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僕と魔王とエトセトラ  作者: 猶江 維古
第2章:英雄の卵編
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第28話.境界森林の遺跡

 






 鬱蒼と茂る背の高い木々の合間、獣道と言って差支えのない道なき道をレーン達は歩いていた。


 オルフェオンの境界森林。一行は森に入り既に2時間は歩いていた。


 辺りを見れば以上に巨大な草木が茂り、巨大な虫や原生動物が闊歩する。


 レバンパーティが先導し、レーン達はそのあとに続いていた。



 レーン達は、先日の指名クエストを受けることと決め、翌日にギルドにてスオウと会った。


 レバン達と合流し、互いに準備をしたのち、大事に至る前に急ぎ遺跡の調査と謎の存在の討伐をこなすべきとして、すぐさま境界森林へ向けて出立していたのだ。



 境界森林にはそこまで凶暴な魔物もおらず、先日の大樹イノシシのような異常個体を除けば比較的安全な場所。


 現にレーン達も森に入ってからこれまで戦闘という戦闘は行わずに済んでいる。


 レバン達が下見で調査したという件の遺跡まではもうすぐといった所らしい。先導するレバンがレーン達の様子をつぶさに鑑みながら進む。


 しかし、流石は金章シーカーのパーティ。気遣ってもらわなければ瞬く間に置いて行かれるだろう。


 レーン達はこういった冒険の経験は浅い。対してベテランのレバン達はこんな道なき道でもすぐさま進めるルートを判断し、進んでいく。



「レバンさん達、流石だなあ……」



 レーンは足に疲労を感じながら、先導するレバン達の背中を眺めて呟く。


 レーンに足並みを揃えてくれているが、その気になればレバン達は今の2倍は早く進めるはずだ。


 最後尾でしんがりを務めるラドは、息こそ荒げていないが進む足は遅めだ。筋力を鑑みてレーンの分の荷物も持ってもらっているというのもある。


 そしてカルナは、影に入っていていいとレーンは言ったのだが、表に出てレーンと一緒に歩いている。


 彼女にとってはこの森も自分の目で見るのが楽しい場なのだろう。


 レバン達についていくのがやっとで周囲の景観や生態を楽しむ余裕がないレーンと違い、カルナは軽快な足取りで進みながら周囲の草や昆虫をつついたりしている。流石の身体能力。それでもレーンと付かず離れずいてくれるのは心強かった。



 そうして暫く進むと、フランタックがレバンからの合図を受け取ってレーン達に停止の指示。


 ゆっくりと先頭でレバンが手招きしている。



「来てみろ。足元のツタに気を付けろよ。転ぶぞ」


「はい! 今行きます」



 レーンは返事をし、十分足元に注意をして進む。


 草葉を杖でかき分け行ってみると、森が拓けた場所に出た。



「到着だ。見えるだろ? 件の遺跡への入り口ってやつだ」



 レバンの声に目を向ければその広場の中央、不自然に隆起した丘に巨大な洞窟めいた穴が口を開けている。さも入り口ですと言わんばかりの地形が目に入った。


 周囲には丘の隆起に際して薙ぎ倒されたと見られる不自然な倒木が散見し、この開けた場所は後天的にできた広場であると見当がつく。


 レバンに続いて一行は入り口たる洞窟の前までやって来た。



「大きいですね……」



 洞窟の広さは入り口の大きさから推測できる。いつぞやフランタックが召喚したゴーレムも余裕で進めるほどだろう。


 近くで見ると丘というより小さな山にあいた洞窟というべきだった。


 最も、大樹イノシシがこの中に侵入して何かに返り討ちに遭ったのなら、内部も大分広いと見ていい。



「俺たちも浅く見てみたが、中はとてつもなく広い。地上に露出した入り口から下るように進むと、迷路みたいな場所に出る」


「迷路といっても四方に伸びる通路は規則性があるので、簡単にマッピングはしてあります。前回私たちが進んだ場所までは迷うことはないでしょう」



 フランタックがそう言って革製の手書き地図を取り出す。



「よし、んじゃあ突入する。隊列は道中で確認した通りでいくぞ」



 レバンの指示でレーンとラドも気合を入れなおす。ラドから荷物を受け取ったレーンはポーチに回復薬等必要なものをすぐ取り出せるよう仕舞い、杖を背負う。腰に下げた剣のベルトも締め直し、隊列を組む。


