一日の始まり
一番初めに意識が生まれた瞬間は、どの時点を指すだろうか。
自分が自分であることに気づいた瞬間か。
それとも、無知から一気に成長した瞬間だろうか。
少女にとって、この世界に意識を持った瞬間に襲いかかってきたのは、痛みだった。
喉が渇くし、痛いし。初めての経験ではなくとも、口の中に異物が入っていることが明確に意識できる。顔面には冷たいものがかかり、反射的に鼻から嗅覚の奇妙な液体が入ってくる。
少女は目を開けた。仰向けになっている視界に現れたのは、眉間に深いしわを寄せ、青黒い灰白色の長い髪をかき分けた威厳ある老人だった。老人は細く傷だらけの左手で少女を押さえつけ、そして右手を下あごに伸ばした。
カチャ。太い管が抜かれた。吐き気がして、激しい咳が出た。痙攣する横隔膜と、口の中に広がる血の匂いと酸っぱい味が、少女の目尻に熱い涙を滲ませた。
「…!ふぇぇぇ!!!」
「おかえり、アデル。久しぶりだね、私の愛しい孫娘よ。」
老人はそう言って、厳しい顔つきが柔らかくなった。
それ以来、少女の人生は「アデル・フラーズ」として始まった。
§
「お嬢様はどこにいるのですか!?」
「早く!あと客人が来る時間ですよ!」
「あーもー何なんですか!?あなたたち二人、バラけて探しなさいよ!シャワーから着替えまでに少なくとも一時間はかかるじゃないですかああああ!」
「は、はいっ!」
朝早く。
高い位置にある屋敷内で。アデルは目の前でメイドたちが慌ただしく行き交う様子を見ながら、のんびりとリンゴをかじった。口の中に広がるリンゴの甘さを感じながら、彼女は外の屋敷を見渡した。
外では天気雨が降っていた。
目の前に広がるのは、緑豊かな平原だ。雨雲が光を通す隙間を残し、断続的に地面を照らしている。
起伏のある斜面には、苔で覆われた石の塀がいくつかあり、その奥には濃密で古い森が広がっていた。太くて深い緑の葉が風に揺れ、雨水に潤いを与えている。
こうした幽玄な雰囲気とは対照的に、アデルのいる街の中はまったく異なる景色が広がっている。
平地に孤立している盆地の中央に、石のレンガで築かれた独特の形状の高層建築物がそびえ立っている。天に向かって微細ならせん構造が広がり、壁面には巨大な弩砲がいくつも突き出ている。それが街の中心部であり、飛行魔物に対する防衛を担う「大海螺」と呼ばれる主塔だ。その巨大な塔を中心に、他の建物が整然と周囲に広がり、交差する道路と共に完璧な円を形成している。
実際には、区画に分かれた道路の間には、ペアで配置された小さな監視塔が立ち並んでいる。最も外側の防衛線を突破する魔物が街に侵入した場合、地面から予め準備された、成人の身長ほどの鉄の鎖網が立ち上がり、一時的な防衛線を構築する。
アデルは、漫然とした目線で、人間の頑強な生命力と知恵を象徴する建物群を遠く望んでいた。滴り落ちる雨水が「大海螺」の滑らかな表面にかかり、波のように集まり、本来は絶対的な威厳を持ち、巨神のような存在だったものに、幻想的な色彩を与えていた。
内城の厚みと秩序とは異なり、山麓の外城にはいくつかの住宅や店舗が点在している。丘陵の間に響き渡る教会の鐘の音は、まったく異なるイメージを作り出している。
雨がちょうどやんだ時、アデルは墨緑色のマントを身にまとった一団がゆっくりと屋敷に近づいてくるのに気づいた。
果実の核を手放すと、アデルはすばやく木から飛び降りた。幼い体は猫のようにしなやかで、音も立てずに地面に降りた。彼女は屋敷の大きな門から歩いて外に出た。緑の旅人たちがちょうど馬を降りて歩いてきた。先頭の若い旅人がアデルに気づくと、軽く頭を下げ、マントの帽子を取り外して敬意を表した。
青年の柔らかい金髪には水滴がつき、太陽の光に輝いている。顔には明るい笑顔が浮かび、青年はアデルに話しかけた。
「初めまして。その美しい黒髪と強大なオーラ、きっとあなたがフラーズの令嬢でしょう。僕は…」
「あんたが今日プロポーズに来たやつなの?」
「え?あ、はい。」
「くたばれ。ロリコン野郎。」
アデルの鉄拳が青年の腹部に爆発した。
§
「信じられません!」
豪華な椅子に座ったまま、アデルはゆったりと茶を一口飲んだ。彼女は激昂する女僕長兼教育係を冷たい目で見つめた。
「相手は遠くからの求婚者なんですよ!それなのに、お嬢様が直接相手を打ちのめして、口から泡を吹かせてしまうなんて!あまりにも野蛮です!ちゃんとしたおもてなしもなく、相手はエドガー商会の御曹司ですよ!」
「相手の身分なんて関係ないわ。なぜ私が変態野郎にお人形のように扱われなければならないの。」
「それは礼儀の問題です!お嬢様にもお伝えしましたよね、相手から正式な手紙が届いたことを。私たちは拒絶するつもりでも、正式な方法でお断りする必要があります。それは私たちのイメージに関わるんです。」
「うるさいわね。本来拒絶するつもりなんだから、そのまま返せばいいじゃない。」
「だからで!それは礼儀の問題です!それにお嬢様のお話し方!このセリーナは、そんな言い方を教えた覚えはありません!」
「どうでもいいわ。」
アデルがいらいらした態度を見て、セリーナは重いため息をついた。
「本当に…お嬢様の知恵が少しでも礼儀に向かうようならいいのですが。」
「私は時間と場所を判断できる。心配しないで。話は終わり?私は外に出かけたいわ。最近は礼儀の授業やつまらない歴史学ばかりで、体がカビるみたいだから。」
「お嬢様…もしも旦那様がお嬢様がサボっていることを知ったら、私が叱責されます。」
「お爺様は現在、領地にいないの。皆に告げ口されなければ問題ないわ。」
「でも…」
「それ以上言わないで。早く装備を持ってきて。」
セリーナは再び重いため息をついた。
「わかりました。でも、少なくとも護衛を連れて行ってください。お嬢様は強いとは存じていますが、念のためです。それだけは必ずお約束ください。」
「まあ、いいわ。それなら。」
「では、エリナさんを呼びます。」
「いいの。自分で彼女を探す。」
セリーナから渡された装備を受け取り、愛黛兒はさっと身につけた。胸当てと腰に差し込んだ片手劍と共に、少女は最後に暗い色のマントを羽織った。窓を開け、足を窓枠に乗せた。
「それでは、出かけるわ。」
「どうぞ気をつけて。」
アデルはスムーズに1階に降り立った。彼女の顔には、爽やかな笑顔が広がっていた。
「では。行くか。」