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第十一話 赤字でどうしようもないよ

それから、あっという間に三ヶ月が過ぎた。



ダンジョンに関しては、休養やら手入れやら作りなおしやら修繕やら再購入やら資金捻出やら、色々煩わしい雑用を片付けねばならなかった。

出費ばかり嵩んで、あれ以降ダンジョン遊びは何も出来なかった。

充分に準備せずに潜ってまた怪物に遭遇したら自殺行為だし。



あれからとにかく先ず、腐ってる死体をダンジョンで焼いた。

薪を敷き並べた上へ、屍骸の下に枝切れを突っ込んで梃子で持ち上げて少しずつ、引っ張り乗せた。

死体の下に更に挿し込み、周囲を薪で埋め尽くし、灯油をたっぷりゆっくり薪総てに沁み込ませて、導火線状に少し離れた所まで引いた灯油に点火。

考えてみたら、火炎攻撃で相手を炎上させる場合だってあり得る。

死体一体焼く程度の事でビビっていたら、火炎攻撃なんかできねえな。

熱放射にせよ、酸素消費にせよ。

そうは言っても、火を点けてすぐに退却した。

一晩待った。

案の定焼け残り部分が出たが、体積が減少したし、表面は焼け焦げて、耐え難い悪臭は減った。

残骸を手斧と鋸で解体してみた。

ラノベなら魔石が得られるんだるぉオ~ン?

と思ったのだが、そんな都合の良さげな物体なんてどこにも無かった。

腐敗した屍骸をグチャグチャに掻き回して、無駄に厭な思いをしただけであった。

もう一度薪の上で灯油かけて焼いて、工事残土処理運搬用袋に放り込んで、裏山に穴掘って、袋から残骸を蹴り込んで、埋めた。

ついでにまた薪をとった。

部屋の中に残してきた奴らも、同様に逐一解体して確認した後、焼いて捨てた。


惨劇が展開した場所に付着した汚れもまた悪臭源となっていたので、それも一つずつ丹念に焼き潰した。


本当に出費だけだった。

純粋に赤字だ。

修繕費用も赤字。

灯油代も赤字。

体中あちこち傷だらけになったのをちまちま一つ一つ手当てするにも傷薬なり絆創膏なり包帯なりが必要になる。

奴らを殺して得た物と云えば唯一、重ったい二本の槍だけだ。

奴ら、半魚人って奴だろう。他に何も身に帯びておらず、素っ裸だったわけだ。

戦士の奴らだけが一本ずつ重い槍を両手で操っていた、と。

正面から闘っていたら、たとえ相手が一匹だけだったとしても、俺に勝ち目は無かった。

素早さはそれほど隔絶した差が無かったが、体格も腕力も圧倒されていた。

お莫迦な奴らで助かった。

戦士相手の時は扉の把手を繋いでいた鉄鎖の下を潜られた時が一番ヤバかった。一応後方にも罠は仕掛けておいたんで、そっ首差し出した姿勢の所に一撃食らわせて駄目なら即刻退却する心算だったが、扉が一番確実だったからな。