 前衛にレバンとラド、中衛にはレーンとカルナ。そして最後尾にユルネアとフランタックが付いた。


 ベテランが新米を囲うような編成だが、近接も魔術もこなせるカルナの威力を知っている面々はむしろ遊撃に期待していた。


 後ろについてくれたユルネアがレーンに優しい声をかける。



「初めてで緊張する? この遺跡はエトセトラに点在する、ダンジョンと呼ばれる場所に区分されるわ。地上を進むのとは勝手が違うものね」


「ええ、はい。でも、大丈夫です。皆さんがついてくれていますし、何より冒険は僕の望むところですから」


「あら、かわいい顔して勇敢ね~! でもレバンみたいにはなっちゃだめだよ。あれはただの蛮勇。馬鹿だから」


「聞こえてんぞユルネア! その馬鹿に何度救われてんだ」


「しらなーい」



 乾いた笑いでやり取りを聞くレーン。多分、緊張しているレーンを気遣って雰囲気を和ませてくれたのだろう。


 しかし、気遣いもありがたく受け取るとして、気を緩めすぎるのはよくない。


 緊張は程よく残し、余裕は持つ。気合も入れておく。


 なにせ、このクエストはスオウの……ギルドマスター直々の指名クエスト。スポンサーとしてはとても大手と言える。


 養成学校でも習ったし、スオウ自身も言っていたが、シーカーのランク昇格には功績となる評価が必要だ。


 この指名クエストで得られる評価はきっと大きい。そうすれば、昇格への道はぐっと縮まる。


 そして、ランクを上げて探索許可地域を増やし……父を追う。


 もちろんまだ見ぬ世界をこの目で見たい思いもある。しかして今は。具体的な目標としてレーンは心に刻んだのだ。


 父フェイズの行方を探し出し、真意を聞く。カルナの事だけではない。なぜ急に誰にも告げずに行方をくらませたのか。


 父の事だから生きていると信じている。だからこそ、早く追いかけねばならない。


 そのためにも、目の前のクエストには全霊で臨むべしだ。


 と、決意の眼差しを遺跡入り口に向けていると隣についていたカルナがレーンの名を呼ぶ。



「大丈夫さ。キミの事は吾輩が守るよ」



 肩肘張っているのを見抜かれただろうか。カルナの言葉は優しい声色だった。レーンは頼れるパートナーへの返答がわりににこりと笑い、再び遺跡を見やる。



「……行きましょう」



 レーンの言葉に前衛のラドとレバンが親指を立てて笑い応える。


 一行は、洞窟遺跡の中に足を踏み入れた。





 ♢





「レーン気を付けろ、そこ滑るぞ」


「ああ、ありがとうラド。……ホントだ、なんかヌルヌルする……」



 遺跡の中は予想通り大分広く、天井までの高さは10m以上ある。フランタックも存分にゴーレムを使用できると言葉を零していた。


 また、不思議だったのは遺跡の中が不自然に明るかったことだ。


 よく壁を見れば淡く明滅する発光性の苔のようなものがそこかしこに自生している。この発光する苔が光源となり辺りを照らしているのだろう。レーンは手記と照らし合わせるが、父の残した情報で発光性の苔の記載はあれど、こんなオルフェオン近辺の遺跡に自生しているとは書かれていなかった。


 レーンは改めて思う。自分は今紛れもない未踏破地域にいるのだと。


 自分たちがこの地を探索する第一陣となっていると思うと、不安とわくわくの入り混じった何とも言えないこそばゆさを感じる。


 とはいえ今回の目的はおそらくこの遺跡に住まうであろう、大樹イノシシを越える危険な何かの討伐。


 浮かれ気分ではいられない。


 今自分たちは探索隊ではなく討伐隊としてこの未踏破地域で歩を進めているのだから。



 改めて周囲を見まわしてみる。


 直線に続く通路は、先の話に合った通り規則的で、たまに十字路などの分かれ道があるくらいだった。


 たまに下へと続く階段があり、一行は慎重に下っていく。壁なども見れば、はじめは土や苔の付着から土か石製かと思ったものだが、よく見てみれば石造りに交じって金属の部分も散見する。



「エトセトラが古代人の住んでいた大陸っていう説、俺今なら信じられるぜ」



 ラドが呟く。


 確かに、これは確実に人工的に作られた遺構だ。道すがらところどころに落ちている遺物アーティファクトも、その材質を見れば高度な製法で作られているのがわかる。


 そしてレーンはそれらに見覚えがあった。



「レーン、ここに落ちている変な形の。キミの家の地下にあったものと似ているね」


「ああ、ちょうどそう思っていたよ。父さんが持ち帰って来た遺物アーティファクトと、大分共通点がある」


「どうやら、ラドが言うようにここが古代人の遺構なら……レーンの御父上が持ち帰った遺物アーティファクトと同じものがここに在るという事で、その信憑性は上がるんじゃないかな。つまりはここじゃないどこかにも同じような遺跡があるという事。エトセトラに文明があったという説は濃厚になるわけだ」



