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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第29話.調査と不穏

 






「よっし、状況確認だ。周りに注意しろ」



 レバンが今しがた地面に倒れている闇守人カースキーパーに突き刺した大剣を引き抜き、一度大きく振って付着した血を飛ばした後に言った。


 ラドが念入りに闇守人カースキーパーの死体をチェックし、とどめが刺されていることを確認する。





 一行は、瞬く間に闇守人カースキーパーの群れを倒すことができた。


 7体いた魔物たちは、急な襲撃者に対応する間もなく切り伏せられ、倒されていった。


 〈消音(サイレス)〉の効果もあり、接近を察知できなかった魔物たちを確実に即死させていったレバン、ラド、そしてカルナのおかげで、安全は確保された。仲間も呼ばれていない。



「ふう、キンチョーしたぜ……」


「何言ってやがる、ラド。いい腕だぜ」


「っへへ、ありがとっす、レバンさん! でもやっぱり殆どカルナがやっちまったなー」


「ああ、とんでもねえお姫様だぜありゃ」



 ラドとレーンがカルナを見る。


 カルナはもうレーンのところへ戻っていて、クスクス笑っている。


 そんな様子に二人は自分たちの戦果を確認する。



「俺が2匹、ラドが1匹だから、お姫様は……」


「4匹っすね。しかも笑いながら」


「あいつやっぱおかしい。なんで手刀や蹴りでこいつらの頭吹っ飛ばせるんだ」



 レバンは足元に転がる亡骸を見やる。


 レバンですら声を上げさせないよう首を刎ねたのが1匹だというのに、カルナは自分が仕留めた4匹すべての首を刎ねていた。


 特に前回カルナの戦いを見ていなかったユルネアなんかは目を丸くしていた。今はカルナに質問攻めをしている。それをのらりくらりと躱しレーンの背後に隠れてにやにや笑うカルナだが、戦闘中はそれこそ回り、飛び、魔物の反射神経を遥かに超える動きで倒していったのだ。恐ろしい強さだった。



「あいつ、戦っている時、踊ってるみたいだったな。ったく、頼もしいことこの上ねえぜ!」


「レバンさん、カルナはイフリートを簡単に倒すようなやつっすよ」


「おいおいマジかよ」



 レバンは改めてカルナの威力を痛感し、後列の元に合流した。





 戦闘を終えてさらに先へ進む一行。


 暫く進むと通路の様相が変わった。


 今まで進んできたトンネル状の通路も大きく広かったが、さらに開けた空洞に出たのだ。



「広いな……こんな空洞が地下に……」



 思わずレーンは言葉が出てしまう。


 形容するなら地下ドームだろうか。お椀状にくりぬかれた壁面は天井までなだらかな曲線を描いている。


 壁面にやはり自生する発光性の苔でそれなりに空間は明るいが、いかんせん広さがあるので光量が足りず、薄暗い。


 そしてちょうど天井の中央には穴が開いており、どこかへ続く竪穴のように見えたが、どこに続いているかは漆黒の闇でうかがい知ることはできなかった。


 一行は警戒しながらドームに侵入する。


 今まで通ってきた通路からドームがあり、奥を見れば今まで通って来たような通路が見える。


 通路の中継地点にあるような形だ。古代文明の施設として、この空間は何のために存在したのか。



「レーン、見てくれ」



 ふと、カルナが足元を見ながらレーンに言う。


 言われてレーンが視線の先を見ると、なにやら金属のがらくためいたものが落ちている。


 始めは遺物アーティファクトかと思ったが、違う。



「……魔力の残滓だ。これは……〈自動人形オートドール〉……?」



 レーンは残骸めいたがらくたに手を触れて言う。


 〈自動人形オートドール〉は即ち魔力を動力源として動く自動機械であり、古代遺産の例としてよく挙げられる。こういった遺跡ではたまに見られる、らしい。


 現代でも職業〈錬金術師〉等は似たような機構の機械人形の作成が行えるが、エトセトラで見られる〈自動人形オートドール〉にはその機構や精密さは遠く及ばない。


 その用途は家事炊事から戦闘まで様々。入力された命令に忠実で、稼働限界を迎えるまで淡々とこなす存在である。


 とはいえ〈錬金術師〉の作成した物と違い明確な主の存在しない〈自動人形オートドール〉は魔物扱いであり、侵入者を撃退するために配備されていたり、長い年月の間に命令にバグが起きて人を襲ったりするモノもある危険な存在である。



