時給12万円
このグループの解散が告げられたのは、参加から一年後であった。
解散の日に至るまで、ついにこのグループが何をする集まりなのかはわからなかった。
始まりはアルバイト雑誌の人材募集記事だった。
様々な業種の記事に紛れて、その記事はあった。募集内容にあまり変わったことは書いていなかった。「初心者でも簡単に出来る仕事です」とは書いてあったが、肝心の仕事内容はよくわからなかった。気になったのはその金額の大きさだった。他の雑多ある募集記事では時給700円〜800円程度、たまに辛い仕事で1000円などがあったが、その記事だけは違った。時給1200百円と書いてあった。1200百円、即ち12万円である。
当然ただのミスだと思ったし、時給を12万円も貰う気はなかったが、間違いだとしても時給1200円は魅力的だ。貧しいフリーターの自分にピッタリである。深く考えず、その記事に記載されている電話番号に電話をかけた。そのときからおかしな日常が始まった。
電話口で採用を告げられ、次の日に指定された場所へ行くとベンツがあった。指定された近くの植え込みの土を少し掘り返すと、キーが出てきた。そして、2時間ほどベンツを乗り回した。街中をベンツで走り回るのは気分が良かったが、なんとなく居心地の悪い薄気味悪さも感じた。一体自分は何をやっているのだろう。漠然とした不安にかられる。2時間後、電話がかかってきた。ベンツを元の場所に停め、キーを埋めると仕事は終わった。
そして、ATMを確認すると24万円が振り込まれていた。
何度確認しても24万円だ。慌ててベンツを置いてきた場所に戻ると、ベンツは陰も形も無くなっていた。もちろんキーもない。
それからも大体週に一度、非通知で電話がかかってくる。指定された場所へ行き、指定された作業を行う。どれもこれも大抵、何の意味も持たないような作業であった。マラソンを行う、散髪をする、カレーを食べるというときもあった。また、銀行強盗をわざと失敗して懲役2週間を受けてこいという仕事もあった。そのときは刑務所で過ごした24時間分の時給が振り込まれていて、大変に驚いた。
数週間して、どうやら自分の他にも何人か雇われている人がいることがわかった。複数人で畑を耕したり、草サッカーをしたりするという仕事のときもあった。大勢で仕事をするときは、知人を探したり、雇い主の情報を調査したりしたが、何の情報も出てこなかった。
そして1年ほど経ったある日、電話で解散が告げられた。
せっかくの高額の仕事だったが、やっと解放されたという意味では嬉しかった。やはり作業内容と金額が釣り合わないと思ったし、薄気味悪い気分は拭えなかったからだ。
それにしてもこの一年間は一体何だったのだろうか。
「経済においてお金とは、人間にとっての血液のようなものだ。
出来るだけ循環させることが、景気対策につながるのである。
そこで景気対策として、多額の金を民間に配るという法案を秘密裏に通した。
そろそろ結果が出てもいい頃だ。」