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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第37話.銀章と一つの節目

 




 あれから数日。


 柔らかで少しだけ潮の香りが混じる風がそよぐオルフェオンで、レーン、カルナ、ラドの三人はアイリッサ・ロウを歩いていた。


 その胸元には銀の記章が太陽の光を反射し煌いている。



 レーン達は謎の遺跡内部に潜んでいた正体不明の魔物の討伐の功績で、銅章から銀章へとランクアップを果たしていた。


 スオウの口添えもあっただろうが、異例の速さで銀章への昇格を為したレーン達はオルフェオンでちょっとした有名人となり、「期待の新生」、「スーパールーキー」、「英雄の卵」など様々にあだ名されていた。


 今やオルフェオンのシーカーでレーン達を知らない者はいないほどになっている。




 もっともあの日の宴のせいで否応なしにレーン達を印象付けてしまったというのもあるが。




 あの日……レーン達がオルフェオンに戻ってからは大変だった。


 シーカーズギルドに戻るや否や、ルリリ、セナナ、ノララが駆け寄ってくるのに先んじて、ギルドマスターたるスオウがいの一番に駆けてきて一行を出迎えた。


 がばりとレーンに正面から抱き着いたスオウの姿に、周囲のシーカーたちもぎょっとしていた。


 カルナなんかはぐりぐりとレーンの腹に顔をこするスオウに対し明らかに苛立った表情だったと思う。



「よくぞ、よくぞ無事に戻った! こんなにボロボロになりおって……大変な仕事だったろうに」



 ルリリたちに後で聞いたが、スオウは一行を送り出した後とてもそわそわしていて落ち着きがなく、一行の身を案じているようだったのだ。オルフェオンにすぐ動ける高ランクシーカーが不足していたこともあって十分な戦力で臨ませられなかったことなどを謝罪された。


 レーンは一行に目配せする。皆が一様に笑っていた。


 ならばと思いレーンはスオウににこりと笑うと、言った。



「ただいま帰りました、スオウさん。みんなと一緒に……依頼は、ばっちり完了です」



 それからはすごかった。


 ギルドマスターであるスオウの公認で、シーカーズギルド内で宴が開催されたのだ。


 すぐに任務の顛末の報告が要るかと思ったが、疲れもあろうし明日でよいという事。そんな適当でいいのかと思ったが、スオウが本当に心配していたんだろうという様子でいたのでお言葉に甘えることにした。


 表向きは日ごろのシーカーたちの仕事疲れをいやす慰労会という名目ではあったが、その場にいた全員はなんとなく理解していた。


 レバンパーティがまたなにかすごいことを成し遂げたと。そして、あの謎の美少女使い魔と共にいるスーパールーキー達が、その立役者だったのだと。


 レーンたちはボロボロの体ではあったが、自分たちをたたえるその場の雰囲気に、正直高ぶっていた。


 よくヴァンドールにあるレーンの実家に、シーカー仲間を呼んで冒険話に花を咲かせながら飲み明かした、父フェイズとの記憶を思い出す。


 仲間たちは皆気さくで、くちぐちに言う冒険の苦労話や楽しかった話などを聞いて心躍らせていたのを思い出したのだ。


 自分は、父に一歩近づけただろうか。


 何かを成し遂げ、このように称えられるのは、まるで英雄への道の第一歩のようであったから。



「よーし諸君! 今日はわしが奢る! 存分に日ごろの疲れを癒すがよい! もちろん、明日以降の体調管理は自己責任じゃがな、くっふふ!」


「「おおおー!」」



 そしてそんな宴はレーンたちを中心に夜通し朝まで行われたのだった。


 酒に酔ったレバンとカルナが腕相撲をした結果レバンがギルドの外まで吹っ飛ぶ結果となったり、ラドがユルネア率いる女性シーカーにちやほやされすぎて鼻血を吹いて気絶したり。


 レーンはフランタック、スオウと共にそのさまを呆れながら眺めていたのだ。


 酒の席でスオウは重ねて依頼の成功を喜んでくれていた。


 何度も無事でよかったと酔っぱらいながら言っていたものだから、周囲からすればあのルーキーはギルドマスターとどういう関係なのだ?という疑問の声ももちろん上がった。


 それに対して酔いで顔をゆであがったように赤くしたスオウが、「わしの子(のようなもの)じゃ!」とか言ったものだからレーン含め周囲の人間は全員が目を丸くして驚きの声をあげていた。


