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一夜市に到着したのは夕方だった。
SLは水蒸気と煙をあげて去っていった。
僕はなんで死のうなんて思っていたんだっけかな。きっとつまらないことが積み重なって一時的にそんな状態になったんだろう。今はSLの旅の興奮が冷めやらず、生きる希望に満ちていた。またいつか死のうなんて思うこともきっとあるだろうが、前より早く、いいこともあるんだ、って立ち直れると思う。
問題は、50年過去に来てしまっていることなんだけど、きっと解決策があるはずだと思って一夜市に戻ってきた。
「お母さん、明日のお祭り楽しみだねぇ」
はっとして、声の主を見る。昨日到着したときにお面を頭にのせていた男の子じゃないかな?!しかも、『明日のお祭り』って言ってる。
僕は胸がドキドキした。
駅舎にはもう駅員さんはいなかった。雨風を凌ぐために駅舎で泊めてもらおうと思った。木のベンチに横になり、まんじりともせず、朝を待った。
闇は優しく僕を包んだ。
「間に合ったわ」
昨日の夢の続きを見た。
妙齢の女性がタイム・マシンを完成させて、50年後から病気の母の病の特効薬を入手して戻ってきた。
「シン。あなたがいたおかげで質量を人間一人分過去と未来に置き換えられたの。本当に感謝するわ」
「僕はもとの時間に戻れるのかな?」
「ええ!もちろん」
「今度買うのは片道切符でいいんだね?」
「そうよ。」
「一夜市は50年に一夜だけのままかな?」
「いいえ。でも、おとぎ話の中ではそうなるでしょうね。あなたのよく知ってる娘が小説にするわ」
「僕のよく知ってる娘?」
「彼女もすごい冒険をしたの。詳しくは彼女から聞くといいわ」
「その娘と会えるの?」
「ええ。さあ、行って!元の時間の続きに」
「ありがとう」
目が覚めると朝だった。始発はまだ時間があったけれど列車は停まっていたので、僕は乗車した。
「シン!」
まどかだった。
「ごめんなさい!ごめんなさい。置いて行ってごめんなさい!」
「大丈夫。みんな上手くおさまったから」
「本当?」
「ちょっと不思議な体験したけど、まどかもだろう?話聞かせて」
「うん」
まどかはお祭りでもらった金魚の袋を2つ下げていた。
「それもってかえるの?」
「生きてるんだもの。大事に飼うわよ」
僕は駅員さんが来るのを待って古い小さなバケツを譲ってもらい、水と金魚を入れた。
「ありがとう」
まどかが嬉しそうに言った。
「あのね…」
まどかの体験した不思議な長い話が始まった…。