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木造の校舎に灯りがともっていた。
「一夜市高等学校」
門にしつらえた表札を見る。
キンコンカンコンー
僕は思わずびくっとした。
夜の静けさの中で鳴り響くチャイムの音。
「あんた、初めて見る顔だね?一夜市の歴史の授業をうけていきんさい」
用務員さんが、そう言って勧めてくれた。
「この高校は夜間もやってるでよ」
「さいですか…」
校舎の二階に上がる。
教室にはちらほら老若男女がいる。僕は窓際の席に座った。
「お祭りには行かないの?」
僕と年の頃が変わらない女の子がいて、そう聞いた。
「一人で行っても寂しいだけだし…」
「じゃあ、私と行こうよ!授業の後で」
「う、うん」
おしきられてしまった。
う、おほん。
咳をする音がして、みんな先生がやってきたのを知った。思い思いの席について、授業を受ける。
先生は男爵ヒゲを生やして、髪はオールバック。整髪料でテカテカしている。
なんていうのかな?楕円形の象嵌細工に紐を通したものを首に下げてる。白いシャツは清潔感たっぷりで、伊達男だった。
今どきこんな人いるんだなぁ。
「えー、おほん。一夜市は一夜限りしか現世に存在しないとされているが、実は昔の発明家がタイム・マシンを造ろうとして失敗したことから、時間の流れが違っているだけで実際には現世に存在している。現世と時の速さが一致するその周期が50年である」
「じゃあ、明日の朝、列車に間に合わなかった場合どうなるのですか?」
「一夜市の外界と時間のずれが生じる」
「具体的には?」
「残念ながらその答えは知らんよ」
僕はどうしようか、と思った。
車掌さんには朝までに戻ると言ってはいたものの、実は自信がないんだ。
死に場所を捜していて、それでも生きる希望を失いたくなくて、僕はここへ来た。
50年。戻ったら何もかも変わったあとかもしれない。
だけどここでも僕は上手くやっていけるんだろうか?
「深刻な顔してないで、お祭り、行こうよ!」
女の子が僕の右手を引っ張った。
提灯がいっぱい連なっている神社の境内でお祭りがあっていた。
「名前、なんていうの?」
「シン。君は?」
「まどか」
女の子はくすくす笑っていたので、僕もちょっとだけ気持ちが楽になった。
出店で射的や金魚すくいをやり、イカ焼きとかたこ焼きを頬張った。
お祭りなんて何年ぶりだろう?
僕は楽しくて幸せな気持ちになった。
「冷やし飴飲む?」
とろりと澱が入った飲み物は適度に甘かった。
不意に睡魔が襲ってきた。
「ここで寝ちゃだめ!」
まどかの声を聞きながら、大木の根元でぐったりと眠り込んでしまった。