62 先生としてのコンプライアンスに悩みつつ、春の訪れとともに想いを――。
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金曜、楽器店の従業員にそれぞれの説明と使用上の注意を伝え、明日から頑張って貰う事になりやっと拠点に到着するや否や、ダグラスに俺とカナエは捕まった。
「どうしたダグラス」
「前から言おうと思っていたんだが」
「うむ」
「お前ら二人働きすぎ! 今日は日帰り温泉なんだろ! サッサと行ってこい!」
「む!」
「そうね、行きましょう先生!」
「では子供たちは任せた! 存分に温泉を堪能した後は」
「拠点に帰ってグッスリ寝ましょう!」
「そうしよう!」
こうして子供たちにも見送られストレリチア村の温泉宿に行き、日帰り温泉であることを伝えると了承して貰えた。
温泉に入りたくても入れない村人たちは銭湯に行く。
二か所ある銭湯は人気が高いのだ。
一応客室を一室用意して貰い、俺とカナエはそれぞれ温泉を楽しむ。
あ――……極楽だ。
随分と疲労が溜まっていたらしく、疲労回復が効いているのがよく分かる。
それに肩凝り腰痛……この年で腰だけは壊したくない。
男は腰が命だとも言うし。
いや、その前に本当にカナエと結婚出来るのか否か。
カナエは俺の事を慕ってくれているし、よく一緒にいて仕事も頑張って、それでいて時折甘やかしてくれる。
多分……理想的な女性なのだと思う。
もし仮にカナエが別の男と付き合うと言えば、間違いなく相手を牽制するし、カナエには考え直すように言うと思う自分がいる。
――つまり。
俺はカナエが好きなのか?
「……いやいや、コンプライアンスが!」
確かにカナエはアッチの世界でも結婚出来る年齢かも知れんが、こっちの世界に教育うんたら会とかそう言う恐ろしいのは無いのは充分理解しているが!!
せめて、せめてこの世界でいう春になったら考えよう。
そう言えばリウスさんが「そろそろ春が来ますね」と言っていた。
となると、カナエも卒業式に本来なら出る筈だったんだ。
こっちの世界ではなく、アッチの世界で。
結局、あのバス事故の後どうなったのかは分からない。
可能性としては死んだ可能性もある。
もう元の世界に戻れない事は充分理解しているつもりだが、それはそれで諦めがつくような、付かないような。
この世界に来て、守るべき人たちが増えてしまったというのもあるだろう。
子供たちはせめて成人するまでは面倒を見たいと思っているし、菊池はうちの従業員として雇う事にしているし、テリア達姉弟はそろそろ奴隷から解放したい。大人組もこのままでいいとは思っていないが、そこは本人たちの意志に任せようと思う。前にダグラスが言っていたお金を貯めて自分を買い戻すってヤツだ。
無論、奴隷から解放した後もうちで雇いたいと思っているし、故郷に帰りたいと言うのならそうさせてあげたい。
「は――……やること一杯だ」
身体の疲労は抜けても脳の疲労までは中々取れにくい。
脳の疲れは眠って取るしかないだろう。
最近夜は疲れ果てて意識を失う様に寝ることが多かった。
たまの休み位はのんびりと……これからの事を考えよう。
この世界が本当に春になったら、春になったと誰かに言われたら、カナエと結婚を前提にお付き合いを申し込む。
驚く顔が想像できるが、カナエほど自分と波長の合う女性はいない気がするんだ。
それに、お取り置きしているんだから、貰わないとな。
リウスさんにこの国の春が来たら教えて貰う様にお願いしよう。
常春のノスタルミア王国では、俺たちのような別の世界から来た人間では分からない。
うちにいる従業員は全員獣人なので尚更分からないだろう。
「フ――……」
どうカナエに言うべきか。
恋人の間は、ペアリングを付けておきたいのが昔からの夢だった。
婚約したら婚約指輪を。
結婚したら結婚指輪を。
カナエに告白する時はペアリングも同時に贈る予定だ。
無論左手の薬指に。
となると――。そう思ってスキルボードを出すと宝石店を手に入れた。
チラチラッと見て行くと、あらゆる宝石が載っているようで、アクセサリーも充実している。
カナエはピアスを着けていないので、指輪だったら丁度いいだろう。
小さくダイヤがついていればいい。
揃いの指輪を付けて、街で恋人らしくデート……。
理想的だが、忙しさが半端ない。
木曜か金曜のどちらかはデートの日にしたい。子供達もいるし二日間ともは難しいだろう?
