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①白崎海斗


誤字脱字などがあれば、教えてもらえると助かります。

次作のモチベーションの為、評価をして頂けると嬉しいです。




主な登場人物


1、白崎海斗

2、上村信人

3、坂下日奈子

4、梅原美咲

5、古瀬康太

6、沼田圭

7、ある男





「届け先が違う...?...いや、これは...」



白崎海斗の背中には食事を配達する為に細工された、高さ50センチ程度もある長方形型の黒いリュックがあり、さらにその中には、もう既に冷えてしまっただろうと思われる中華セットがあった。



白崎はクロスバイクにまたがりながら、スマホ画面を覗き込み、右手を使い、何度も画面を拡大したり、縮小したりを繰り返していた。

確かにここが届け先で間違いはないようだ。



だが、目の前にある指定された届け先を見ると、そこは横に車2台が駐車できるぐらいの幅しかない、小さな空き地だった。


だが、実際には車も止める事ができないほど、白崎の腰辺りまでに雑草が生え、一目でなんの手入れもされていない事がわかる、鬱蒼とした不気味さを感じる空き地であった。


道路際、雑草の中に埋もれるようにして「売土地、関係者以外立ち入り禁止」と書かかれた古い看板が今にも倒れそうな角度で立っていた。


その看板には肝心の名前箇所が消えた「○○不動〇」という文字が書いてある。


「それじゃどこの不動産かわかんねえじゃねぇか、それに誰が好んでこんな狭い土地を買うかよ」と白崎は心の中でそんな事を思った。



白崎はこの状況に苛立ちを込めた、ため息を吐き出し、「どういうことだよ。ふざけんな」と今度は口に出して言った。




「フーデリヤに登録して、働こう!」



今、大学生の間で流行っているバイトと言えば、個人配達サービスのフーデリヤである。


誰でも登録ができ、時間に縛られずに仕事ができ、人間関係のストレスもない。嫌ならバックレる事だってできる。

フーデリヤは昨今の流行りであり、今なら配達員に入ってくる配達料の単価も高かった。


それに報酬は歩合で、頑張れば、頑張った分だけ返ってくる。

そんなミッションをこなすゲーム感覚が人気の要因の一つで、特に体力の余る若い男性の中で人気のアルバイトであった。



フーデリヤのバイトをしている人は、白崎海斗が今年入学した大学の学生の中にも沢山いた。

白崎自身もサークルの先輩に勧められ、働き出したのだ。


はじめる前、世の中そんなにフードデリバリーの需要があるのかと半信半疑ではあったが、

比較的オフィス街も近くにある大学の近郊ではよく利用されていたし、

フーデリヤの方も、新規と固定客の獲得の為に期間限定クーポンをどんどん配布したりして、精力的な事業展開をしていた。

そして、利用者は人が利用しているなら、自分も利用してみたくなる集団心理のおかげで、フードデリバリーの需要はどんどん拡大していた。




白崎海斗はこのバイトを始めてから、もう少しで2ケ月目だった。

売り上げは月数万程度だったが、実家からの多少の仕送りをも含めれば、十分な額であった。


無理言って一人暮らしを始めたのだから、自分でも少しは稼がないといけない。

