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一夜市は山間に50年に一夜だけ現れる幻の市だ。
僕は各駅停車のローカル線の列車に乗って、一夜市を目指した。
山紫水明。なんて景色だろう?エメラルドに輝く河沿いに線路は続く。
朝出発したのにだんだん夕暮れが近づいてきた。
「えー、ご乗車ありがとうございます。次は終点一生地」
え?
「あー、失礼いたしました。今夜限り一生地の次の駅が終点になります。お客様、その駅はタイミングを逃すと次は50年経ってからしか現れません。ご注意ください」
車掌さんがそう言って車内放送を切った。
ほどなくして、切符の確認にやってくる。
「切符を拝見」
「はい。一夜市までだよ」
「お客様は、朝までにお戻りになられますか?」
「ええ。そのつもりです」
車掌さんが明らかにほっとした表情を浮かべる。
「昔、現実逃避であの場所にとどまって、50年あとに後悔されていた方がいたと聞きます。くれぐれもよくお考えになってお決めください」
「わかりました」
いっしょうちー、いっしょうちー。
一つ前の駅にとまる。
乗客のほとんどがここで降りる。
車内はがらがらだ。
ひとよしー、ひとよしー。
さあ、降りよう。
終点の駅に降り立つと、夜が始まっていた。
「今夜は祭りだよ!」
お面を頭の上に乗せた子どもがそう言いながら、かけていった。
かすかに笛と太鼓の音が聞こえた。