69 追い出された水野と、これからの俺と(井上side)
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――井上side――
――そう叫んだ水野の声は一階にまで響き、静かに階段をのぼってくる音に俺は冷や汗を流し、その足音は俺の部屋の前で止まった。
ノックをする音に喉が嗄れながら返事を返すと、姫島が笑顔で立っていた。
「下まで水野の声が聞こえたわ。井上は此処にいていいけど、水野は追いだし決定ね」
水を打つような声に俺はヒヤリとし、水野はキッと姫島を睨みつけた。
これ以上水野が口を開いたらと思ったが、その時には既に遅かった。
「アンタはいいわよね。レアスキル持ちで先生と婚約して、良い思いしながら生活して」
「………」
「私は奴隷の様に毎日働いてるのよ!? こんな社畜みたいな生活ある!? 私はもっと楽がしたいのにそれすらもさせて貰えない……こんなのあんまりよ!」
「貴女、ニートになりたいの?」
その言葉に水野はグッと喉から出そうだった言葉を飲み込んだ。
「料理は出来ない、洗濯も出来ない、仕事も出来ない。貴方が出来る事って何? 貴方がしたい事って何?」
「それは……」
「人生楽して生きるなんて出来ないの。それすらも分からないお粗末な頭なのね」
「そんな訳……」
「言っておくけど、私も先生もオーバーワークになりながら毎日働いて、やっと最近少し時間に余裕が出来たくらいなのよ? 貴女と一緒にしないでくれないかしら?」
「……」
「もういいわ。先生は止めたけれど私と菊池は同意見だったの。水野を追い出すか、オスカール王国に戻すか」
「い、嫌よ……此処から出て行くなんて」
「無理よ。貴女はこの家に要らないわ」
「ま、真面目に」
「今から働くって? 貴女何時も決断が遅いのね」
冷え切った言葉に水野はガクガク震え、俺に目線を向けたが助けることは不可能だ。
「井上……貴方なら分かるでしょ?」
「すまん、俺にはお前の気持ちは理解できない。俺は仕事が大変でも楽しいと思うし、実際店長が俺の頑張りを認めて酒場で働けるようにって、先生に話してみるっていってくれたんだ」
「酷い……私だけ除け者なんて!!」
「お前が真面目に働かなかったからだろ!? 被害者面だけ得意とか最低なんだよ!」
そう叫ぶと水野は泣きながら座り込み、ダグラスがやってくると水野の腕を掴んで引きずりながら連れて行く。
俺も慌てて付いていくと、水野は玄関から放り出されてドアは閉められた。
外の声は聞こえないが呼び鈴が鳴り響きドアを叩くような音が少しだけ聞こえる。
ああ、もう水野は家にも入れさせて貰えないんだなと理解出来た。
水野、お前はいつもその場しのぎばかりで、クラスで影響力のある男子にしがみ付いてご機嫌取って生きて来てたけど、社会じゃそれは通用しない。
特に女だらけの仕事場にいたら、そんな事は出来ないし甘えなんて許される筈がない。
それも理解出来ない程、愚かだったんだな。
「井上」
「菊池……」
「先生も毎日お菓子屋に足を運んで、苦情を言われつつ『もう少し様子を見てくれ、根性を叩き直して貰いたい』ってお願いしてたっす。でも、水野は無理だったんすよ」
「……」
「しかも、売り物のお菓子を盗んで食べてたっす」
「は!?」
「それが決定打だったすね……」
「……先生は?」
「今、城に連絡入れてるっす。うちではもう預かれないと」
「そうか……水野はこの後どうなるんだ?」
「オスカール王国に戻る事になるっすね。話し合いも最近やっと纏まったみたいっすし」
「そうか……」
「多分、城の人が迎えに来て牢屋に入れておくと思うっす。王太子も牢屋にいるって聞いたっすよ」
「……」
「カナエが言ってたっす。井上はまだ根性があるし何とかなると思うけど、水野は多分無理だって、二人を預かった時に言ってたっす」
「そうか……」
「井上の所為じゃないっす。水野の性格の問題っすよ」
「そうだな」
そう言うと先生が部屋に入ってきて、スキルボードを動かすと呼び鈴が静かになった。
時折奇声が小さく聞こえたけれど、発狂した水野が何かを叫びつつドアを叩いているのだと思う。
子供たちは不安げにしていて、エリーナさんとダグラスさんにしがみ付き、二人は「大丈夫、城の人がもう直ぐ来るからな」と声を掛けていた。
そしてそれから間もなく水野の声がしなくなり、ドアを軽くノックする音に先生がドアを開けるとお城の兵士が来ていて――。
「では、お預かりしていきます。アツシ殿にもご迷惑をお掛けしました」
「ええ、コレでやっとホッと出来ます」
「後は牢屋に入れておきますので。時が来ればオスカール王国に戻す事になります」
「了解しました。よろしくお願いします」
そう言うとドアを閉じ、水野は牢屋のような馬車に乗せられ、口を縛られ腕と足も縛られて倒された状態でこちらを睨んでいたが、もうどうする事も出来ない。
水野、何故馬鹿な事をしたんだ……。
そう問い掛けたくても、もう聞くことも出来ないんだな。
「さて、憂いは去ったし晩御飯にしましょうか!」
「そうね、色々あったけど結局は丸く収まる所に収まったのね」
「まぁ、あの嬢ちゃんならしょうがないだろうな。考えが幼稚すぎた。子供たちの方がまだ大人だ」
「それは言えてるな。皆迷惑かけたな! もう大丈夫だ、井上はこのままいて貰う事になるがいいな!」
「「「「はーい!」」」」
――こうして俺は、ストレリチアの酒場の従業員として今後も働くことが決まった。
このあとの水野の事をチラッと先生に聞いたが、上手くかわされて聞く事は出来なかった。
だが、それから数か月後――。
オスカール王国に戻った水野の死がこの国にも伝わってきた。
オスカール王国に戻る途中逃げ出し、魔物に食い殺されたと言う話だった。
あの王国だから実際はどうかわからないが、最後の最後まで自分本位で動き、命まで粗末にした……そんな水野の最後に相応しい終わり方だったと思う。
それと同時に思うのだ。
もしかしたら、異世界召喚されなかったら、別の生き方があったのかも知れないって。
そう思っても後の祭りで、暫くしてからオスカール王国の王族が代わる事になったと言う話を聞いた。
ノスタルミア王国の女王に薬を盛ったことが他の国の反感を買い、王家が潰されたのだ。
王族は四つの国の法律の元、斬首刑となり、今は新しい王家となる者をジュノリス大国が探している途中らしく、どうなるのか分からない。
それでも――、もう戻りたいとは思わなかった。
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