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⑬白崎海斗 

 


白崎海斗の猫探しは大学を終えた午後3時半過ぎからになった。

話を聞くと、日奈子ちゃんは今朝にも子猫を探したみたいだったが、見つからなかったらしい。



2人は大ノ森公園で落ち合い、子猫を探していた。もう既に1時間が経っていた。


「いないね」と白崎が言うと、


「だね、いないね」と昨日とは違い、いつも通りの服装の日奈子ちゃんはどこか寂しそうにそう言った。


「もう誰かが保護したかもよ?」


「それはないでしょ。昨日撮影したんでしょ?それにここにいた野良猫たちだって、私たちが動かなきゃ保護されていなかった訳だし」


「うん。...まぁ、そうだね」



2人は公園の隅々まで探したが、私有地の小山の方にいたらどうしようもなかった。


次の探し場所に困った白崎は、「そう言えば、日奈子ちゃんは美咲さんの話聞いてる?フーデリヤの話」と間を埋める為に聞いた。


「うん。まぁ一様、配達中に男の人に部屋の中に引きずり込まれかけた話でしょ?」


「うん。じゃあ、さらにビックリするかもしれないけどさ、その美咲さんをアパートに引きずり込もうとした男と、ここで猫の撮影していた人が一緒だと思うんだ」と白崎が言うと、


「...なんでそう思うの?」と日奈子ちゃんはキョトンとした目で聞いてきた。



白崎は昨日の動画の話から、事の経緯を話した。



そいつは川口仁成という男で、白崎と上村の中学の同級生であり、昨日上村が美咲さんが引きずり込まれかけたアパートに行くと、そこで川口と会い、見た目から絶対川口仁成だと言っていたことを話した。


「けど、昨日送った動画じゃ、まだその人、本人かわからないでしょ?そこまで顔はっきり見えないし」


「まぁそうだけど、どことなく川口っぽいんだよね」と白崎が言ったところで、



小山の下の茂みの方を見ていた日奈子ちゃんは「あっ、あれ!」と声を出した。



「えっ、何!?」と白崎も急いで同じ方向に目を向けた。



「...あっ、なんだ...折れた枝か。ごめん」と日奈子ちゃんは言った。



「...じゃあ、また向こうを探してみる?」



「うん、そうだね。...白崎くんって猫が好きなんだね」


「...いや、嫌いじゃないけど...まぁ好きな方かな...。」



「じゃあ、これあげるよ」と日奈子ちゃんはポケットから何かを取り出した。


それは猫のぬいぐるみが付いたキーホルダーだった。



「えっ、いいの?」


「うん、あげる。猫好きなんでしょ?」


「あっ、ありがとう」と言い、白崎はそれを受け取った。


「どうしたやつなの?これ?」


日奈子ちゃんは少し笑いながら、「部屋にあったやつ」と言った。


「ありがとう、アパートのカギにでも付けるわ」


白崎はその猫のキーホルダーをポケットに入れると、いつの間にかに川口の話は終わり、子猫探しの続きを始めた。




だが結局、さらに30分かけて探しても子猫を見つける事はできなかった。



日奈子ちゃんは残念そうな顔をしながら、着ていたTシャツをつまんで身体に空気を送っていた。


「今日は暑かったね」と白崎は言った。


「うん、ちょっと汗かいちゃった」


「俺もだよ。...。子猫は、また今度探そうよ」



「...うん。そうだね。じゃあ、今日はこの辺で」と日奈子ちゃんは事が終わると、あっさりと別れを切り出した。


「だね。また探そう...」と白崎が同調しそう言うと、



「...い、いや、ちょっと待って」と日奈子ちゃんはスマホを一度見てから、


「な、なんか食べない?コンビニで何か買って、ここで、この公園で食べるのはどう...?夕食にはちょっと早いけど...」と言ってきた。



白崎は日奈子ちゃんのいきなりの誘いに驚いたが、断る理由も特になかったので、

「いいよ、何か食べようか。じゃあ、コンビニにいこう」と言った。


そして、2人はコンビニにいき、コーヒーやサンドイッチ、おにぎりを日奈子ちゃんの奢りで購入し、公園に戻ってべンチに座った。



「お腹減ってたの?」と白崎は聞いた。


「うん。けどまぁ、白崎くんに悪いかな?と思って」


「なんで?」


「昨日は奢ってもらったし、今日は一緒に探してくれたし」


白崎は笑ってから、「全然、大丈夫だよ。気にしないで」と言った。



2人はビニール袋からそれぞれ選んだものを取り出し、食事を始めた。白崎はおにぎりを選び、日奈子ちゃんはサンドイッチを選んでいた。


「猫、明日の朝も探してみようかな~」と日奈子ちゃんはサンドイッチを開封しながら言った。


「明日も時間あるの?」


「いや、明日は忙しいけど、早朝なら、大丈夫かもしれないから」


「そっか、俺は明日の授業は昼過ぎから行く予定だから、俺も朝探そうかな」


「えっ、そうなんだ」


「うん。明日の午前、この辺でフーデリヤするつもりだから、ついでに探してみるよ」と白崎は言った。




2人は食事を食べ終わると、なんとも言えない空気が流れていた。

白崎はここからどうすればいいのか考えていたが、口を先に開いたのは日奈子ちゃんだった。



「そう言えばさ、白崎くんのアパートってここから遠かったっけ?」


「いや、まぁ遠いっちゃ、遠いけど、自転車ならすぐだよ」


「どんな間取り?」


「ワンルームの狭い部屋だよ」


「そうなんだ。快適?」


「うん。いや、やっぱり、ちょっと狭いかな?」


「へぇ、見てみたいなぁ」と日奈子ちゃんが言うと、白崎は思わず飲んでいたアイスコーヒーを途中で止めてしまった。


「いやぁ、狭いし、汚いよ?のび太の部屋みたいだし、けど見てみる?」と白崎は冗談と期待を交えてそう言った。


すると、「えっ、いいの?」と日奈子ちゃんから思わぬリアクションが返ってきた。


「も、もちろん」


「じゃあ、チラッと見ていいかな?今から?」


「...今から?うん。いいよ」


白崎の鼓動はこの急展開に早くなっていた。



「私、これから建築を学ぼうかなと思い始めてるんだ」


「えっ?初耳」


「うん。初めて人に言った」


「けど、俺の部屋なんてどこにでもある、普通の間取りだよ」


「それがいいの。興味があるの」



そして、なぜか日奈子ちゃんリードで、白崎は自分の家に日奈子ちゃんと一緒に帰ることになった。


白崎はゴミが入ったビニール袋を手に持ちながら、ベンチから立ち上がり「ちょっと自転車、取ってくる」と言うと、「私も一緒にいく」と日奈子ちゃんは言った。



白崎は、どこかのタイミングで、今の状況を上村に報告しようと思った。


だが、あれ?そう言えば、まだ昨日の話もしていないし、あいつ今日、大学にも来てなかったよな。何してんだろ?と白崎は思った。


だが、白崎の頭の中では上村のことなんてすぐに切り替わり、今のこの状況に胸の高鳴りが抑えきれずにいた。


停めていたクロスバイクを迎えにいき、ハンドル部分を手押ししながら歩いて、

横にいる日奈子ちゃんを見ると、

白崎は、「俺の人生、始まった」と思ったのだった。




続きます。


読んでいただき、ありがとうございました。

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