128 テリサバース教会の法王への裁判が始まった。④
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――法王side――
非常に不味い事になった……嗚呼ロスターナ、ワシはどうしたらいい!?
急ぎテリサバース教会に到着すると、シスターや神父たちに「陛下と王太子が聖女の見舞いにくる! 速やかに部屋と身代わりを用意せよ!」と叫ぶと全員顔面蒼白で動き始めた。
陛下たちに顔が見えぬように白いレースの天蓋付きベッドを用意し、ベッドには聖女の服を着た髪色だけ似ている女を用意する。
どんな治癒師を連れてくるかは分からないが、聖女は何時も目元を隠していたのだから顔さえ見えなければ大丈夫だと思ったのだが――こんな時に限って目元を隠しているようなシスターがいない!!
「絶対に顔を見せてはならんぞ!! 言葉もだ!」
「は、はい!!」
こうして居なくなった聖女が、あたかもいる様に舞台をセットし終わる頃、城からの馬車が到着しテリサバース教会に忌々しい王家が入ってくる。
折角即死する薬を預けたと言うのに……もしかしたらワシの与えた薬で死んだのは毒見役かも知れない。
そうに決まっている!
まるでジワジワと追い詰められているかのようで心臓はバクバクし、女神テリサバースとワシの女神であるロスターナに祈りを捧げた。
急いで用意させた居もしない聖女の部屋は白を基調にしており、あんなガキの聖女よりも大人の色気ムンムンのロスターナにこそ似合う部屋だと思いながら彼女を想う。
たったの二日でワシの心はロスターナのモノになってしまった……。
嗚呼、ロスターナ。どうかワシを守っておくれ。
部屋に流れ込む様に陛下たちがやってくると、聖女の身代わりになっている娘に対しジュノリス王は声を掛けた。
しかし「一言たりとも喋ってはならん!」と伝えていた為、彼女は震えながら声を出さずに首だけ動かして返事をしている。
風邪を拗らせて声が出ないと思わせる為だ。
「どうやら風邪を引いて声がでぬようでしてな……」
「それでしたら、治癒師の薬で治りますよ」
「いや、薬は」
「ええ、とっても効くと評判なんです! 冒険者ギルド近くの治癒院にも薬を卸していますが、とても良く効くと評判で! 水野、聖女様に是非喉が良くなる薬を」
「ええ、風邪で喉ね」
そう言ってレースの中に入って行った治癒師が聖女の顔を知らないでいて欲しい!!
その一心で震えながら様子を見守る。
鞄から薬を取り出し、携帯用の何かだろうか? 筒からコップがはがれ、そこから水を出すと「聖女様、お薬を飲みましょう。起きられますか?」と優しく声をかけた。
震えつつ此方を視ないようにして起き上がる偽聖女。
しかしミズノと言う娘はコップを落とし口を押えて立ち上がると目を見開いている。
嗚呼! 嗚呼まさか!!!
「貴女は誰!? 聖女様は何処なんですか!?」
「どうした水野!」
「この方は聖女様ではないわ!!」
その一言に王家側は騒めき、ジュノリス王はワシを睨みつけると「……どういうことだ?」と地を這うような声でワシに問いかけて来た。
「あ」「う」しか言えぬワシに酷い圧迫感が迫る。
「せ、せ、聖女……様は……」
「どこに居られる!!!」
「聖女様は行方不明なのです!!」
「なんだと!?」
「テリサバース教会から逃げ出してしまって! 国中を探しまわったのですが何処にも見当たりませんでした!!」
「何故その様な大事な事を黙っていたのだ!!!」
「申し訳ございません!!!」
土下座して頭を床にこすりつけ叫ぶと、ジュノリス王は立ち上がりマントを翻し、ジュノリス王国全てに『聖女様が行方不明である事、一刻も早く探し出せ!』と国民に発令する事となった。と同時に各国にも『聖女様が行方不明である事、三ヶ月位前に教会から姿を消している為、各国でも聖女様を探して欲しい』と連絡する事になった。
挨拶もせずバタバタと去って行った陛下たち……そして国の一大事を知らせる鐘が鳴り、魔道具による拡散放送機にて今一度王家から『聖女様が三ヶ月位前から行方不明であること』『一刻も早く探し出す命令』を発令された。
これには国民もパニックになり、今まで聖女がいない事を黙っていたテリサバース教会は更に追い込まれた。
そして……あれほど愛してやまないロスターナが、その夜いつもの時間に教会に来ることは無かった……。
余りのショックにワシは自室で無気力に次の晩を待ったが二日目もロスターナは現れなかった。ワシは教会のいつものベンチから動く事が出来ず、いつの間にか朝になり昼になりまた夜になった。三日目もいつものベンチで待っていたがロスターナは来てはくれなかった……。
「嗚呼…ロスターナ……ロスターナもあの放送を聞きワシを嫌いになってしまったんじゃろうか」
教会のいつものベンチで泣いた次の日、城から一通の手紙が届いた。
明日、また出廷せよとの命令だった。
ロスターナにも会えず……明日はついに呼び出しか……。
聖女が居なくなった責任を取らされるのだろうか。
それならばいっそ、いっそ――ロスターナと共に逃げてしまいたい。
最早法王でなくともよい。
一人の男に戻って、ロスターナと小さな村でヒッソリと生きていければ……そう思った日の夜も習慣のように教会のいつものベンチに座っていると、外からの扉が開き、外は大雨だと言うのに何時ものマントを濡らし、髪も濡らしたロスターナが入ってきた。
嗚呼。
嗚呼!