 そして、レーンが触れた残骸は、その一部であろう。



「こいつぁ……」



 レバンがぼやく。直後に先行して安全確認がてら広場を見ていたラドがレーンに言った。



「レーン。そこらじゅうに在るぞこれ」



 ラドの言葉に改めて周囲を見渡す。ドームの形状から上ばかりを見ていたから入った時には気づかなかったが、薄暗さに目が慣れ、周囲を見てみればそこかしこに〈自動人形オートドール〉の残骸と思しきものが数十は転がっていた。



「この数は普通じゃないわね……こんな数は見たことないわ」


「全て残骸というのも気になりますが……ふむ。この遺跡の防衛に存在した物でしょうか」



 ユルネアとフランタックが訝しむ。


 レーンは注意深く残骸の様子を見ていたが、視線の中であることに気づいた。


 埋もれているような残骸もあることで足元をよく見ると、土が積層している。今まで歩いてきた通路は石や金属の作りであったから様子が違う。と、ドームの中央の土の積層だけやや盛り上がっていることに気づき、見てみればサラサラと上から降り積もっているのが分かった。


 どうやら天井の縦穴から土砂が降っていて、この空間に積層していたらしい。となれば縦穴は地上のどこかにつながっているかもしれない。


 そして、そんなことも推察しつつレーンは見つけたとある物の前に立ち、しゃがんで確認して確信を得る。



「レバンさん、これを見てください」


「どした、何か見つけたか?」


「足跡です」



 レーンが指さした先には土の陥没した足跡が見て取れた。大きく、先が二股に分かれた蹄を持つ生物のもの。



「多分、大樹イノシシのものかと」


「するてーと……あいつがここまで来ていたって事か」



 後ろの方ではフランタックが〈自動人形(オートドール)〉の残骸をいくつか確認していた。



「レーン君に同意です。この〈自動人形(オートドール)〉達は強烈な力で破壊されていますから、おそらくは犯人は大樹イノシシで間違いないでしょう。破壊の痕跡も古くはない」



 自動人形の残骸はいずれもひしゃげていたり、ばらばらになっているがどれも物理的な攻撃に拠るものだ。大樹イノシシの牙やその足で粉砕されたのだろう。



「レバン、こいつらが大樹イノシシを手負いにさせたなんて思える?」


「それはないだろうな。転がってんのは殆どが〈自動人形:歩兵(オートドール・ポーン)〉だ。〈自動人形:戦車(オートドール・ルーク)〉も混じっちゃいるが、あの大樹イノシシを撃退するには至らんだろう」