白崎はそんな思いでクロスバイクのペダルを漕いでいた。

なぜなら、実家は隣の市にあり、実家からでも大学に通えない距離ではなかったからだ。




お昼前に、白崎は大学からほど近い大きな公園の道路沿いで待機し、ここ数日で多くの注文が届いていた中華屋の前にいた。


白崎は暇さえあればツイッターをし、「今日働き出して1時間ちょっとで5件の配達完了」と先程ツイートをしていた。


ツイートをした後すぐに、新しい注文の連絡が来た。



中華屋の店内に入ると、またお前かという顔を店員にされながらも、商品を受け取り、店の外で自腹で購入した配達専用リュックの中に入れた。


そして、アプリで配達先を今一度確認すると、届け先はここから自転車で6分程度の距離にある、住宅街の中だった。


以前にもその住宅街の住人から注文が届き、中華屋の弁当を届けた事があった。

だから行く道は把握している。


白崎は中古で購入したが、もうすっかりと身体に馴染んだクロスバイクで配達に向かった。



だが、今回はすんなりとはいかなかった。




相変わらず白崎は空き地の前に立っていた。


こんな悪戯はフーデリヤのバイトをはじめてから初の事だった。


歩合性だから1回でもこういったつまずきがあると、後に支障が出る。



早く終わらせる為にも注文者に電話するしかない。

しかし、電話をするのは億劫な気持ちがあった。こんな事をする奴だ、変なトラブルに巻き込まれる可能性もある。


だが、電話するしか他になかった。



呼び出し音が鳴る。



「プルプルプル」


そのまま10秒が経過した。


「プルプルプル」



それ以降も注文者が電話に出る様子がない為、一度電話を切ると、白崎は画面に向かって暴言を吐き、

「お届け先が間違っているようですが」とテキストでメッセージを入れておいた。



今いる場所は住宅地でも高級住宅街であり、周りを見渡すと高い塀がある家ばかりで、擦り傷の多いクロスバイクの横を通り過ぎる車は、やけに光沢の強い高級車ばかりだった。



しばらくの間、空き地の前で留まっていると、パラパラと雨が降って来たのがわかった。


今日の天気予報では午後から雨であった。しかし、雨の日の方が競争相手が少なく、売り上げがいい。そんな事もわかっていたので白崎は今日働いていたのだ。


小雨の中、もう少し待っていても返信が来ない。



白崎はスマホで検索をし、企業の規定通り、一時間以上経っても注文者の受け取り、連絡がつかない場合は自動キャンセル扱いになるという事に期待し、先程いた公園に戻る事にした。


戻る途中、白崎はこの注文者の名前を覚えようとしたが、でたらめの英数字で設定された名前は覚えられそうにはなかった。




白崎は公園に戻ると、仕事の効率が悪い事に苛立ち、「マジでくそ」と何度も口にした。


そして、今回の注文が自動キャンセル扱いになると、誰もいない雨降りの公園の東屋で、冷えた中華日替わりセットを食べ出した。見知らぬ人からのおごりだ。


特性にんにくのから揚げは冷えてても美味かった。



白崎はから揚げを咀嚼しながら、この公園は以前と比べて随分と静かになっているんだろうなと思った。



あれっ?あの日は何日前だっけ?あの茂みからまた顔を出さないかな?

