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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第3章:孤高の猫編
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第40話.同居人

 




「はっはっはっははははは! はははは! ひー!」



 シーカーズギルドにラドの馬鹿笑いが響いている。


 同席しているレーンはテーブルに突っ伏してしょげ切っている。


 カルナはカルナで興味なさげにレーンが買ってきた買い物袋から果物をつまみ食いしていた。



 あの後レーン達はしばしの自由時間を終えてシーカーズギルドにて再集合していた。


 そしてしょんぼりしながら帰って来たレーンを出迎えたラドとカルナが何事かと問い、さっき路地裏で起きたことをレーンがぽつぽつと説明し今に至る。



 未だ笑い続けるラドにレーンがテーブルにしなだれた顔だけを向けて抗議。



「そんなに笑うなよぉ……これでも結構傷ついてるんだけど……」


「はははひー! いや、すまねえ! でもようだってよう、ぷくく」



 ラドは必死に口を押えて笑いをこらえようとするが、徒労に終わっている。



「だってよ、助けに入ったのに暴漢と間違われて蹴っ飛ばされかけたってお前よう! んくっ、くくくく」


「あ~~~~~~」



 ダメだこれは。レーンはどうにも笑いのツボに入ってしまっているらしいラドを無視して、再びゴツ、とテーブルに額を乗せてうなだれた。


 そして幾許。


 ようやっと落ち着いてきたラドがレーンの肩をゆする。



「いや笑った。悪い悪い。しかし災難だったな」


「ほんとだよ。僕は深く傷ついている」



 ラドをも睨みながら言うレーンにラドは肩をすくめた。



「しかし、その女は大分キレッキレだな」


「すごい〈格闘士(ファイター)〉だったよ。あっというまに男たちを倒してた。でも小馬鹿にされたぁあ~……」


「レーン、いい加減立ち直りたまえよ。男だろう。撫でてあげようか?」


「揶揄わないでくれ……」


「恥ずかしがるなよ。あの時は吾輩をあんなに力強く抱きしめてくれたのに」



 カルナがチェリーを口に運びながら笑う。レーンは顔を真っ赤にして椅子に座りなおした。


 そういえば〈偶像(イドロ)〉を倒した後、思わず彼女を抱きしめてしまったことを思い出す。あの時は達成感と感謝で思わずといった形だったが、そのまま疲労で有耶無耶になっていたから、思い出して恥ずかしくなりこそすれカルナと普段通りに過ごせていたのに。



