慢してたのね?」
「そりゃな、もっと恋人らしい事をして捨てられないようにしないとって毎日思ってる。だが、仕事も手を抜けないし、皆の事もある。これからは更にラスカール王国の事もある。まだまだ二人でゆっくりというのは休みの日しか取れそうにないな」
「私、仕事を頑張る人ってとても好きよ? それに元の世界でも仕事をしている恋人たちは休みの日くらいしかデートとか出来なかったでしょ?」
「それはそうだが……俺は欲張りすぎか?」
「それだけ私の事が好きなんですね? アツシさん?」
「むう、カナエには敵わんな」
「もっともーっと好きになってくれていいんですよ?」
「君も俺の事をもっともっと好きになってくれると嬉しい」
「ええ、そうさせて頂きますね?」
そう言って頬にチュッとキスをされ、俺もカナエの頬にキスをして、お互い唇を寄せ合いキスをすると微笑み合ってから元の拠点へと戻り、その後はニノの手伝いに走り回った一日だった。
そして翌朝――。
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