 レーンは慌ててスオウを止めるが、スオウはにやりと笑って懐から一枚の書類をレーンにたたきつけた。


 何かと思いみると、そこには驚きの文言がかかれており、レーンは目を回した。



「くっふふふ、正式にわしがお前の身元引受人になったという証拠の書類じゃ! 行方知れずの友に任された子だものな、この方がいろいろ都合がよかろうて!」



 なんと本当にスオウはレーンの身元引受人になったというのだ。父より頼まれたといえど、ギルドマスターが身元引受人となるなどレーンには一大事すぎて理解が追い付かなかった。


 何よりレーンの意思とは無関係のものであったから、無茶苦茶であるしその無茶を通すギルドマスターの権力にも驚いた。



「そういうわけなので、今後も困ったらわしを母と思うて甘えるよーに!」



 胸を張って笑うスオウ。いや、ギルドマスターの庇護はシーカーとしてやっていくうえでこの上ない強みであるから助かりはするが、身元引受人となっただけで母ではあるまいとぐるぐる目まぐるしく思考が巡る脳内で突っ込むレーン。



(父さん……会ったときに問い詰めるからね……!)



 スオウの笑い声を聞きながら、心の中で父フェイズを想うレーンなのであった。




 そんな喧噪もあり。翌日改めてギルドマスターの部屋で報告をしたのだが、そこでもいくらかドタバタがあった。



「いやだからアレ事故だって! 俺たちだって驚いてんだ!」


「貴様らを信じて任せたというに、話に聞く<偶像(イドロ)>とやらはレーン達だけで戦ったというではないか!」


「うっせえババア! 俺たちが一番申し訳なく思ってるっつーの!」



 事故もあったとはいえレバンとレーンがはぐれたと聞かされていた時はレバンに詰め寄っていた。件の依頼は難度が高いことを承知であったからレバン達が守る事も前提だったというが、もう一度言う通り完全な事故での分断だったので何とも言えない。


 レーンがレバンとスオウの喧嘩じみたやり取りを見ながら困惑しているとフランタックがその肩を叩いた。



「大丈夫ですよ。いつもこんな調子ですので」


「はあ……」



 ひとしきり問い詰めを終えると、なんだかんだでスオウの目論見であるオルフェオンの安全とレーンの功績の二つを無事完遂してきたということで、大層満足そうな顔をしていた。



「くふ、これでお前たちの功績は疑いようがない。金章シーカーたるレバンらの証言も合わせれば、銅章シーカーが昇格するには十分すぎる材料じゃ。期待しておれ」



 スオウはそういって書類を作りながら笑っていた、シーカー連盟の評価会議でレーン達を必ず昇格させてみせると息巻いていたものだ。


 そして数日後となる先日、レーンたちはギルドにて無事昇格の証たる銀章を受け取っていたのだ。




 そして、今日に至る。 


 一行はイ・シャールを立ちアイリッサ・ロウを歩きシーカーズギルドに向かっていた。


 まだ一日しかたっていないからか、銀章を眺めながらレーンとラドは飛び上がらんばかりの喜びを必死に抑えている。



「いやあしかしこんな早く銀章になれるとは思わなかったぜ! ギルドマスターに感謝だな!」


「スオウさんは僕らの功績だっていうけど、そうお膳立てしてくれたのは間違いないからね」


「キミたちが昇格したということは、エトセトラで探索可能になった地域が増えたというわけだね。近郊以外も行けるというのであれば、吾輩も今から気分が高揚するよ」



 銅章シーカーに許可された探索可能地域は境界森林の少し先まで。


 銀章となればその範囲はぐっと広がるのだ。


 日帰りではすまないような遠征を伴う依頼も今後受けられる。


 それだけエトセトラに触れられるということで、一行はだいぶ浮かれていた。



「イ・シャールに戻って、ナコさんとトビさんに報告した時の二人、自分の事みたいに喜んでくれていたね……嬉しかったなあ!」


「トビさんも喜んでくれてたか? タバコ吸いながらいつもと変わんなかった気がするが」


「ばかだなあラドは。あれは喜んでたんだよ! たぶん!」


「そうか? まあいいや、今夜はナコちゃんが祝いでご馳走作ってくれるんだろ? 今から楽しみだぜ!」


「ふふ、早く今日の仕事を終えて帰るとしようよ。吾輩はご馳走を作る食材をナコと買い物に行く約束をしているんだ」



 あの日宴を終えてイ・シャールに帰ってから、その怪我と酒でボロボロの姿をナコは大層心配していたようだが、トビは一行がなにやらを成し遂げたのだと察したのか、ふっと笑ってナコと一緒に珍しく食事を作ってくれた。酒の後の体を考えてくれたか、あっさりとしたスープが体にしみたのを覚えている。