「あ、あれは……! その、ごめん!」


「いいんだよ。嬉しかったからね」



 にこりと笑うカルナ。


 ラドの視線が冷ややかなものに変わるのを感じた。


 と、そんなやりとりをしているとぽてぽてとノララが一行の席へ。



「あ、皆さん~」


「ノララさん。どう? 誰かから募集に声はかかったかな」



 気が早いとは思ったが、小恥ずかしい空気を変えたくてつい聞いてしまう。



「今のところパーティ募集に応募してきた方はいませんね~。前衛ジョブを募集とのことなのですが、気長に待ちましょう~」



 ノララはぽやぽやと笑う。


 それもそうだ。まだ募集の張り紙を掲示してから半日もたっていない。



「そういえば、レーンさん落ち込まれてますね~。先ほどからラドさんの笑い声も聞こえていましたが、何かありましたか~?」



 ノララがそう聞いてくる。


 受付をちらりと見ればルリリがぎろりとノララを睨んでいた。おそらくは業務とかこつけてレーン達と会話することでサボろうとしているのを見抜いている、そんな目だ。


 ルリリの後が怖いのはあったが、そういえばと思いレーンはノララに問うてみる。



「ノララさん、そういえばミンシャさんっていうシーカーご存知です?」


「ミンシャさんですか? はい、それはもちろん存じてますよ~。彼女はちょっと有名人ですし~」



 はて。まあノララはギルド受付であるから金章シーカーを存じないわけはないのだが、有名人とは。



「ミンシャさんはですね~、一切パーティを組まずにソロでやっているシーカーでして、おひとりの力だけで金章に昇格した方なんですよ~」


「それは……すごいですね」


「ずっと遠征クエストに出ていたんですけど、つい今日帰って来たみたいで、先ほどギルドにいらしたんですよ」


「えッ、マジか。気づかなかった」



 ラドが驚く。レーンの前から消えた後、ミンシャはギルドに足を運び、報告を済ませるとすぐにどこかへ行ったという事だ。



「彼女、実力はあるのでパーティから引っ張りだこなんですが、ちょっと、なんというか……真面目? な方なので、全部蹴っちゃってるんですよね~」



 ノララが苦笑しながら言う。


 なるほど。路地裏で見た一幕を思い出す。彼女をパーティに迎え入れようとしているのはなにもあの男達だけではないらしい。


 確かに、あれほどの実力を持つ前衛ジョブとなれば、レーンも是非にパーティに入ってもらいたいと思う。


 現在欲しているメンバーの要求にも適っているどころか最善ともいえる。


 しかし、問題はその孤高ともいえる性格と在り方か。誘ったところで他の先駆者と同じく突っぱねられるのが落ちだろう。


 彼女を誘う線はナシだなあ、とレーンは思う。



「でもきっといいメンバーが見つかると思うですよ~! なにせレーンさん達は英雄の卵と呼ばれる今最も注目されているシーカーなんですから!」



 そう言ってノララが笑う。


 レーンとラドは少し照れくさそうに頭を掻いた。


 と、カルナがチェリーのヘタを指で結び弄りながら、ノララに言う。



「ところでノララ、そろそろ戻った方がいいんじゃないかな。怖い顔してるよ、あれ」



 カルナに言われてノララが受付を見ると、ルリリが怒りの視線を向けていた。


 ノララは慌てて一向にお辞儀をした後受付に戻っていく。



「やれやれ。さ、吾輩達も今日は帰ろう。明日また改めて〈蛙大王(ロード・オブ・トード)〉を倒しに行くんだろう」


「そうだね。とりあえず買い物も済ませたから戻ろっか」


「ふふん、今日の夕食も楽しみだよ。エトセトラの食材は美味でいい」



 カルナが上機嫌で席を立つ。


 そのあとを追って、レーンとラドもイ・シャールへと帰還すべく帰路へ着いた。







 ♢







「あ、おかえりなさいです!」


「ただいま、ナコさん。頼まれてたもの買ってきたよ。果物はカルナがちょっとつまみ食いしちゃったけど……え?」


「あ……?」



 買い物袋を抱えてイ・シャールに帰還したレーン達だったが、ナコの出迎えを他所にレーンは中に入るなり硬直する。


 ()()と目が合ったのだ。


 嬉しそうに尻尾を振ってレーン達に顔を向けたナコの隣に、昼間路地裏であったあの猫人族の女性が居た。


 彼女も少し驚いた様子でレーンと目が合うと耳をぴくりと動かした。



「え、あ、あなたは……」



 驚くレーン。


 ミンシャは目を半目にしてずかずかとレーンの前までやってくる。



「アンタ、あの時のモヤシよね。なんでここにいるの。やっぱりアタシを尾けてきたわけ?」


「えぇえ!?」



 またもや疑われている。帰宅しただけなのに。というかレーンからすれば逆に何故ミンシャがここにいるのかが疑問である。



「どしたレーン」


「いや、えっと、ちょっとね……」



 入り口で立ち往生したレーンの後ろでつっかえていたラドは中で何が起きているのかよく見えていない。


 と、カルナが細身を生かしてするりとレーンの横を抜けるとその前に立ちミンシャと向かい合った。


 心なしか機嫌が悪そうだ。その気配を感じたかミンシャもやや半身でいつでも構えられるような体制を取る。



「なるほど、この女がレーンを暴漢と勘違いしたという暴れ猫かね」


「なによアンタ」


「吾輩かい? 吾輩は彼の使い魔さ。故に主に無礼を働こうとするものを見過ごせまい?」


「はぁ? 使い魔……?」



 なんだかよくわからないうちにカルナとミンシャの間に不穏な空気が流れる。


 レーンは買い物袋を抱えたままあわあわする。ラドは相変わらず立ち往生。


 と、そこへナコが慌てて間に入り、ミンシャに言う。



「ミンシャさん、この方たちはレーンさん達です! 怪しい者じゃなくて、少し前からウチにいらしてる利用者です~!」


「なんですって?」


「そ、そうです~! だから仲良くしましょ、です! 怖い顔だめです!」



 ミンシャはぴょこぴょこ跳ねて手を振りカルナとの間で制止を促すナコと、レーン達を交互に見たあとため息をついた。



「はあ。勘違いしたみたいね。悪かったわ。にしても、こんなぼろ宿にほかのシーカーが入居するなんてね」


「うるせーぞ、ほっとけ」



 ミンシャが髪をかき上げながらそう言うと、カウンターで事の次第を見物していたトビがわめく。



「トビさん、見ていたなら止めて下さいよ!」


「すまん、どうなるか興味があった。女同士の戦い(キャットファイト)が見れるかと思ってな」



 そうやってくすりと笑ったトビは、ミンシャに睨まれて顔をそむけた。


 買い物袋をナコに渡したレーンは、カルナをなだめて下がらせる。



「レーンさんすみませんです。ミンシャさん、さっき帰って来たばかりなので皆さんの事知らなくて……あ、そうです! ミンシャさんは皆さんの前に入居してた方ですよ!」


「え? じゃああの遠征に出ていてしばらく戻らないっていう先輩シーカーの……」



 レーンがミンシャを見ると彼女は鼻を鳴らして腰に手を当てた。


 ミンシャは奇しくもレーン達の、同居人であったのだ。



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