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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第36話.成し遂げた者達

 




 レーンの突き出した直剣は確かに〈偶像(イドロ)〉のコアを刺し貫いた。


 刹那、大気が震えるような女性の悲鳴めいた咆哮を〈偶像(イドロ)〉があげる。


 堪らずレーンは剣の柄から手を放し、コアに刺さったままの剣をそのままに落下し転がった。


 ラドがすぐに助け起こすと〈偶像(イドロ)〉から距離を取る。



 〈偶像(イドロ)〉は胸をかきむしる様にしばらくもがいた後、仰向けに倒れこむと……ついに動かなくなった。


 コアの青い光は消え、再生もしていない。


 何より、近くにいたレーンとラドは、眼前の怪物が生命力を完全に失っていることを理解できた。



 今度こそ。完全に……〈偶像(イドロ)〉はその活動を停止した。



「はぁ……はぁ……はっ……」



 荒い息をついてラドに肩を貸してもらいながら〈偶像(イドロ)〉が倒れるさまを見ていたレーンは思う。



(倒し……切った……!!)



 ラドもある程度離れたところで立ち止まり、亡骸と化した〈偶像(イドロ)〉を眺めて信じられないような顔だ。


 と、二人の元へカルナがよろよろとやってくる。



「カルナ……!」



 レーンはすぐにカルナの体を支える。すると彼女は憔悴しきった顔でレーンに微笑んで見せたのだ。


 四重紋魔術式を使った反動で昏倒寸前、さらにはあの一撃を受けた彼女。


 そしてそんな状態でも、無理をして動けば体に激痛が走るであろうものを、レーンを救い最後の一手を繋いでくれた使い魔。




 レーンは思わずカルナをぎゅっと抱きしめていた。



「あっ……」



 細い、華奢な体から体温を感じる。細身のレーンよりもさらに細いこんな体で、一番頑張ってくれた魔王。


 強く抱きしめれば折れてしまいそうなまでのカルナの形を感じて、先ほどまでの無茶を思い出し、レーンは胸の中が熱いものでいっぱいになっていた。


 カルナはレーンに抱きしめられ、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を閉じるとそのまま体重を預けてきた。



「カルナ、大丈夫……じゃないよね。ああ、すまない……僕が油断して……注意していなかったから」


「……この状況でいうセリフがそれかね、レーン。ここは……はあ……誇るところだろう」



 カルナがレーンにしなだれかかりながら笑う。



「あの忌々しい怪物を……討ち取ったのだから」



 カルナのセリフでレーンとラドは一度お互い顔を見合わせ、もう一度〈偶像(イドロ)〉を見る。


 もはやピクリとも動かず、カルナの魔術で炭化した触手やラドとレーンに切り落とされた触手から青い血が絶え間なく流れ出ている。


 レーンがその胸に突き立てた剣の柄に嵌め込まれた宝石が、発光苔の光を反射して煌いていた。



 〈偶像(イドロ)〉を、今度こそ完全に討伐したのだ。



 その事実を二人がやっと真に理解した途端、二人はばたりと仰向けに倒れた。


 カルナもレーンに合わせて倒れる体を二人に並ぶよう仰向けに転がした。



「はは、はははは!」


「勝った、勝ったよ! 僕たちはやったんだ!」


「ああ、やってやった……やってやったぜこのやろう! はははは!」


「吾輩は限界だ。……おやすみ」



 笑い始める二人。体はもう限界で、緊張の糸が解けたことで、その二人の声を聞きながらカルナは静かに瞳を閉じた。


 それから少しして、消耗で意識が遠くなっていくレーン達の耳には足音と、一行を呼ぶ声が聞こえて来た。





 ♢





 レバン達は、遺跡のさらに地下に広がる洞窟を駆け回っていた。


 途中何度も闇守人(カースキーパー)と遭遇し、倒しながら進んだ。


 あの時、広場の崩落に巻き込まれた銅章シーカーたち……一度は助けられたレーンを含むルーキーたちを探していたのだ。



「くそっ、入り組んでやがる! レーン! ラド! お姫様ー! 返事してくれ!」


「レバン、距離と進んできた方角から、そろそろあの広間の真下のはずです。あの落下をどうにかして生き残り、彼らがそこに居ればいいですが……」


「ちょっと、いるに決まってるでしょ! たしかに普通ならやばい高さから落ちたけど、絶対生きてるわよ! でも……生きていても移動されてたらちょっとまずいわね……こんな洞窟ダンジョン、あたしらですら慎重に進んでるのに!」