と白崎が思ったタイミングで、ポケットにしまっていたスマホが振動した。



白崎は持っていた箸を弁当の上に置き、スマホの画面と見ると、フーデリヤのアプリが表示されおり、どうやら注文相手から連絡が来たようだった。



白崎はアプリで取引画面を見た。


「まだですか?」とメッセージが来ていた。



白崎は「はぁ?」と言ってから、電話はせずにマニュアルをコピペしたテキストを再び相手に送った。


「注文は無効になり、料金の支払いは注文者様の口座から引き落とされます」



その後、注文者からの返信はなかった。


白崎は弁当を食べ終わると、公園の自動販売機売り場の缶専用のゴミ箱の上に、ビニール袋に包んだ空の容器を置いた。




その日の数日後、大学の仲間からフーデリヤのバイトをしている人に起こった、ある嫌な話を聞くことになった。



フーデリヤについてのその話をしてくれたのは、大学の同期であり、同じサークルに所属している上村信人だった。

というか白崎にとって、上村とはもともと同じ中学の同級生で、古い友人であった。



「なぁ、白崎、聞いたか?」と夜のバス停のベンチに座る上村が聞いてきた


「何を?」


大学の外では人の姿はまばらであるが、若者の奇声がどこからともなく断続的に聞こえていた。


「フーデリヤで未遂の事件があったって」


「未遂?なんの?」


「ここからすぐ近くの場所で美咲さんが配達してた時に、商品を渡そうとしたところで、配達を頼んだ男に腕を掴まれ、部屋に引きずり込まれそうになったらしいぞ」


「えっ、何それ?美咲さん大丈夫なの?」



その腕を掴まれた人物の名は、梅原美咲という女性で、白崎と上村の一個上の先輩で、サークルでは副部長の立場の人だった。



「うん。怪我とかは何もないって」


「美咲さんが被害に会ったの?...こわっ」


「だろ?怖いよな。お前も気をつけろよ」


「俺は男だから大丈夫だろ。てか、どの辺り?」


「○○番地、近くにコンビニがあるところ」と上村は言った。


白崎も以前、その辺りに配達した事があった。


「うっそ、ホラーじゃん」


「ホラーだよ。怖いよな」


「警察は?」


「警察には行ってないみたい。面倒な事に巻き込まれそうだからって。で、美咲さんはフーデリヤはもうやらないみたい」


「そっか、けど、まぁそうなるよな」と白崎は言い、

「ところで話変わるけどさ、また野良猫がいそうな公園とか見つかった?」



「...本当、話変わったな、お前薄情だな」と上村は笑い、

「知らないよ。そもそもこのご時世、野良猫はそんなにいないだろ。そんな場所、どこかにあったらいいけど」



白崎と上村が大学入学後に所属したサークルは、「なんでもサークル」というふざけた名前で、その名の通り、何でもやる、やってみるというのが部の姿勢であった。


サークルの部員数は全員で15~25人近くいるみたいだったが、幽霊部員も多い為、全員が一堂に会する事はなかった。


そして、活動実態は、カラオケ、コスプレ、ゲーム、川の清掃などと一貫性はなく、ただ何かのサークルに所属してみたいという物好きがワイワイやりたいが為のサークルだった。


だが、そんなふざけたサークルでも、白崎と上村が入部してから初めての活動が、公園での野良猫の保護であった。

数日掛けて数を調べ、写真を撮り、動物愛護団体に連絡を入れるだけの事だったが、団体からの感謝に、白崎は心が高ぶり、自尊心を得た快感があったのだ。



「じゃあ、他に何する?」


「まぁ、なんか役に立つ事でいいんじゃね?」と興味なさそうに上村はスマホを構いながら言った。


そして、会話が一度途切れた。



白崎もスマホで自分のツイッターアカウントを開き、勢いよく下へとスクロールをし、

ある所で親指を止めた。



「野良猫の子猫、保護しました」と写真付き、


いいね 287 リツイート 19



それが白崎の最高いいね数とリツイート数であった。



「日奈子ちゃんとの連絡か?」と上村が言ってきた。



白崎はスマホの画面から目を離し、上村の視界からスマホが見えないように傾け、


「いや、違う」と言った。


「早くしないと他の男に取られちゃうぞ。日奈子ちゃんは可愛いんだから。この大学にも狙ってる男はごまんといるぞ。この前声掛けられているところ見たし」


「マジ?」


「マジ」



白崎は今度、メッセージアプリを開き、昨日、日奈子ちゃん宛に送ったメッセージの返信が着ていないかと確認をしたが、まだ返信はなかった。



「あんな可愛い子が同じサークルにいるのは幸運なんだから、簡単に逃すなよ。それと俺に感謝しろよ。俺が勧誘したんだから」と言ってから上村は立ち上がり、「ちょっと用事があるから、またな」とこの場を去って行った。



どうせ女のところだ。上村は中学の時から根っからの女好きだった。



一人になった白崎は、猫を保護している時の坂下日奈子の姿を思い出した。


日奈子ちゃんは猫が好きで、大ノ森公園で野良猫を見つけたのも日奈子ちゃんであった。


「大ノ森公園の近くに住んでいるから見つけたの」


そんな言葉が頭を過ると、ピコーンとスマホが鳴り、


画面を見ると、タイミングよく日奈子ちゃんからの返信がきていた。



すると、バスのライトが遠くの方で見えた。


白崎は乗客と間違われないようにバス停から離れてから、メッセージの内容を確認した。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

誤字脱字などがあれば、教えてもらえると嬉しいです。


少しでも興味を持った方、面白そうと思った方、評価をしていただけると励みになります。



それは以降は短いと思います。話は19話まで予定しております。


ありがとうございました。

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