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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第3章:孤高の猫編
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第42話.まだ認めない!

 





 大きな音を立てて倒れこむ、頭を失った〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉。


 一撃で頭部を消し飛ばされ、物言わぬ亡骸となって地に付す。


 それをしたのは昨夜自身をレーンの使い魔だと豪語したすまし顔の女、カルナ。


 彼女がなぜここにいるのかという疑問すら通り越して、彼女が何をしたのかにこそ驚きと疑念が浮かんだ。


 ミンシャの動体視力は、カルナが驚くほどあっさりと〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉の顎下に滑り込むと、その片腕を伸ばし、仄暗い輝きを纏う掌をその顎に添えた。


 ただそれだけだ。彼女の手のひらに輝いていた黒い光が〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉の顎に吸い込まれていったと思ったら、次の瞬間にはその頭が弾けていた。



(え……? 何今の……魔術……? いやいや、無い無い。あんなふうに金章クラスの魔物を木っ端みじんにできるわけが……)



 硬直しているミンシャを他所に、〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉に背を向けて、レーンの元へ駆けていくカルナ。


 それに気づいたレーンはカルナを笑顔で迎えた。



「ありがとうカルナ、大物を任せちゃったね」


「この程度造作もないさ。金章クラスというにはいささか軟弱だった。レーンの方は怪我はないかい?」


「うん。大丈夫。〈蛙貴人(ロイヤルトード)〉に集中できたから、カルナのおかげだよ」



 いや、いやいや。〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉を単騎で倒した? 一撃で? 状況と話を聞くにそうとしか聞こえない。


 それを為したことをレーンがさらっと褒めるのも、使いを誉められた子供のようにちょっと嬉しそうに笑うカルナもおかしいが、その周囲の状況もおかしかった。



「うし、逃げようとした奴は倒してきたぜ。これで全部片づけたな。今回は昨日より楽だったぜ!」



 ラドが剣を肩に担いで二人の所にやってきて笑う。


 その周囲には、夥しい数の〈蛙貴人(ロイヤルトード)〉の亡骸。すべてが倒されている。



「ふーっ、お疲れ。これでクエスト達成かな」



 笑いながらレーンは握っていた剣を鞘に納めた。



(いやモヤシあんた〈召喚士(サモナー)〉って言ってたわよね!? なんで剣使ってるのよ! いやそうじゃなくて、こいつら全部倒したの!? この数を二人で!? 息も荒げずに!?)



 実は今回レーンはラドのポジションをカバーする前衛として剣をメインで使い、魔術を補助的に使い戦っていた。


 前衛を増やすフォーメーションの模索でもあったが、もとより父に剣を教わり、ラドと鍛錬を欠かさず、最近も金章シーカーのレバンに稽古をつけてもらっていたレーンであるから、ラドの戦いにも合わせる事が出来たのだ。


 本来、ある程度の年齢を過ぎるとオラクルスフィアの見出した適正通りにだんだんと能力が特化していくものだから、本来魔術系ジョブに適性を持つものは反比例して剣などの武術系の能力が減退していく。


 しかし、レーンは剣を握ってもよく馴染んでいたし、戦えるレベルで扱えていた。本人は鍛錬の賜物だと喜んでいる。


 もっとも、そんな鍛錬など知る由もないミンシャには異様に映っただろう。


 レーン自身剣を使った戦いをメインとするのは今回初の試みであったからなおさらだ。



 と、そんな風に目をぐるぐるさせながら状況を見ていたミンシャに声がかかる。



「あれ、ミンシャさん?」


「にゃッ」



 素っ頓狂な声を上げるミンシャ。



「どうしたんですか? その、そんなポーズで……」



 猫目で硬直しているミンシャにレーンが不思議そうな顔をしていると、その後ろから顔を出したラドがミンシャを見て何かが浮かんだらしい。ああーと声を上げるとレーンの肩を小突き、ミンシャを見ながら言う。



「ひょっとしてアレじゃないかレーン。半端に助けようとして無用だったパターンじゃないかこれ」


「なッ」


「うん、今まさに駆け寄らんとしていたというのがありありと伝わってくるね」



 いつのまにかレーンの隣にいたカルナもふむふむと頷きながらミンシャをまじまじと見ている。


 ラドとカルナの言葉にミンシャは顔を真っ赤にする。


 焦ってレーンを見れば、二人の言葉に納得したのかミンシャを見て苦笑しているではないか。


 そう。急ぎ飛び出したミンシャは目の前で〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉の頭が吹き飛んだのを皮切りに、驚きでレーン達の様子に目が釘付けになり、飛び出した姿勢のまま硬直していたのだ。


 助けに入ったのに必要なかったせいで立ち往生。これ、ひょっとしてアタシめちゃくちゃかっこ悪いのでは。


 そんなことを思っていたミンシャであるから、今の構図がまさしくモヤシと揶揄したレーンと路地裏であった時の構図が、互いの状況を入れ替えただけで同じものであった事に気づき、顔から火が出そうな程ひどく赤面し顔を覆う。



「み、ミンシャさん!? 大丈夫ですか!?」


「やめて。ちょっとやめて見ないで。アタシ今見せられない顔してるからお願い」



 ミンシャはしばらく羞恥でその場に座り込み顔を覆っていた。




 レーン達はとりあえずミンシャをそっとしておき、討伐した魔物の一部を回収する作業を始めている。


 どうせ倒したならば使えそうな部位は素材として売るために回収すべきだと思い立っていたのだ。


 そんなこんなで回収作業をしているレーンとラド……そしてのんびり欠伸をしているカルナを見ながら、ミンシャはふつふつと頭の中に疑問符ばかりを浮かべていた。


 銀章シーカーとは思えぬ力。そしてギルドで聞いた彼らの偉業。


 ミンシャは自分でさえこの数の〈蛙貴人(ロイヤルトード)〉を相手にすれば息切れの一つもしようものだが、それすらないレーンとラドの様子がまるで理解できなかった。自分より強い? いや、それはない。ないはずだ。