さて、この二本の槍。

柄から穂先まで一体の鉄っぽい総金属製の槍で、長さも奴ら基準での手槍だから俺の身長以上で、ほぼ2メートルもある。

とても重たいが、それでも鉄よりは軽い筈、でなきゃ、そう簡単に持ち上がらない。

表面が結構凸凹している。

念入りに洗浄したので、今では隅々までピカピカの銀灰色で、これが出荷時の状態に最も近いのだろう。

柄頭はゴツゴツしてるが丸みは帯びている。

棘やバリの類は無い。

金属塊をよ~く打ち叩いて、大雑把だが実用的に成形した、という感じの品だ。

当然のように柄と穂先の別はなく、穂先として尖端があるのみだ。

尖端はそれなりに鋭く、機銃の弾丸のような角度で、貫通力と頑丈さを両立させている。

俺より大型の半魚人戦士が握る槍だから、俺には少々握りづらい太さだ。

俺が前回持って行って結局使わずに無駄に半魚人の体液で汚してしまった木製棍棒とおなじくらい太い。

一言で云えば、自分の手首くらいある。

ちなみに棍棒はニスをしっかり塗ってあったので、汚れは表面だけで済み、捨ててはいないが、もう使う心算もない。

この槍は重くて太いので、両手で抱えるように握って、そのまま身体ごとぶつかる感じでチャージする使い方しかできない。

これを片手では到底操れないし、両手でも振り回すのは難しい。

これを奴ら、場合によっては片手で突き出していたのだから恐れ入る。

膂力が全く違う。

犬と狼くらい違う。

とは言え、人間でも筋肉ムキムキの奴なら結構いけるのかもしれない。

ともあれ、モンスターの使っていた頑丈な武器で、あの程度の相手に通用するというのが利点だ。

よく油を塗って手入れし、刺してすぐ抜けるようにしとこう。



それにしても、ゴブリンやスライムじゃなく、いきなり半魚人とはな。

驚いたぜ。

死ぬかと思った。

大鼠くらいで良いのに。

最近じゃ角の生えた兎とかいうわけのわからんモンスターもよく登場するけど、趣味じゃない。

最初の敵だからスケルトンやゴブリンやスライムや狼程度だろうと無意識に想定していたなんて、いつの間にか俺もすっかり脳の中身が退化してしまっていたわけか。


戦闘では、きちんと意識的に知覚・認識・状況把握する前に、意識外でそれを済ませて動いていたことが幾度かあった。

日頃の地道な修練の積重ねの成果というわけだが、やはり正しい努力はいざという時に裏切らない。

今後も死ぬまで続けよう。



鎧に関しては、ガチガチで動きが制限されてはいたが、強度はさすがに充分だった。

背後から重傷戦士に槍でド突かれた時に、警備服をじかに突き刺されたが、下のチタンが食い止めてくれた。

だが背中に打ち身の傷はできた。


但し、もしも背後からの一撃が重傷で弱った手でなく無傷の戦士の手によるものだったならば、どうだったろうか。

あの力だ。

もしかしたら脊柱をへし折られていた可能性もある。

毛皮とナイロンの層を貫き、装甲板の隙間を破り、内蔵に達していた可能性もある。

背中側は狙われやすいから、もう少しデフォで補強した方が良い気がしている。


せめて、警備服の緩衝性を活用するために、警備服の上にチタンの装甲板を一枚張るとか。

或はメインの盾をリュック状態で背負っていれば盾で受け止めることができたかもしれない。

もっとも仮に盾を背負っていたところで、運が悪けりゃ却って盾を避けたり盾で滑ったりして、脆弱な後頭部や首に喰らってたかもしれないから、背中に盾が無かった事が宜しくない事だったかどうかは一概に言えない。

盾に関して云えば、戦闘中に悠長に「よいしょ~」と背負ってる閑なんて無かった。

リュックの帯を片方だけ肩にかけて背中側に保持するのも、事前に考えた可能性としては出来なくは無いと思っていたが、実際には邪魔でとてもじゃないがやってられず、増援特に回復術者が来援してからは攻撃に専念しないといけない状況だったので、いつの間にか床に放り出してしまっていた。


それと、今回は相手が上背があったのと、お莫迦さんだったのもあろう、下半身が狙われなかった。

装甲が手薄な部位は顔面以外一箇所も狙われてなかったので、今回は良かったものの、今後油断はできない。

(´・ω・`) なんにしても、本式に改善しようとするならお金……

とはいえ、雷撃をかましてきた小鮫魔術師の腕をへし折ってやった時に、奴が暴れたんで、上半身だけでなく下半身でもチタン板の縁が食い込んで傷ついた箇所が複数あり、ツナギ一枚と肌着程度ではやはりクッションには不充分。

やると放熱処理を強化しないといけないが、やはり鎧下として機能する充分な保護衣も着用しないといけないだろう。

放熱処理といえば、当然銅箔もアルミ箔も体外放熱部はビリビリに裂けて床に散らばってしまっていて、アルミ箔はともかく銅箔は買い直して赤字を増やした。



今回の戦闘では、小鮫の雷撃魔法を咄嗟に防ごうとして胸側に吊るしていた小盾を使った。

そうするしか無い、とあの時は判断したが、良かったとは言えない。

何でも前に立てておけば良いというものではないのだ。

結局電撃は喰らった。むしろ避雷針みたいに呼び寄せてしまった。俺の身体がアースとなったのだ。伏せて小楯を接地した状態で顔の前に立てれば恐らく多少軽減できたのではないか。