「そうよねえ。〈自動人形(オートドール)〉も下級の魔物扱いだし、あの化け物イノシシを撃退はさすがになかったわね」



 レバンがユルネアに言うと、ユルネアは髪を弄りながら再び周囲を見回した。



「うし、分かれてちょっと詳しく痕跡を調べよう。広いからな。ユルネアは俺とだ」


「了解ですレバンさん。カルナ、一緒に来てくれ。ラドはフランタックさんと一緒に」


「おうよ! 任せとけ!」



 レーンはカルナを護衛に伴い大広間を散策開始する。同じようにレバンがユルネアに付き、ラドがフランタックにつくようにして3組で広場の散策が開始された。






 そして10分ほど広間の中を見て回ったのち、足跡をずっと気にしていたレーンが広間の中央で目を細めた。



「レバンさん……多分、ここです」


「なんだルーキー。何のことだ」


「何か見つけたの?」



 呼ばれたレバンがユルネアと共にレーンとカルナのところまで駆けて来る。



「大樹イノシシはこの場所で()()に返り討ちに遭ったんです」



 レーンが地面を指さし、レバンがそれを覗き、表情を変えた。



「こりゃあ……」



 レーンが指さしたのは先ほどから注視していた大樹イノシシの足跡。


 その足跡はレーン達が歩いてきた通路から続き、この大広間の中央辺りで激しく乱れた後、再び元来た道を戻る様に続いていた。


 それはこの場所で大樹イノシシが何かと戦闘し、逃げ帰ったことを意味していた。


 話を聞いていたカルナはレーンの近くに戻り、フランタックと共にレーンに合流したラドも盾を持つ手に力を籠めなおし周囲の警戒を強めた。



「おそらく、この近くに何かはいます。もう一度感知を……」



 レーンがそう言いかけた時、感知しなくとも全員の耳に聞こえる水音を伴う足音。


 ラドとレバンが一行の前に出ると構える。音は多い。そして、すぐに一行がやってきたのとは別の通路から大量の闇守人カースキーパーの群れが姿を現した。



「おいおいおい嘘だろ!?」



 ラドが叫ぶ。


 その数は数十に及ぶ大群であり、ギャアギャアと耳障りな叫び声を上げながら一目散に向かってきていた。


 だらだらとしたよだれを垂れ流しながら、興奮状態で駆けて来る群れ。



「迎撃だ! 構えろ!」



 レバンが叫ぶ。合わせてユルネアも杖を構え、フランタックはすぐさまゴーレムを召喚する。


 レーンが杖を構えたところで、その腕をカルナが制した。



「カルナ!? 何を……」


「あれらの敵意は吾輩達を向いていない。刺激しちゃダメだ」



 カルナはそう言った。


 驚いてレーンが再びこちらに疾駆してくる群れを見る。目は血走り、叫んでいる。



「あれは怯えている。逃げているんだ」


「……!」



 レーンとカルナの会話を他所にレバンとラドは戦闘態勢で構える。


 フランタックもゴーレムを隊列中央に陣取らせる。しかし……


 ゴーレムの両脇の下でラドとレバンが構えたまま警戒をしていたが、闇守人の群れはゴーレムを避けるように一目散に横を通り過ぎていき、レーン達がやってきた通路に駆け込むとそのまま彼方へ遠ざかっていった。



「な、なんだ……!? 俺たちを素通りしていきやがったぞ? ラド、そっちは大丈夫だったか?」


「大丈夫っす! んだよ脅かしやがって……」



 レバンは剣を肩に担ぎ不思議そうな顔。ラドはあの大群に緊張していたのか大きく溜息をついている。


 そんな中、フランタックとユルネアは冷静になぜ自分たちを素通りしたのかと推察していた。



「妙ですね……私たちを見向きもしなかった。ゴーレムに恐れをなしたという風でもなかった。あれはもっと……」


「でも戦わなくて済んだんだからいいじゃない。まあ、まるでなんだか……一目散に逃げていった、そんな感じではあったけど」



 レーンも本当にカルナの言う通り闇守人が素通りしていったので驚いていた。大樹イノシシと相対したあの日もそうだったが、カルナは敵意のようなものを敏感に感じ取れるのだろう。


 と、安心しかけているとカルナがレーンの服の裾を引っ張り、静かに告げた。



「……本命が来るよ」



 カルナはじっと闇守人が現れた通路の奥の闇を、紅き瞳で睨み付けていた。


 安心するのはまだ早い。カルナの瞳からはその意思が読み取れた。


 レーンはその様子と言葉の意味をすぐに理解すると叫ぶ。



「皆さん! 多分やばいのが来ます! 警戒を!」


「やばいのってなんだよ!?」


「やばいのはやばいのだよ、ラド! 多分大樹イノシシをやったヤツだ!」



 レーンの声が広間に響くと同時に、地響きが鳴り響いた。


 轟音は通路から広場へ重く響く。そして間もなくして、闇守人の群れが現れた通路の奥の暗闇から、巨大な影が姿を現したのだ。


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