それくらいの我儘は許して貰えるはずだ。
「ずっと教え子な訳、無いんだよな」
卒業すれば元教え子だ。
そうなれば、自分の中に強くあるコンプライアンスも許してくれる気がする。
カナエから振られたら辛いが、振られる事だけは無いと信じて指輪を送って付き合って欲しいとちゃんと言うのだけは忘れない。
大人の余裕を持って接することが出来るかは別としてだが。
取り敢えずは春だ。
時が来るのを待とう。
俺にはそれくらいしか出来ないんだしな。
思わず知らずのんびりゆっくり温泉に入ってしまい、良い感じに日頃の疲れも取れて水風呂で身体を冷やしてから温泉から出て身体を拭き、着替えを済ませて借りている客室に行くと、カナエは既に戻ってきていたようだ。
「あ、先生長く温泉に入ってたわね」
「ああ、日頃の疲れをしっかり取ってきた。これでユンケ〇にも頼らなくて済みそうだ」
「あははは! やっと落ち着ける感じかな?」
「ああ、後は菊池の店を用意してやるだけだが、後はのんびりゆったりと出来そうだ。やる事は然程変わらない」
「後は在庫管理さえ慣れて覚えてしまえば何とかなるものね」
「カナエがしっかりサポートしてくれたから助かったよ」
「あら意外。先生が私に感謝するなんて」
「ずっと感謝はしてきたさ。ただ口にする余裕が無かっただけだ」
「そっか」
そう言うとカナエはお茶を飲み、俺もお茶を飲んでホッと息を吐いた。
すると――。
「リウスさんから、王国記念祭があるって聞いたの」
「王国記念祭?」
「その日に国民も含めて皆、一歳年をとるんですって。そして春の訪れを喜ぶの」
「その日は何時なんだ?」
「来週の木曜って聞いてるわ」
「なら、一緒に回ろうか。子供たちは菊池とダグラスに任せて、少し話がしたい」
「そう? なら一緒に回りましょう! 出店とか出るらしくって!」
「ははは!」
来週の木曜が王国記念祭で春の訪れだと知った俺は、その日「卒業おめでとう」と告げて、想いを伝えることにした。
上手く行く確率なんて分からないが、それでも――。
「後は家に帰って寝るか?」
「女将さんが夜も食べて行かれますかって聞いてたけど?」
「俺たちの分もテリアが作るんじゃないか?」
「ん――……偶には先生と二人で食べたいって言うのは、我儘?」
思わぬ我儘に俺は照れ笑いしながら「仕方ないな」と伝えると、カナエは喜んで女将を呼び、夜ご飯を食べてから帰宅する事を告げた。
ついでなのでこのままツインのベッドもある事だし寝て行こう。
「食事が出来たら起こして欲しい」とチップを渡してお願いすると、女将はスッと部屋を出て行き、俺達はグッスリと夕飯前まで眠った。
――カナエの可愛い我儘くらいは、聞いていてやりたいんだ。
心でテリアに謝罪しつつも、その後夕食時間までグッスリ眠ってしまい、夕食は豪華な料理で舌鼓を打ち、日帰りなのに贅沢をしてしまったと思いながら料金を支払ってカナエと夜のストレリチア村を歩く。
「あ~~~! ゆっくり出来た! 明日からまた忙しいけど頑張りましょう!」
「明日は楽器屋オープンだからな!」
「儲かりますように!!!」
「オーケストラの人達が一気に大量購入してくれますように!」
「歌劇の人たちでも良いです!」
「売れたらいいな」
「本当に」
そう言って二人で二十四時間開いている役所に入って職員に挨拶しながら拠点に帰り、皆に「疲れは取れましたか?」と言われつつ「しっかり温泉に入ったから身体は元気だし、昼寝もしてきたし、夕餉も食べてきてしまった」と言うと、テリアから――。
「良かったです、食べてくると思うってダグラスさんとエリーナさんに言われたので、夕食残ってなかったんですよ」
「そうだったのか。ありがとう二人共」
「おう。ゆっくり休めたなら良い事だ」
「お家の中も広くなりましたし、色々出来そうですね」
「ああ、仕事頑張ろう!」
「無理のない範囲でね?」
「ああ!」
こうして幸せな一日を過ごし、翌日オープンした楽器屋は大盛況で、オーケストラ五十人分の予約が入り一気に売れたのと、その後もお子さんに、自分に、嫁さんにと楽器を買う客は後を絶たず、またオルゴールも飛ぶように売れ、ホクホクな収入源となったのは言うまでもなかった。
そして忙しく動き回って翌週の木曜日の朝――。
「カナエ、二人で王国記念祭を回ろう」
「ええ、勿論よ!」
「デートか? 楽しんで来いよ!」
「子供たちは私達と菊池君で見るから!」
「リア充は滅べばいいっす――!!」
菊池の呪いの言葉を聞きながら俺とカナエは二人で王国記念祭を回り、沢山の屋台で食事をして、俺は酒を、カナエはジュースを飲みながら「本当に味が薄いのね」「薄い料理だった」とケチを付けつつ苦笑いし、そのまま高台へ向かい首都を一望できる景色を見つめ、俺は今こそと、緊張しながらカナエを呼んだ。
「カナエ」
「ん?」
――果して、上手く行くだろうか?
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