 カルナが分析した言葉にレーンは概ね同意する。


 この遺跡を作った存在は、ここ以外にも遺跡を作り、住んでいたのではないかと。


 レバン達もそんな話を興味深くしていた。特にフランタックは考古学や歴史に興味をそそられるのか、めぼしい遺物アーティファクトを既にいくつか回収していた。


 と、そんな折、再び先頭のレバンが後列に止まれという指示。そして同時に背中の大剣に手をかけた。


 ラドも剣と盾を構えている。レーンはすぐさま合わせるように背中に背負っていた杖を左手に握った。



「敵だ。魔物が数匹。ヘタに刺激して仲間を呼ばれると厄介だ。やり過ごすか、迅速に倒すかだが」


「このあたりが前回来た地点です。この先の地形の把握がまだな以上、魔物の巣窟でいたずらに戦うのは不利ですね」


「でも通路のど真ん中だぜ? あれをやり過ごすのは難しいんじゃねーかな。回り道にしたって、地図を見た感じだと結局ここを通るしかなさそうだし」



 ラドは魔物から目を離さずに言う。


 レーンは少し前進し、魔物の姿を目にとらえる。手帳によれば既存種だ。薄暗い洞窟に住む肉食の魔物。二本の足で立ち、二本の腕を持つ骨格は人と近しいが、尻尾を持ち、頭部は大きく、大きな耳と牙の覗く口、そして対比して小さな目が赤く光る。人差し指からは異常に発達し鎌めいた爪が伸びている。


 どうやら闇守人カースキーパーと言う魔物らしい。


 ヴァンドールでも見られた蜥蜴人ハーフリザードに近い容貌だが、足の指の先が膨れており、歩いた際に粘着質な水音がすることから亜種と見える。よく見れば全身もてらてらとした体液ぬめっており、レーンは先ほど足元で感じたぬめぬめはあの魔物が移動した跡なのではと思い当たった。



 数は……7。


 他にも潜んでいるかもしれないが、視認はできない。



「周囲の感知をしてみます」



 レーンの提案にレバンは頷く。


 レーンは最早癖となった指を組む動作をして、杖を地面にたてると目を閉じて操霊術を行使する。



二重紋魔術式ダブルスペル……風と大気よ、その指は万象に触れるだろう……〈大気の教え(ルフレット)〉」



 言葉と共に、レーンは大気に満ちる霊素を辿る。


 大気中の霊素に感応し、範囲内の物体の動きや生物の呼吸などをつぶさに感知する索敵術。


 術士の技量次第では街一つすら効果範囲となり、生物の存在や物の動きなどを空気の動きから感知できる。


 レーンが用いた場合の効果範囲は半径50m程。大分広い範囲と言っていい。


 集中し目を閉じているレーンを守る様に、カルナが前に立ち周囲を見渡す。レバンやラドも武器を構えたまま警戒し、ユルネアとフランタックもすぐに術を発動できる体勢。



 やがて感知を終え、レーンが目を開けると大きく息をつく。



「どうだ?」



 レバンの問いにレーンは答える。



「少なくとも近くにはあの魔物たち以外はいないようです。と言っても、叫ばれたりすればわかりませんが……」


「わかった。よし、倒そう。ユルネア、念のため俺とラドに〈消音(サイレス)〉をかけてくれ。二人でやる。フランタックとレーンは警戒を頼む。……っと、そうだな」



 ユルネアから足音や鎧の擦れる音等行動によって起きる音を消す風属性魔術〈消音(サイレス)〉を付与してもらいながらレバンはにやっと笑ってレーンに言う。



「お姫様を借りていいか?」



 レーンはその言葉にカルナを見る。カルナはレーンに向かい笑って頷いた。



「……はい! カルナ、お願い。魔術は使わないで。代わりに、この前みたいに僕の魔力を使っていい」


「心得た。風のように殲滅してご覧に入れようじゃないか」


「っはは! 俺とレバンさんの活躍、奪わないでくれよ」



 笑うラドに並び立ったカルナ。


 そして、レバンの合図で3名は闇守人(カースキーパー)の群れに突撃していった。


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