魔法的に電撃の『効果だけ』発現させるのならまた違う結果になるのかもしれないが、分らない。

衝撃波だけは直撃を免れたかもしれないが、分らない。

電撃だったと理解したのは結局、戦を終えて帰ってからだった。

その場では何が何だか分らない儘、必死に動かないからだを動かすので精一杯だったので、考えてる閑なんか無かった。

パターン認識して学習していくしか無いのだとすると、初見殺しの敵に出会うまでの命だな……。

肉盾要員を確保できるゲームとは違うのだから、もっと慎重にしないと駄目だ。 死ぬ。


とりあえず神官鮫の死体の蔭に隠れて時間を稼ぐ、若しくはダメージを減らせたかもしれない。しかし敵が黙ってさせてくれたかどうかは怪しい。まだ瀕死戦士に止めを刺していなかったし、悠長に死体っぽい奴の蔭に隠れたりしたら、そいつかもしくは背後の瀕死戦士が起き上がって襲い掛って来て前方の魔術師と挟撃される惧れもあり、そうなれば勝ち目ゼロ。そういう事もあの刹那には頭を過ぎっていた。だから死体の蔭に隠れようとはしなかった。


メインの方の盾はその時手元に無かったし、敵の死体も大きくて咄嗟に持ち上げたりする余裕は無かった。



自分にとっては、鮫野郎の姿が最初に目に入った瞬間以降、四匹を皆殺しにするまで、ずっと死闘だったので、細かい処は覚えていない。

ただ、武器をあんなに持っていって、当初は「多すぎるわこれw」と思っていたのに、実際に次々と突き刺しては手放していたから、結局足りはしたものの、相当手持ちを減らした。

鉈なんて、刃が砕けて、廃品だ。

神官鮫の手を何度も何度も砕き斬った時に、槍に叩きつけていて、刃を砕いてしまったらしい。

初戦でいきなりこれか。


そう思うと、武器については、もう少し【斬る】、一刀で斬り捨てる事が出来ていたら、と思ってしまう。

だが、あのヌメる鱗と厚みのある肉で守られた奴、致命傷を与えるにはこちらの全体重かけて突き刺すのがやっとだった。

例外は手持ちで最も鋭利な殺傷専用ナイフだった。あれはイイ感じに刺せた。

あのナイフくらい鋭利な刃なら、切り裂けるかもしれない。

よく研ぎなおした錆び錆びの出刃も長柄化して準備していたが、今回は使わなかった。

あのナイフで【刺して抉って抜く】のが素早くできれば、そんなに次々と武器を放り出す必要は……いや、ソロの限界だな。

ソロだから敵の手数が増えると、全部自分が的になる分、負傷しやすくなり、それを避けようとして放り出していた。

もし放り出さないで使い続けるとしたら、刺して、抉る閑も無く即座に跳び退く必要があった。

チクチクとそんな事をしていたら、一番前の奴から次々と鉄鎖の下を潜ってきて、結局俺は詰んでいただろう。

もしもそうなりゃ、潜ってくる奴に延髄切りをかまして動きを止めてからトドメ刺す余裕なんか、後続が与えてはくれないからな。

あの時は一体だけ相手していられたから、それが出来ただけで。

下手すりゃ鉄鎖の上から後続が乗り越えてきたかもしれない。

綱渡りだった。

まあ、一応は【訓練場】の通路内にも鉄条網とか準備はしてあったが、魔術師が来援したら遠隔攻撃を受けていただろう。

鉄鎖を扉の把手の間にだけ張るのでは足りなかったなあ。

しかし自分が通り抜ける必要もあった。どうすりゃ良かったのか。


例えば、しっかりと鉄鎖を張って敵が通り抜けられないくらいに扉の間の隙間を狭くしておいて、右側の扉の左半分だけ開いておいたところへ、何か音響を発する物を投げ入れて、敵を呼び寄せるとか?


いっそ、誘き寄せた敵へ灯油をかけて燃やしたらどうだろうか?

転倒罠自体を灯油を撒くことで準備し、転倒して滑った先で更に灯油の器をひっくり返して全身に浴びてもらおう。

そこへ点火。

今回転倒罠は金属球を用いて成功したけれども、単に転倒させるだけで後に繋げなかったのは、反省点。

また金属球は赤字額を増大させたが、灯油のみで済ませられればその方が低コスト。

敵が灯油の臭いに警戒心を起したら引っ掛からないかもしれないけど。

うーん。


それも面白い試みではあるけれど、いっそ敵が通路を駆けて明るい部屋へ駆け込んでくる段階で阻止して、狭い通路に敵が群れてる間に灯油まみれにさせて点火した方が恐らく効率は良いだろう。

予め通路に入って灯油まみれにさせられるように工作しておかないと、槍でド突かれながら灯油を浴びせるわけにもいかないだろうけど。


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