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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第3章:孤高の猫編
43/47

第43話.勝負するわよ!

 




 ――――何を焦っているんだアタシは。


 いや、ムキになっている? 


 違う。悔しいんだ。



 今までアタシは自分の力だけでのし上がって来たし、そのためには努力と研鑽を惜しまなかった。


 そしてやっと最近金章になることができた。


 その評価はアタシ自身がアタシだけの力で勝ち取ったもの。


 なのに、なんなのアイツら!



 暢気な顔をして、あっという間に銀章?


 ありえない! でも話を聞けばオルフェオンで噂になるほどの実力者。


 ギルドマスターすら公認なのであれば、疑いようはない。


 なにより、この目で見たのだ。彼らの実力を。



 だから、認められない。


 アタシは血の滲むような思いでやっとここまで来た。


 それをあんなぽっと出に、ホイホイと抜かされるなんて我慢がならない。


 才能? ふざけないで。努力に勝るものなんかあってたまるもんですか。


 怠惰な天才より努力した凡人の方が賞賛されるべきよ。


 アタシは必ず白金章になる。あの人と同じ場所に立つ。


 だから、軽々しく追い抜かされてやるわけにはいかないのよ!



 見てなさい。アタシの方が実力が上だという事を、アンタたちを利用してシーカーズギルドに教えてあげるわ。





 ♢





 レーン達が〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉を倒した翌日の昼過ぎ、ミンシャに指定された時間通りにレーン達はシーカーズギルドにやって来た。


 ギルドに入ると、腰に手を当てたミンシャが一行を待っていた。



「ようやく来たわね」



 ミンシャはにやりと笑って一行をテーブルに案内する。テーブルには軽い昼食が用意されている。出発前の腹ごなしも兼ねているらしい。


 レーン達はとりあえず言われるままに席に着いた。



「じゃ、さっそくだけど、アタシたちがこれから受けるクエストを教えるわ」



 そう言ってミンシャは一枚の依頼書をテーブルに広げる。


 内容は、境界森林の先にある沼地のさらに奥、大渓谷に住まう〈魔棘蟻(アトリオン)〉の討伐クエスト。


 〈魔棘蟻(アトリオン)〉自体の危険度は銀章クラス。大きな牙の破壊力もさることながら発射してくる酸性の体液も油断ならない。が、数さえいなければ大したことはない。数が最大の脅威なのだ。


 どんな無理難題なクエストに連れていかれるのかと覚悟していたレーン達は、思ったより良心的なクエストで安心する。


 しかし、レーンはクエストを見てすぐ手帳と示し合わせ、やや怪訝な顔。



「スポンサーはベルベチカ王国の武具商人。質のいい〈魔棘蟻(アトリオン)〉の甲殻を欲してる。どれだけ集められたかで勝負しましょう」


「あっ、と……ミンシャさん、質問なんですけど、〈魔棘蟻(アトリオン)〉の女王と遭遇する可能性もあると思うんですけど」



 レーンは手帳に書かれた〈魔棘蟻(アトリオン)〉の生態の項を見て、女王の存在を気にしたのだ。


 レーンの言葉を聞いてミンシャは驚いた顔をする。



「よく知ってるわね」



 一般的に〈魔棘蟻(アトリオン)〉と呼ばれる魔物は食料の調達と外敵を排する役目を持つ兵隊である〈魔棘女中蟻(アトリオン・メイダス)〉を指すモノである。


 その女王たる〈魔棘女王蟻(アトリオン・クイーネ)〉は、ただでさえ成人男性ほどもある巨大な〈魔棘蟻(アトリオン)〉の兵隊よりも体躯は二回り程大きく、強靭。


 危険度も上がり、単体で金章クラスのランクを持つ魔物だ。


 普段は巣穴である洞窟の奥から出てこないはずなのだが、繁殖期となる季節によっては気性が荒くなり、自ら巣穴の外に出て獲物を探すという。そしてその繁殖期とされる季節がちょうど今の気候と合致するために、レーンは女王との遭遇を危惧したのだ。