ワシの、ワシのロスターナ!!
思わず涙をそのままに足を絡ませつつ駆け寄ると、ロスターナの手を取った。
ずっと会いたくて仕方なった。
数日会えぬだけで身が切り裂かれそうな程辛かった。
「ロスターナ……一体どうしていたのだ? もうてっきり、ワシの事など嫌ってしまったかと」
「……確かに、聖女様がいないのを騙していたことは許せないわ」
「……すまないロスターナ」
「けれど、法王様にも理由があったのでしょう? どうしても言えない理由があったからこそ、この私にも、言えなかったんでしょう?」
「ロスターナ……」
理解してくれるのか。
やはりワシを理解してくれるのか!!
嗚呼愛しい人よ。ワシはもう法王でなくともよい!!
「ロスターナ、一緒に逃げまいか?」
「どういう事?」
「ワシはついに、明日……国の法で裁かれる。聖女を逃した罪だろう」
「……」
「ロスターナさえいてくれれば、ワシはもう法王でなくともよいのだ!」
「!?」
「苦労しないだけの金は用意する!! だからワシと逃げてはくれまいか!」
ワシの必死の呼びかけに、ロスターナは辛そうに眼を閉じると顔を背けた。
嗚呼、やはりワシでは駄目なのか?
こんなにも愛しているのに。愛し合っているのに……。
そう思い心が沈みかけたその時だった。
「……早朝、此処に来るわ」
「ロ、ロスターナ?」
「お店にも一言話しておきたいし、何も用意がないし、外は真っ暗だし大雨よ……」
「ロスターナ!! 嗚呼、ああ……ありがとうロスターナ!!」
「こうしてはいられないわ。明日の朝5時に大聖堂に来るから…」
「うむ……っ うむ!!!」
「急いで帰らないと、貴方も急いで準備して!」
「分かった! 急ごう!!」
そう言うとロスターナはマントを羽織り急ぎ外へと飛び出して行った。ワシはその背を見てから出来る限り急いで走り自室へと入る。
持って行ける服、持って行ける金貨を鞄に必死に詰め、服装もただの神官の服に着替えると、時間になるまで部屋で少し仮眠をとった。
――ロスターナはやはりワシの手を取ってくれた……。
言いようのない安心感と幸福感に包まれたワシは、あの時ワシを選んでくれたロスターナを思い出し息を吐く。
今まで、法王になるまでの人生でこれほど幸福感に包まれた事などあっただろうか?
いいや、きっとない。
余りにも美しく、余りにもワシを愛し、ワシの為に共に逃げてくれる女性等、居ないとおもっておった。
だが違った……。
神はワシにロスターナを授けて下さった。
誰もが息をのむほどに美しいロスターナを。
そして、ロスターナからの溢れんばかりの愛を。
朝の5時、ワシはついにロスターナとこの国を出る。
もう、法王の座も国王の座もいらぬ。
彼女さえいてくれればそれでいい。
――逃げるのだ。此れからはずっと。
だが彼女ならついて来てくれる。
愛の逃避行じゃ、ヒヒヒ……。
「朝の五時……そこまでテリサバースの女神よ、ワシを守り給え」
読んで下さり有難う御座います!
もう直ぐ完結です!!
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とても多くてすみませんm(__)m