 ソロであったミンシャにはレーンとラドのコンビネーションによる実力の増幅というものがまるで理解できなかったのだ。


 ミンシャは自分の中にあった常識が先ほどの〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉の頭のごとく木っ端みじんに砕け散るのを感じる。



(なんなのあいつら……そんなに実戦慣れしている感じじゃないのに。特にあのカルナっての。記章をつけてもいないのに……まさか本当に使い魔……? いや、使い魔だとしてもあんな力……)



 と、ミンシャがじろじろとカルナを見ていると、カルナがその視線に気づいたかミンシャと目が合う。


 カルナは少し考えるようなそぶりを見せた後、にやっと笑うと早歩きで解体作業中のレーンの元へ行き、その腕を抱き寄せる。


 レーンは顔を真っ赤にして困惑するがカルナはレーンの反応に満足すると、腕を抱いたままミンシャを見て笑うのだった。



(えっ何、意味わかんない)



 勝ち誇ったような顔のカルナの真意はつかめないが、あの表情を見ているとなぜか悔しい。


 これはいつまでもこうしていられないと謎に奮起したミンシャは、立ち上がるとずかずかと一行の元へ歩いていく。



「ちょっとモヤシ」


「え? もや……僕はレーンですって」


「いいから! それから木偶の坊! あんたも!」



 ラドは露骨に嫌そうな顔をしながら、渋々とやってくる。



「なんだよ」


「アンタたち大分やるみたいね。でもまだよ」


「なにが」


「認めてあげないって言ってるの!」


「は?」



 レーンは首を傾げ、ラドは大きなため息をついて首を横に振った。



「いや別にお前に認めてもらわんでいいし……っていうかお前何しに来たんだよ」



 ラドの言葉にミンシャは尻尾の毛を逆立てて言う。



「助けによ! た・す・け・に! 銀章のアンタたちが〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉討伐クエストなんて受けたって聞いたから心配で来たんじゃない! 無茶もいい所よ!」


「はあ」



 ラドは周囲に倒れる魔物の亡骸を見渡しながら適当に相槌を打つ。



「それで?」


「うぐ……だ、だから! なんか全部倒してたのは驚いたけど、まだまだなっちゃいないっての!」



 余計なお世話だと言わんばかりにラドはまたため息をつく。


 ひっついてくるカルナをゆっくり引きはがしながら、レーンはただただ乾いた笑いで見守るしかできない。このミンシャという者は何をそんなにぷりぷり怒っているのだろうか。


 と、ミンシャは意を決したようにびしっとレーン達を指さすと、高らかに言った。



「勝負よ」


「「え」」



 レーンとラドは同じく驚きの声。



「だから、勝負よ勝負! アタシ直々にアンタたちを見定めてあげる!」



 その言葉に一行は一瞬言葉を失った。ミンシャの言う勝負の意味が分からなかったのだ。



「いい? 明日、アタシが見繕ったクエストを受けてもらうわ。そのクエストでより功績を上げた方が勝ちよ。アンタたちと、アタシでね!」


「そんなことする意味あるんですか……?」


「あるわよ? もしうまく功績を上げられたら、アタシがアンタたちを評価してあげるわ。金章のお墨付きよ。シーカーとしては悪い話じゃないと思うけど」


「それはそうですけど」



 事実レーン達が銀章に上がるために、ギルドマスターであるスオウの口添えだけでなく、金章シーカーたるレバン達の評価による推薦もあったから、同じ金章シーカーであるミンシャが評価してくれるのは昇格に一躍買うだろう。



「足りないな」



 と、沈黙を守っていたカルナが突然声を上げた。


 そしてミンシャの前まで歩いていくと、にまりと笑って言い放つ。



「吾輩達がその勝負とやらに勝ったとして、その報酬がキミからの評価などとは笑わせる。キミ自身を報酬としたまえ」


「は!?」


「不服かね? 勝てばいいだけなのだろう?」



 ミンシャは自分の体を抱き、顔を赤くしてカルナを睨む。何を想像しているのか。カルナはカルナでにやにやと笑いながら得意げだ。


 多分、両者の間では食い違いが起きている、そんな気がする。


 しかし負けず嫌いなのか、ミンシャは吐き捨てるように叫ぶ。



「い、いいわ! やってやろうじゃない! 元よりアタシが仕掛けた勝負。アンタたちが勝ったら言うとおりにしようじゃない! でもアタシが勝ったら……勝ったら……」


「勝ったら?」


「と、とにかくアレなの! 後で教えてあげるわよ! アタシがアンタたちを見定めるのが重要なんだから! さあ、そうと決まればさっさと帰るわよ! 回収手伝ってあげるから!」



 そう言ってミンシャはどかどかと〈蛙貴人(ロイヤルトード)〉達の亡骸に向かうとてきぱきと使えそうな部位を回収し始める。


 横取りをするようなそぶりもないのでとりあえず黙って眺めていたレーン達だが、嵐のようなミンシャの一連の様子には呆気にとられた。



「あいつが勝った時の事、あいつ自身考えてなかったんじゃないかこれ」


「そう、かも?」


「なんであんなにグイグイ来るんだろうな」


「僕たち何かしたかな?」



 首をかしげるレーンとラドの隣で、カルナが再び欠伸をし始めた。


 ミンシャはそんな一行を放って、真っ赤な顔をしながらすごい勢いで素材を回収していくのだった。






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