「あいつらはそこまで無策なことはしねえ筈だ。だが……」



 レバンはレーン達と一緒に落下していった〈偶像(イドロ)〉を気にしていた。


 レーン達の生存は疑っていない。常識的に考えればただ落下したとすればまず助からない高さなのは、遺跡からこの洞窟へいたる道を見つけて降ってきたからわかる。


 それでもあいつらならなんだか生き残ってくれいているという勘が働いたのだ。


 しかし落下を生き延びてもその先で自分たち抜きで〈偶像(イドロ)〉に襲われればひとたまりもない筈だ。


 カルナという強大な使い魔がついていても、不安は不安だった。




 そうして彼らの身を案じながら可能な限り急ぎ足で魔物を蹴散らしつつレーン達を探していたレバンは、拓けた場所に出て目を疑った。



「くそっ……おいあれ、〈偶像(イドロ)〉じゃねえか!」



 すかさず剣を構えて駆けだすレバン。


 フランタックとユルネアも警戒しながら後に続く。


 そして……。



「おいおいこいつはいったい……死んでやがる、のか……!?」



 近寄ってみれば〈偶像(イドロ)〉は完全に息絶えていた。その胸には直剣が突き立てられている。



「レバン!」



 ユルネアがレバンを呼ぶ。


 声の方を見ればフランタックとユルネアの足元に人が3人倒れていた。


 レバンはそれを見て大急ぎで駆けよる。



「おい、おい! お前ら!」



 地面に仰向けに倒れるレーン、ラド、カルナの三人は皆目を閉じていて、声をかけても返事がない。



「おい、生きてんだよな!? 何があった! おい!」



 屈んで揺さぶろうとするレバンの方にフランタックが手を置き、止める。


 レバンが驚いてフランタックを見れば、やれやれと言った顔で安堵した風に息をついていた。


 ユルネアに至っては笑っている。



「レバン、大丈夫よ。3人とも気を失っているみたいだけど……生きているわ」


「驚きましたが、状況を見るに……彼らはこの場に残り、逃げずに〈偶像(イドロ)〉と戦ったのでしょう。そして、倒した」



 フランタックは穏やかな声でそう言った。


 レバンは改めて三人を見る。すると、三人は全員がぼろぼろでひどい様子ではあったが、穏やかな寝息を立てていた。


 そして一様に、満足そうな笑みを浮かべていたのだ。



「は、はは……はははは!」



 そんな3人を見て、レバンは腹の底から笑った。



「本当に、とんでもねえルーキーどもだぜ!」






 ♢





 レーン達はフランタックの召喚したゴーレムの手のひらの上で目を覚ました。


 遺跡は既に脱出し、オルフェオンへの帰路の最中であった。


 右手から下を見下ろせば、レバン、フランタック、ユルネアの3人がゴーレムの前を歩きながら、にこやかに笑って手を振っていた。


 と、レーンはローブを引っ張られるような感覚に背後を振り返る。


 そこにはレーンと同じようにゴーレムの掌の上で、寝転んだ姿勢で腕を伸ばしたカルナが微笑んでいた。


 裾をさらに引っ張られ、レーンはカルナに体を寄せる。



「カルナ……」


「吾輩も今目が覚めたよ。どうにもゴツゴツしているし、いかんせん揺れるものでね」



 カルナは状況を理解したうえで軽口を言う。



「すみませんね、豪奢な馬車は用意できませんでしたので、オルフェオンまでそれで我慢してください」



 地面の方からフランタックがやれやれといった風に言う。聞こえていたらしい。レバンとユルネアの笑い声も聞こえる。


 レーンはちょっと申し訳ない気持ちになりつつもつられて笑ってしまった。



「レーン、吾輩たちはやりきった。改めて言おう。誇るといい。確かにあの戦いは、キミが勝ち取ったものだ」


「そんなことはないよ、二人が……」


「謙遜は場合によっては尽力した者たちへの不敬となる。今は素直に胸を張りたまえよ、レーン。それが上に立つ者の在り方だ。ラドもそう思っているはずだよ」



 カルナの声に首を見回してみる。すると、レーンたちのいるゴーレムの右手の反対側、左手に胡坐をかくラドが目に入る。目が合うと、ラドは親指を立てて笑っていた。


 レーンはラドの姿に安堵したのち、こそばゆくなりつつも言う通りにした。<偶像(イドロ)>を倒した仲間と、自分の功績に素直に誇りを持とうと。


 そして一行は、日が赤く染まる夕暮れ、ゴーレムに揺られながらオルフェオンに無事帰還したのだ。




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