 食事を頂きながら何があったのか、冒険譚を語るように説明すると、ナコは目を輝かせたし、トビも真剣に聞いてくれた。


 レーンは持ち帰った話を聞いてもらうことがこんなに誇らしく楽しいことだったなんてと思い、在りし日の父が、レーンに話を聞かせるときもこんな気分だったのかなと口を緩ませた。


 銀章シーカーへと昇格するまでの数日は、大事を取って仕事はせずにのんびり過ごしていた。


 カルナはナコと一緒に買い物をするのが好きになったようだし、レーンもいい息抜きになるだろうとしてカルナの独立行動を許可している。


 ナコもカルナを年上の同性として大分懐いたようで、カルナも同じようにナコをかわいがることが増えた。仲良くなることはいいことだ。


 もう最近はカルナが魔王だ魔人だということで他人に対して説明に負い目を感じたり関わりに不安を感じることもなくなった。


 ずっとカルナはほかのシーカーからは謎の美少女使い魔で通っているし、それについて深く聞く者はいなかった。


 そういう意味で、オルフェオンの人たちはおおらかであったのが幸いだった。


 シーカーは国家公務員ではあるが、荒事を担う職であるためか、レーン達のように国家支援を受けて排出された者たちとは違い、一発試験組……貧困からシーカーにならざるを得なかったもの等、過去に事情を持ついろんな境遇の者たちがシーカーとなる場合もある。


 そんなだから、互いのことについて必要以上に追及することがないのだと、なんとなくレーンは察してきていた。


 ラドはアイリッサ・ロウの武具家の主人と仲良くなったらしく、武具の新調も検討しているらしい。


 レーンはこの数日はやはり仕事はしなかったが、レバンが暇なときを見つけて剣の稽古をつけてもらったり、フランタックとユルネアに魔術、操霊術、そして召喚術の教えを受けていた。


 あの日<偶像(イドロ)>との戦いで、レーンは己をもっと磨かねばならないと痛感していた。


 技術も、力も。カルナという強大なパートナーに依存してばかりでは、いざという時守りたいものを守れない。レバンらもそういう意思をくみ取ってくれたか、喜んで訓練の時間をレーンのために割いてくれた。


 そうやって、数日が過ぎた今日というわけだ。


 銀章となってからの初仕事となる今日の日和は、快晴。


 レーンは空を見上げ、まぶしい日差しに眉を顰める。蒼天には海鳥が飛び交い、なんとも気分晴れやかなる陽気だ。新たなる門出ともいえる銀章としての第一歩を踏み出すには絶好である。



「さあ、銀章になったからといって浮かれすぎないようにね」


「お前こそだぜ、レーン! 昨日食事中ずっと記章を眺めてて気持ち悪かったぜ」


「それはラドもだろ!」


「ははは! なにはともあれ一つの区切りを迎えたんだ。心機一転といこうじゃないか」



 そしてギルドの扉を開け、受付へと迎えばルリリ、セナナ、ノララの3人が出迎えてくれた。


 そしてレーンとラドの胸に輝く銀章を見て頷いた。



「やあレーン御一行! 今日の依頼はどうする?」





 ♢





 オルフェオンの境界森林。


 木の葉を風が揺らす音と小鳥のさえずりが奏でられ、ふと横合いを見れば木々の合間から樹木イノシシの群れが見える。


 そんな獣道を一人歩く者あり。



「今回は結構難儀な依頼だったわね……3週間もかかっちゃった」



 その者は体格を見るに女性であり、旅装束たるローブはフードを目深に被っており顔は見えない。


 大きな荷物を背負い歩きながらも重心の安定した佇まいは戦う者のもの。


 彼女はやがて森を抜け、オルフェオンが見える草原に出るとふうと一息。



「久しぶりのオルフェオンね。ナコ、元気にしてるかしら」



 女性はそう呟き、フードから微かに見える口元でにこりと笑った。


 その胸には、シーカーの証たる金の記章が輝いていた。



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