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僕は夢を見た。やけに鮮明で、細部がはっきりしている夢だった。
妙齢の女性が白衣姿で設計図をひいては紙を破りひいては破りを繰り返している。
「上手くいかないんですか?」
そう声をかけると、彼女ははっとして僕に気づいた。
「あなた!だめじゃない!こんなところへきてはだめ!」
「ここどこですか?」
「…。なぜここへ来れたの?」
「列車に乗って一夜市に来たんですが、高校で授業を受けたあと女の子とお祭りに行って、そこで眠り込んじゃって、…気づいたらここです。多分、夢の中」
女性は合点がいったようだった。
「早く目を覚まして朝出発の列車に乗りなさい」
「わかりました」
「…ちょっと待って!」
「?」
「切符は必ず『往復分』買うこと!」
「なぜ?」
「必要だからよ!さあ、行って!」
「???」
クエスチョンマークだらけのまま、僕は目覚めた。
「まどか?」
彼女はいなかった。胸ポケットがカサカサいうので手を突っ込むと紙切れが入っていた。
『列車の時刻に間に合わないので先に行きます。置いて行きたくないけれど、しかたがないの。ごめんなさい』
まどかからだった。
今、何時だ?!
辺りは明るくなっていた。遠くで列車の始発が出る合図の汽笛が鳴った。
僕は神社の大木に寄りかかり、はるか下方を列車が走ってゆくのを見送った。
僕は乗り遅れたのだ!
昨夜のお祭りの名残りがそこかしこにあったが、僕は沈んだ気持ちでゆっくり石段を降りてゆき、一夜市の中を歩いた。
誰にも出くわさなかった。
足は自然と駅に向かった。
「あれっ!?」
駅員さんが打ち水していた。まさか誰かがいるなんて思っても見なかったので、大急ぎで駆け寄り、早口で列車に乗り遅れたことを告げた。
「?…。列車なら通常運行がきますよ」
「夜に?」
「いいえ、昼間に」
「えっ?」
僕は、その駅員さんに50年に一夜しか現れない場所に来てしまったこと、タイム・マシンを開発しようとして失敗した誰かのせいで一夜市がそうなってしまったこと、寝過ごして列車に乗り遅れたことをかいつまんで話した。
「不思議な話ですね。でも、ならなんであなたはわざわざそんな場所へ来たんですか?」
「自暴自棄になってたんですよ!でも、今、後悔してる!」
駅員さんは否定的なことはほとんど言わずに僕の相手をしてくれた。
「乗ってみます?昼間の列車に」
「そう…ですね。できるのであれば!」
「どこまで?」
「零輪駅まで」
「れいわえき、っと。片道?往復?」
「えっ?」
ふいに夢で言われたことを思い出した。
「『往復分』」
「ひとよしとれいわの往復。はいどうぞ」
お金を払って、ちょっとキツネにつままれたような気分でいたが、やがて快速列車が来たので、それに僕は乗った。