 しかしミンシャは鼻で笑う。



「なに、不安? 仮に女王に遭遇してもアタシが倒してやるわよ。女王一匹くらい、なんてことないわ」



 ミンシャの言葉にレーンは一応カルナの様子を見るが、彼女はやはり関心がないようにテーブルに置かれたバスケットからパンや肉を手に取り楽しそうに食事をしている。



「じゃ頼りにさせてもらうぜ」



 ラドは椅子に深く腰掛けながらさらっと言った。


 ミンシャが一瞬その態度にムッとした視線を向けるがラドはどこ吹く風。



「……まあいいわ。一応今回のクエストは全員で一つを受ける形。アタシと一時的に仮パーティを組んでもらう」


「えっ! いいんですか?」



 レーンがキラキラした顔で言う。



「一時的! 仮! 同じクエストを受けるにはパーティで申請しないといけないから仕方なくよ! 基本は勝負なんだから、協力じゃなくて競争する気でいなさいな!」


「は、はい」



 まくしたてるようなミンシャの剣幕にレーンは委縮してしまう。


 そんな様子を見かねてなのかどうなのか、カルナがレーンの頬をつつくと、パンに肉を乗せ、挟んだものを差し出した。



「レーン、口を開けたまえ。おいしいよ」


「えっ、あっ? むぐ」



 言われるがままというか反射的にレーンは差し出されたサンドに口を開ける。カルナがそこにサンドを押し込み、レーンは頬張る形となる。


 口いっぱいに押し込まれたサンドを必死に咀嚼するレーンを見て、カルナは満足げに笑う。


 その光景はいわゆるあ~ん、というもの以外何物でもなく、ミンシャは目の前でノロケられて顔を真っ赤にする。



「こらそこ! イチャイチャしないの! 話を聞きなさい!」



 びしっとカルナを指さすミンシャに、もぐもぐと困った顔でサンドを咀嚼するレーンをにこにこ眺めていたカルナは怪訝な顔をした。



「うるさいなキミは、食事中だぞ」


「いやちょっと! 食事はいいんだけどクエストの話を聞きなさいよ! アンタさっきから食べてばっかりじゃない!」


「食事は楽しいものだからね」


「否定はしないわよ! でももう少しやる気見せなさいよ! あんた自由過ぎない!?」


「案ずるなよ。ちゃんと話は聞いているさ。ほらレーン、口」



 カルナはそう言うと、レーンの口に付いたパンくずをナプキンでふき取る。


 レーンは流石に顔を動かし口を拭いてもらうなどという行為を恥ずかしさから回避しようとするが、カルナに片手で頭を押さえられ、まんまと口を拭われた。


 レーンは顔を真っ赤にしつつも逆らえそうにないのでがっくり項垂れ諦めた。


 それを見るミンシャと、ラドもまたレーンをじとりと睨んでいる。


 レーンはもぐもぐしながら首を振り、自分は悪くないと訴える。



「っていうかアンタ、シーカーじゃないんでしょ? なんなのよアンタは」


「吾輩はレーンの使い魔だと言っただろう」


「モヤシの使い魔だとか本気で言ってるわけ?」


「本気も何もない。事実として吾輩はここにいる。それだけだよ」



 カルナはとろりとしたチーズと一緒にハムを食べた後、指に付いたチーズをぺろりと舐め……一転して冷たい声色で言った。



「それと、だ。いい加減我が主への無礼な口は慎みたまえよ、野良猫め」



 急にカルナが表情を柔らかなものから一変させる。その表情は恐ろしく冷たく、赤い瞳は今にもミンシャを射殺さんばかり。さしものミンシャも心臓を縫い止められたように息を止めたじろぐ。



「うっ……」


「か、カルナ! 僕は気にしてないから、ねっ!」



 レーンがその様子に慌ててカルナを制止する。ミンシャはカルナの視線に耳をぺたりと寝かせてしまっていた。



「……レーンがそう言うなら吾輩は何も言わんよ」



 そう言いながらすっと威圧感を放つのをやめたカルナは、また何食わぬ顔で食事を始めた。


 レーンとミンシャは同時に息を深く吐く。



(なんなのよ今の迫力……ヤバい魔物相手だってこんなの感じたことないのに……ありえないんですけど……!)



 息を整えながら恐る恐る食事に戻ったカルナを見やる。


 ミンシャとしてはやはりカルナが一番正体不明な存在であった。その強さは一瞬垣間見たが、彼女がレーンの使い魔だというのであれば、それも含めてレーンの実力という事である。


 ならば、ひっくるめて越えなくては実力を示したとは言えないだろう。ミンシャはカルナを見ながらふつふつとやる気を滾らせる。



「ま、まあいいわ。じゃあ食事を終えたら出発するわよ。前もって言っておいた通り、日帰りとはいかないから準備は念入りにしてあるわよね?」



 ミンシャの言葉にレーンとラドは頷く。


 ある程度の旅支度と食料は準備してきた。初の遠征ということになるので、レーンとラド、そしてカルナはそこそこ浮かれていた。



「なんでちょっと楽しそうなのよ」


「そりゃ楽しみですよ! 未だに言ったことのない場所に行くんですから」


「なるほど。根っからの冒険者ってわけね。気楽なことだわ」



 わくわくに胸を躍らせるレーン達に、ミンシャは呆れた。


 まるでなっちゃいない。これからするのは勝負以前に仕事であり、死の危険すらあるという事。


 そして弱い者は強い者に倒され、食われる、弱肉強食の大地に挑むというのに。


 そんなことをミンシャは思う。



 しかして実際レーン達は浮かれこそしていたが、緊張感はしっかりと持っている。


 ミンシャの思う仕事に対する緊張もある。ただそれでもそれを表に出さず、楽しげでいられるのは信頼する仲間がいるからだという事に、ミンシャは気づけなかった。


 やがて各々が席を立ち、荷物を背負うと頷きあう。



「じゃ、行くわよ。〈魔棘蟻(アトリオン)〉の生息する大渓谷までの道のりはアタシが案内するわ」


「頼りにしてます。やっぱり経験の多いシーカーがいると安心しますね」



 レーンは父の手記こそあったが、やはり実際に見て歩いた経験がある人間が仲間にいると心強いものだ。


 こんなことを言ったらまたミンシャに怒られそうではあるが。



「ふん! 大分歩くから、疲れたらすぐに言う事! 勝負前に倒れられたら意味がないから」


「へいへい」



 ラドの生返事に眉根を寄せるミンシャを先頭にして、一行はオルフェオンを発った。


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